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ep25:疾風

「ソルヴェ、そいつに仕掛ける」


ゼンは通信と同時に引き金を引いた。


放たれた弾は、寸分の狂いもなく敵機のストレージをえぐった。

狙い通りだ。狙い通りだが、殺意のない一撃は敵の勢いをわずかに削いだに過ぎない。


しかし、ソルヴェはその隙を見逃さなかった。

ゼンの通信を受け狙いを定めていたソルヴェ機から、一瞬遅れて連弾が叩き込まれる。


挟撃が成功した形だ。敵機が、ゆっくりと海面へ堕ちていく。

その結末を、ゼンは無意識に視界から外していた。


それはゼンの迷いでもあったが、自身に集まる視線を感じたからでもある。

ゼンの武装が長距離からの狙撃であると理解したであろう、残る三機の敵意が、一点に集中する。


「くっ、このまま……!」


連れてきてしまった二機ごと抜けるべく、加速する。

……加速?


いつの間にか、ゼンの背後に敵影が迫っていた。

狙撃の反動が予想以上に機体の速度を低下させてしまったことに気づく。


回避行動に移ろうとしたゼンと交差するように、前方からソルヴェの機体が飛び込んでくる。

そのまま鈍い音が響き、殺気が消えた。


旋回しながら背後を伺うと、ゼンに迫っていた敵機とソルヴェ機が堕ちていくのが見える。

ソルヴェがゼンをかばったのだ。


「ソルヴェ!」

「……甲板に戻る…………、弾切れには期待するな」


短く、しかしはっきりとした通信が届く。


「敵の射撃の前に接触したようだ。相手もまだやる気だ」


ロスルの音声サポートに胸をなでおろす。


低空の敵機も傷というわけではないのか、すぐに追ってこない。

ソルヴェ機は満身創痍のまま、研究所の方向へと向かっていった。


後に残されたのは、ゼン一人。対するは三機。

うち一機はソルヴェの衝突で動きが鈍っているが、数の不利は覆らない。

ここで自分が食い止めなければ、すぐにでも研究所へ転進するだろう。狙撃のために距離を取りすぎても同じだ。


「引き付けながら避けろ。ソルヴェが与えたダメージは軽くない。あの一機は置き去りにできる」

「火力分を機動制御に振りなおせる?」

「了解」


攻撃を捨て、囮に徹する。敵の射程と射線を読みながら回避に専念する。

五体満足な二機だけならば包囲されはしまい。


* * *


そう考えていたのだが、相手もなかなかに執拗だった。

近距離の攻撃がないと見切られているのが痛手だ。


こちらが優っている速度も、近距離での組み合いでは活かしきれない。

徐々に敵の攻撃がゼンの機体を捉え始めた時、研究所の方角から新たな機影が空を裂いて現れた。


……ソルヴェが戻ってきたのか?


いや、違う。

レシオのアレスだ。


紅い流線形の機体は、そう動くことが自然であるかのように、一瞬のうちにゼンを追っていた一機の真横に並び立つ。


アレスから伸びた光の鞭がしなり、敵機を薙いだ。

衝撃を感じさせる音すらなく、機体はいくつかの破片となって霧散した。


その動きに動揺したのか、二機の敵機が反転を始める。

しかし、ソルヴェにダメージを負わされていた一機をアレスは見逃さなかった。

低空を飛行する機体に追いつくと、背後から貫き、二機目の敵を撃墜する。


残った最後の一機は躊躇なく全速力で戦域を離脱していった。

レシオは、それを追う素振りも見せない。


戦闘は、終わった。


* * *


レシオに導かれるようにして、ゼンは甲板へ帰投した。

ストレージがひしゃげた機体のそばに、ソルヴェが立ってこちらに手を振っている。


「ソルヴェ。僕をかばうなんて。機体が……」

「ああ、いいんだ、いや機体は良くはないが。お前がやられると気分も悪い。それに一番の原因は、あいつらだ」

「それは、そうだけど。……これから、どうするの?」


アレスから降りてきたレシオが、ソルヴェに歩み寄って言った。


「遅くなり申し訳ありません。副所長に確認していたもので」

「あんた……いや、助かった。その副所長のところへ着いてきてくれるか?ゼンは、休んでろ」


レシオは頷き、視線をゼンへ向けてから、ソルヴェとともに船内へと入っていった。


ゼンは、追わなかった。短い戦闘だったが、疲労感で動けない。

人を撃つ逡巡。自身をかばったソルヴェ。

とてもじゃないが、何かを護れたとは言えなかった。


人の命を奪うことが怖いんじゃない。

守るために命を奪う、それは力を持つ者の運命だろう。

人の命という重さが、空にあること。そして、今まで無限だと思っていた空が狭くなること。

それがゼンにとって、恐ろしいことなのかもしれない。


夕陽に照らされ、動くことのできないゼンの鼻腔に、潮の匂いが抜けていく。

闘いの閃光の痕だけが、瞼の裏に残った。

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