ep24:交錯
ソルヴェが通信を飛ばし、呼びかける。
「所属と目的、訪問先を言え。応答なき接近は敵対行為とみなす」
潮風が通信音をさらい、海に溶かしていく。しかし応答はない。4つの機影は、菱形の編隊を保ったまま崩れることもなく接近してくる。
ゼンはスコープを覗く。既に射程内ではある。どんな性能かわからないが、狙撃が有効ならば射程でゼンははるかに有利だ。
しかし……撃っていいのか。
そして撃てるのか。
「ロスル、浮遊盤はどこを狙えばいい?」
震える声に音声が答える。
「飛行能力を奪うならばストレージの一部を破壊することだ」
ひと呼吸おいて言葉が続く。
「……その後どうなるかは、事故だ」
ゼンは改めて銃把を握り込む。
あえて息を吐き、深く吸ってからソルヴェに問う。
「もう敵でしょ。このまま先手をとらせるの?」
「……様子を見る。二手に分かれよう。それぞれ研究所から離れておく。相手の狙いがわかるからな」
「了解」
高度を上げ、加速するソルヴェ機。
宣言通り、少し逸れた方向へ飛んでゆく。
「始めるなら、研究所から離れた地点だ。あっちが撃ってきたら対応していい」
「……了解」
ゼンもソルヴェと離れる方向に高度を上げる。
間もなく編隊は2機ずつに分かれ、ソルヴェとゼンに向かって進路を変えた。
第一の狙いは、護衛か。
研究所への強襲はないと見ていいか……?
ソルヴェはある程度飛び、編隊に向き直ると接近に切り替えた。
互いを阻むものは、もはやない。みるみるうちに互いの距離が縮まる。
ソルヴェは相手の射程を予想したのだろう、降下しながらすれ違った。
その時、敵機から敵意を持った光が放たれる。
「実弾だ」
ロスルの判定。その意味を思考する余裕はなかった。
光弾はソルヴェ機の脇を抜け、後方の海面に白い水柱を立てる。空気を引き裂く高い音が遅れて届いた。
旋回するソルヴェの機体から小さく光が放たれる。後ろにつけた一機からも同様の射撃。
互いの弾道が空中で交差し、弾けた。ソルヴェが後方に攻撃を向けた一瞬後、その射線と重なった機体がぐらりと傾く。
「……当てた」
浮遊盤同士の戦闘は初めて見るものの、イメージの範囲内で、なんとか目はついていく。
高速のサーペント、アレス、ソルヴェ機。ここのところ目にした動きが思い起こされる。これが経験というものか。
被弾した敵機はぐらついたものの持ち直したようで、再び上昇しはじめる。
意識を切り替え、ゼンは自身に向かってくる機体をスコープに収めようとする。が、狙いが定まらない。
心音が大きい。耳の奥でごうという音が鳴る。スコープの景色が小刻みに揺れている。
「撃つな。撹乱を」
冷静な声が届く。バイタルで筒抜けというわけだ。
ロスルが戦闘中に音声を発するのは異例で、だからこそ、自身が平常心ではないということを自覚せざるを得ない。
「……あちらは狙撃を知らない。手の内を明かすのは、当てる時でいい」
「なんだ、フォローか?今日は優しいね」
「落ち着いて見ることだ。こちらの方が速い」
ソルヴェも速度で優っており、下がり気味に対応している。こちらの二機を引きつけることができれば、役には立つ。
ゼンはわざと低めに飛び、海上すれすれで敵機と交差すると、90度転回してソルヴェの方向に背を向けて飛ぶ。
敵機は交差する射線をとろうとしているようだ。
追いすがる一機が発砲し、海面にしぶきが立った。
あれくらいなら少しかすっても耐えられそうだ、とも思う。
「確かに、遅いね」
今は撃たないと決めたことで、少し頭が回ってくる。
景色が見える。空と海。研究所。
雑然とした甲板。あちこちで反射する光。
それらが視界に入り、線を引いて消えていく。
「撃つのは、あっちだ」
ソルヴェの発案には反するが、今できることをやろう。
数秒、敵を引き付ける。高度差をつけ、捕まらないようにする。
さらに反転し、ソルヴェ方向へまっすぐ飛ぶ。
ゼンを追ってきていた二機は追いつけない。
眼前に、互いに弧を描く三機が見える。ソルヴェを追う一機と、それを追うソルヴェ機。そして、彼を狙うもう一機。
距離300。
三者がもつれ合う光景が、一瞬スローに見える。
ソルヴェが追う一機に狙いを定め、その進路に弾を置くように、撃った。
相棒からの静止は、今度は発されなかった。




