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ep22:編隊

研究所構造物の内部は、通路が狭く入り組んでいるものの、全体の部屋割りは単純である。

特に前後があるわけではないが、進行方向を「前」とすれば、前方が居住区、後方が作業区、その間が共用部といった形だ。


居住区にはゲストハウスや研究室もあり、最も人口密度が高い、らしい。

ゼンら3人はそれぞれ、ゲストハウスにあるドック付きの一室を借り受けた。

ソルヴェの部屋にほど近い並びの3室だったが、ジェリはすぐに誰かの研究室へ行ってしまった。


部屋は簡素な生活用具があるだけでがらんとしているが、壁の一面が半透明の外殻で構成されており、モニターが埋め込まれている。壁に触れることで館内通信や研究の何かしらができるらしい。

いわば、居住区全体がひとつの巨大な機体のような造りなのだろう。街との技術水準の差が大きいことに、ロスルが興奮しているようだった。

梟でこうなのだから、ジェリは推して知るべし。しばらく相手をしなくて済みそうだ。


後方にある作業区は、安全のため装甲版で区切られており、ストレージ庫や解体作業のためのドックがある。

甲板から物資を運び込むための大口の搬入口もあるようだ。


共用部は街のタワーと同じように行政・医療機能や食堂、交流スペースがあるエリアだが、ほとんど人影はない。


「変わり者の中には、解体作業区に住み着いてるやつもいるからな。近づかない方がいい」


案内してくれた時、ソルヴェはそう言って笑った。


* * *


平和に数日が過ぎた。


案の定、ジェリはあちこちへ飛び回っている。解体作業区の方へも入り浸り、たまに食堂で大声を上げているらしい。

レシオも時折すれ違う程度で、あまり見かけなかった。


ゼンは部屋にいるか、飛んでいるかのどちらかだった。

ソルヴェの手伝いのつもりで参加した哨戒任務は、しかし、どこまでも続く青い海の上を飛ぶだけに終始している。

それでも誰かに縛られることなく、光らない海を飛んでいるのは、ゼンにとって得難い経験だ。


ある日、部屋に戻るとすぐにジェリが突撃してきた。


「いた!ゼン!コア!やっぱりちょっと青が混ざっててたよ!マザーの力……そのものとは言わないけど、ランク5の幅に収まらない出力が期待できるみたい!」


興奮気味にまくし立てる彼女の目は、完全に研究者だ。


「ただ、制御は難しいんだ。今あるチップじゃ、安定して取り出せるパワーは普通と変わらなくて……、でも絶対、ここでなきゃいいモノは作れないし……、もっと素材が欲しいなあ」


「鉱山か、海中だな」


「機体が、ないんだよー!!」


「"普通のパワー"が出せるならば、ホバー化して乗れば良いのでは?」


ロスルが応じると、曇っていたジェリの顔が、一瞬で満面の笑みになった。


「それだよ!ストレージになりそうな単座なら、ドックにあったはず!ありがと!できたら言うね!ゼンは護衛!じゃね!」


一方的に叫んで、彼女は弾丸のように飛び出していった。

ゼンがロスルを睨むと、心なしか気まずそうにパタパタと羽を振った。


* * *


しかし、その遠征計画は進展しなかった。

翌朝、部屋のモニターから音声だけが響く。館内放送だ。


『あー……通達。未確認機4機、発信なし、応答なし。所属不明。受入者ホストがいたら連絡ください』


気だるげだが、どこか切迫した声がスピーカーから流れる。


『対応、ソルヴェ。念のため、第2待機体制。船はこれより回避行動に入りますんで、よろしく』


第2待機は外出不可になる。研究所が回避していある間は、海中に出た探索機を回収することができなくなるためだ。

ゼンは部屋を飛び出し、ホバーに乗り込むと甲板への連絡通路に入る。そこにはソルヴェが既におり、飄々とした様子で出撃準備を整えていた。


「大丈夫、そう構えなくても。よくあることさ。補給目当てか、航路を間違えた連中だろ」

「僕も行くよ。ジェリやコアを護衛するのが任務だ」


ゼンの眼差しに、ソルヴェは一瞬だけ目を細め、肩をすくめた。


* * *


甲板を吹き抜ける風が、いつもより強く、冷たく感じられた。接近機体に背を向けるように旋回する船体が、海面に巨大な白い航跡を描いている。


ゼンの肩で、梟が言う。


「単機ならまだしも、4機編隊での無通信接近は意図がないとは考えにくい」


その懸念を振り払うように、ソルヴェが言った。


「まずは目的とホストを聞く。救援なら甲板に居てもらう。でも、もし連中に敵意があるなら――戦う」


ゼンは小さく息を呑んだ。脳裏に、ライフルのスコープが捉える光景が浮かぶ。その相手は、虫ではなかった。


海岸から、急速に近づいてくる4つの黒点が、不気味に映っていた。

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