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ep20:アレス

街から海上研究所への行程は4日かかった。


東の海岸に直行できればよいのだが、今回は護衛。できる限り、山脈と虫の海を避けるルートをとった。


ある程度の標高がある山沿いに南下し、山脈を迂回すると、海までの広大な森林地帯が広がる。

森林や高低差のある地形では、はぐれ者だけでなく、虫の海内の衝突や爆発で弾き出された個体が飛び出てくることも珍しくない。


グライダーを牽引するゼンは、戦闘において本来の機動力を発揮できない。その状況をレシオは理解し、先行して斥候役を務め、遭遇した虫のほとんどを引き受けてくれた。


「護衛になってなくてすみません」

「独りで飛んでいても同じですから、気にしないでください」


レシオの微笑みに頷くしかなかったが、「独りで飛ぶのと同じ」ではない。


単身、目的地へ向かうだけならば、遭遇したとて撒けばいいだけのこと。彼の「愛機」はそれくらいの機動は容易だった。


レシオの戦闘は、無駄がなく緻密だった。

余所ユニオンの狩人がどのような戦い方をするのか、ジェリばかりではなくゼンも興味があった。


流線形のストレージを持つ「アレス」は、虫の群体を発見すると、その速度をさらに上げた。


その切り込み方はエラに近い。しかしエラを刃とするならば、レシオはしなやかな風と表現すべきだろう。


虫たちの緩慢な動きをあざ笑うかのように、わずかな隙間をすり抜け、反転し、死角から襲いかかる。ヒット&アウェイを繰り返しながら、複数のホエールを同時に相手取り、外殻を手数で削り取っていく。


その攻撃を担うのは、機体から伸びる二本の鞭だった。機体から伸びるそれらは、細く視認が難しい。戦闘になると瞬時に伸長し、敵へと襲いかかる。


ゼンの狙撃の方が一体あたりの処理速度は速いかもしれない。だが、レシオは常に先手を取り、危なげなく敵の数を減らしていく。経験を思わせる安定感があった。


「鞭の先端が高温。どうやら突き刺すダメージというよりも、焼き切る、あるいは溶かす、といった効果を狙っているようだ」


ロスルによる機体スペックを推定は、このようなものである。


* * *


浮遊戦闘機(アレス)/搭乗者:レシオ


コア:ランク5

高度:最大200m

速度:時速150km


ストレージ:

 ・航空機(単座)

チップ:

 ・防護服

 ・高機動補助

 ・ヒートウィップ制御

 ・熱量制御


武装

・ヒートウィップ

 ・射程:短~中、威力:中、範囲:小

・???

 ・射程:?、威力:?、範囲:?

・レーダー

 ・精度:中、範囲:大


* * *


レシオ機「アレス」はジェリの心を奪ったようで、降りるたびに彼女はあれこれとレシオに尋ねていたが、長くなるうえゼンには難解だったため割愛する。


ふと、レシオがマザー戦にいたらどうだったろうか、とゼンは思考の隅で反芻する。


機体性能の差は、さほどないように思えた。ストレージの構造は独特だが、空を飛ぶためのコア出力そのものに、所属組織による絶対的な差はないのかもしれない。


あるとすれば、それは戦術と指揮の差だ。つまり、乗り手の差。レシオは単機ではもちろん、おそらく複数、部隊となっても冷静に導くことができるのだろう。

それが羨ましいような、そこに加わってみたいような気もする。コアをくすねるのは、難しくなるか……。


そんな無為な思考を巡らせているうちに、視界の先に、どこまでも続く水平線が広がった。いよいよ海岸が見えてきたのだ。


陸と海の境界線、ところどころに、虹色に鈍く輝く堤防――「ストレージ鉱山」が見える。南側には小高い山と呼べるほど成長した鉱山がある。あれが研究所の採掘ポイントだろうか。


さらに沖合に目を向けると、巨大な影が浮かんでいるのが見える。移動式海洋資源研究プラットフォーム、通称「海上研究所」。街のタワーを横倒しにしたほどの威容を誇る、動く研究要塞だ。


「ロスル、通信を」


出立前にジェリから指示されていた手順だ。研究所まで40kmを切ったら、こちらの識別コードと目的を伝える必要がある。


「用件はコアの調整。当方所属、および随伴二名。信号はしばらく飛ばしておく」

「了解」


少しだけ雨の日もあったが、大きなトラブルなくたどり着けた。

ひとまずの任務達成に、ゼンは細く息を吐いた。

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