ep19:ねらい
「ジェリ、レシオ卿を困らせるな」
レシオの表情にうすら寒いものを感じて、思わずゼンは口をはさんだ。
ジェリはきょとんとした表情で言う。
「困る?なんで?」
なぜと言われると……ハッキリと答えられない。
レシオはジェリの目を見つめている。
次にゼンを。
最後に、傍らで静かに佇むロスルの硬質な瞳をじっと見た。
その数秒はゼンにとってなぜかとても長く感じられ、次に瞬きをした後には、彼は夜の山々に視線を向けていた。
「技術と、人です」
短く言葉を切り、続ける。
「ゼンくん。気を使わせてしまいましたね。あなた方も有望な人材です。お話ししましょう。私の口からは言えないこともありますが」
彼は微笑む。そして静かに立ち上がり、ジェリに向き直った。
「ジェリさん、ユニオンが求める技術が何か、ご存知ですか?」
「熱……ですよね。私は、オーフェル……室長から聞いただけだけど」
レシオが燃える薪を指先で軽く転がし、話を促す。
ジェリは思い出すように目をくるりと回しながら続けた。
「虫から安全な場所って、すごく限られてる。私たちの街は標高で距離をとって、研究所は海の上。そしてユニオンは、寒冷地に居住区を作ってる。地下に町を作っている場所もあるって」
「どこも、スカイフォールというリスクはあるがな」
傍らの梟から、合成音声が響いた。ジェリは頷き、ロスルの言葉を引き取る。
「うん。それでも、寒冷地で地表を温かく維持できれば、産業の水準も上がる。安全なまま、もっと豊かになる。……ですよね?」
レシオは満足げに頷いた。
「その通りです。より具体的には、今はランク4か5のコアで一部地区を暖める開発をしています。しかしこれをランク3コアの組み合わせでも展開できれば、はるかに広い面積を活用できる。あるいは、そう、擬似的な太陽のような、地域を照らす熱源を作る技術……その制御脳の開発について持ち帰る。これが第一の目的です」
焚き火の光が、彼の大きな顔に深い陰影を落とす。
「あとはスカウトですね。ハイランクのコアは貴重ですが、人材も貴重です。狩人の命の保証は、スカイフォールの出現に左右されています。また技術者も、その知識と技術を高く育てられる環境は少ない。もっと言えば、さまざまな実験に必要な設備を持つ場所は限られていて、そこでしか育たない。……一部の設備や技術者はランク5コアにも代えがたい、というのがユニオンの認識です。どうです? うちに来ませんか?」
最後の言葉は、真っ直ぐにジェリへ向けられていた。彼女が息を呑むのが、火のはぜる音の合間に聞こえる。
「そういうのは司令とやってください」
ゼンは焚き火に視線を落としたまま、低い声で言った。
レシオはゼンの反応を楽しむかのように、くつくつと喉を鳴らして笑う。
「当人の意思も尊重されるべきでしょう?……いや失礼。ですが、考えておいてくださいね」
話は終わった、とでも言うようにレシオが立ち上がると、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。ゼンとジェリもそれに倣い、それぞれの機体へと向かう。
各自の寝床はそれぞれの操縦席だ。
ゼンはホバーに乗り込むと、すぐに機体を浮上させた。眼下でジェリが手を振っているのが見えたが、彼女の表情までは読み取れない。
ロスルに航路を任せ、身体をたおす。あと2日とかからずに着くだろう。
さっきの話、ジェリはどう感じたのだろうか。
ホバーの外殻がほのかな光を纏っている。風を切る音だけが聞こえる静寂の中、ロスルが呟いた。
「多くを話しているようではぐらかされたな」
「レシオ卿も話せないこともあると言っていたじゃないか」
「相手によるが、疑うことも必要だ。人と関わらないことは考えないことではない。ジェリは観察し、はるかに深く考えている」
「そうか?」
「この話題も、彼女なりの探りだよ。レシオは分かっていたフシがある。ゼン、もう少し緊張感を見せろ。レシオに侮られかねない」
「……だから、重いんだって」
相棒の忠告を胸に、ゼンは静かに目を閉じた。




