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ep18:孤独

ホバーの修理が完了したと聞き、ゼンはすぐにドックに向かった。3日ぶりの平穏が戻ってくる。


さっそくタワーを離れ向かった先は、いつもの集積所。灰色の空の下、かつて物資の集積拠点だった場所は、今では巨大な鉄骨の残骸とコンクリートの瓦礫が散らばる、ビルの森だ。


エラか、あるいは他の砦が来た後なのだろう。虫の姿はまばらだった。少し物足りないが、今のゼンにとっては好ましかった。


誰に気兼ねすることなく機体を空に滑らせる。思考が澄み渡っていく感覚。


人嫌いの自分が、先日も、この後もチームで行動させられている。みな心根の良い仲間だが、気を使うのも、使われるのも、存外に疲れるものだ。


一人きりで空を飛び、黙々と標的を探すこの時間は、自分を取り戻せるような気がした。


ゼンは、ドックで生まれ変わった浮遊盤を受け取った時のことを思い出していた。


ホバーの改修設計はもちろんジェリによるものだ。しかし遊び歩いたツケで研究室に籠りきりとなった彼女の姿はなかった。

代わりに、鉄と油の匂いを染み込ませた整備班のチーフが、疲れた顔で笑って言った。


「お嬢の設計ちゅうもんは相変わらず無茶苦茶でな。お前の機体のストレージじゃ、そう遠くないうちにバラバラよ。遠征だって言うじゃねぇか。基礎構造から作り直す羽目になったが、おかげで面白いモンができた」


その言葉を、今まさに実感している。機体の追従性、エネルギー効率も以前とは別物だった。


ゼンはロスルに語りかけるように、独りごちた。


「何日もかけて何をしてるのかと思ったけど…大したもんだ。素晴らしい仕事だよ」


やがて、瓦礫の陰から姿を現した数匹のホエールと、それに群がるマンタたちを、ゼンの視界が捉えた。試運転の相手としてはちょうどいい。


ゼンは高度をとり、いつものようにバーストと精密狙撃を切り替え、群体の側面を削り取っていく。ホエールを2体処理したところで、さらに距離を取った。深呼吸を一つ。そして、短く呟く。


「――スイッチ」


瞬間、機体にかかるGが変化した。ロスルとスーツが直接、銃にからみつく。高度だけはそのままに、ただ一射のためにエネルギーがライフルへと注ぎ込まれていく。


引き金を絞ると、いかづちのような帯がホエールを貫いた。

すぐにロスルが復帰する。


「フルバースト比、85パーセントの出力だ」


ロスルの冷静な分析が響く。扱いづらかったフルバーストのから、ホバー機能のみ残してチャージし、その後自動解除する新たな型。短期強化スイッチバーストだ。


* * *


浮遊盤(梟改)/搭乗者:ゼン


コア:ランク5

高度:最大140m

速度:時速120km


ストレージ:

 ・操縦席(単座)

 ・格納庫(木造)

 ・ライフル(一丁)

チップ:

 ・浮遊盤

 ・エージェント(梟)

 ・防護服

 ・火力補助

武装

・狙撃(通常弾)

 ・射程:最長、威力:小、範囲:小

・狙撃(炸裂弾)

 ・射程:長、威力:中、範囲:中

・狙撃(炸裂短期強化)

 ・射程:長、威力:大、範囲:中

・レーダー

 ・精度:中、範囲:大


* * *


ゼンは通常モードのまま残敵を掃討すると、戦果を確認した。ランク3のコアは一つもない。


しかし、新しい翼の手応えは十分だった。問題は、これをグライダーを牽引しながらでは使えない、ということか。道中は、また別の戦い方が必要になりそうだ。


試運転を終え、ゼンは機首をタワーへと向けた。


ポートには、見慣れない機影が二つあった。一つは、レシオ卿の単座機だろう。街のホバーとは明らかに設計思想が異なる、鋭角的な流線形。対虫戦闘を主眼とする街の機体とは違う、どこか冷たい機能美があった。


もう一つは、ジェリが乗り込んだグライダーだ。動力を持たない機体は、2機の戦闘兵器の間にあって、ひどく無防備に見える。


ゼンは言葉少なに頷くと、ホバーを慎重に操作し、グライダーの後部へと回り込む。機体下部に取り付けた牽引アームが、硬質な音を立てて連結される。グライダーのコックピットから、ジェリがふにゃふにゃの敬礼をして合図を送ってくる。


レシオ卿の機が先行する。それに続くように、ゼンはグライダーを牽引しながらゆっくりと高度を上げた。仲間たちに見送られることもない、静かな出立だった。


3つの機影は街の上空を抜け、やがて一つの点となり、東の空――海上研究所を目指して消えていった。


* * *


出立から二日目の夜。ゼンたちはグライダーの発着が可能な地形を発見し、野営をしていた。パチパチと音を立てる焚き火が、休息する3機の機体と、それを囲む3の顔をぼんやりと照らし出している。


「海上研究所、楽しみですね。あそこは少し特殊な場所ですから」


薪をくべながら、レシオが切り出した。


「食料の自給が難しく、コアを補助食にしても、あそこで暮らせるのは25名が限界です。中は各員に研究室が与えられ、皆が勝手に生活している。互いに干渉しない者もいれば、目的のためにチームを組む者もいる…自由ですが、孤独な場所でもあります」


ジェリが研究者としての興味に目を輝かせる横で、ゼンは黙って話を聞いていた。


傍らで梟の姿を維持しているロスルが、この会話に一切加わってこない。ただ、その果実とも水晶とも言えないような瞳で、レシオをじっと観察している。


「街の司令殿や研究室長殿も、かつてはあそこにいたとか。我々ユニオンにもOBがおります。どの勢力にも属さない中立の独立機関として、残された我々の技術水準を、あの場所が支えているのです」


レシオの話が一通り終わると、焚き火の薪がはぜる音だけが響いた。その沈黙を破ったのは、ジェリの純粋な問いだった。


「レシオ卿は何の用事で向かってるんですか?うちのコアみたいな輸送依頼じゃないんですよね?」


レシオは表情を変えず、にこやかなまま彼女を見つめ返した。

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