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ep17:特性色

時は戻り、ゼンたちが海上研究所に到着する7日前。


タワー低層のハンガー。ゼンはその片隅にうずくまり、ホバーが修理される様子を眺めていた。


「非生産的」

「うるさいな……、そうだ、いまのうちに店の倉庫にある私物を運ぼう」

「一人でか?」

「任せるよ、ロスルくん」


オヤジの店の倉庫に置かせてもらっている私物は大した量ではない。とはいえ、ゼンひとりで街中からタワーへと運ぶのは手間がかかりそうだ。


高く造られた天井を仰ぎ見る。金属音が壁に反響して心地好い。


その静寂は、一人の来訪者によって破られた。


「ゼン! ホバーの修理、あと3日くらいだって!よかったね」


分厚い書類を両手に抱えたジェリが、弾むような声でラボからハンガーへ入ってくる。

砦は司令のひと声で動くが、研究者の世界はまた別の規範があるらしい。彼女の抱える5センチほどの書類が、今回の「人材派遣」にどれだけの手続きを要したかを物語っていた。


「うん、早く済んで欲し……、」

「なんと3日も私の準備を手伝えるよ。楽しみだね!」


ゼンの計画はお構いなしに、ジェリが今後の予定を一方的に展開する。


「まずこれ!」


彼女は書類の束から一枚を抜き出し、ゼンの目の前に突きつけた。そこには『使用許可証(単座航空機)』と印字されている。ゼンが意味を解しかねて首を傾げると、ジェリは得意げに解説した。


「レシオ卿は単独航行だからね! 私とコアは、グライダーに乗って行くの。ゼンが牽引役ね。エンジンも付いてるけど、化石燃料は超貴重だから、本当にヤバい時しか使っちゃダメだって室長が」


続けて、彼女は買い出しリストが書かれた紙を広げる。


「準備金もたんまり貰ったから、食料も買い込まなきゃ! 私は木の実と魚介しか食べないからね! …あ、魚介といえば!」


きょろきょろと辺りを見回す。誰も見ても聞いてもいないのだが。


「水遊びに連れてってくれる約束、まだでしょ!」


と、強引に外へと連れ出される。ゼンは呆れつつも、結局その背中についていくしかなかった。


* * *


それから丸一日かけてあれこれと街を巡り、翌日は例の水浴びだか水遊びだかのコースだ。

ホバーなしだと徒歩だが、休みつつで構わないとジェリが言うので、結局登山となった。


街から郊外に出ると、道すがら、ジェリはロスルにマザー戦の反省会を仕掛けている。


「二度の爆発のエネルギーと、生まれた虫たちのコアと外殻の総量から概算すると、取り込んだエネルギーよりも明らかに放出が大きい」

「それも変なところだよね。マザーかぁ、見たかったな……。」


やがて、ジェリお気に入りの水遊びスポットにたどり着いた。川の上流にある、木々に囲まれた静かな淵。木漏れ日が水面をキラキラと照らしている。

ジェリは早速水に飛び込んで魚を追いかけ始め、ゼンは川岸の岩に腰掛け、その平和な光景をただ眺めていた。


水遊びを終え、火を起こして暖を取りながら休憩していると、ジェリが今回の戦果であるランク5コアの話を切り出した。


「あれだけの爆発だし、メインは赤に寄ってるのは間違いないよ。でも繁殖、だからねえ。さっきのエネルギー総量の件もあるし、もしかしたら少し青が混じってるかも」

「それは珍しいのか?」


ロスルが岩場に立ちながら問いかける。


「青が混ざってると、ランクが低いものは溶けるか崩れちゃって、なかなか観察できないんだよね」

「その、赤とか青って?」


ゼンが口を挟むと、ロスルがまず応じた。


「特性の傾向を分類したものだ。ストレージに由来し、チップやコアにも影響があると考えられている。今はその、影響を受けたコアの変質の話だ」


ジェリが言葉を続ける。


「うちの街で特性色が話題にならないのは、ほとんどが赤だからなんだよね。赤は蓄積型って言われてるの。熱や爆発、水を貯め込むのも全部赤」

「なるほど」

「んで青ね、青はストレージとか外殻が分裂したり、増殖したりする特性で、すっごく希少なの」

「ラボでは、ってことだよね。マザーを見るまでは、虫はくっついて大きくなって、分裂して増えるのが普通なんだと思ってた。境界でもときどき見る」

「そうなんだね……、たぶんその個体は青混じり。そして、ラボ的にさらに珍しいのが緑!」


ロスルも、緑の特性についてはデータにないと言う。


「緑は周囲の環境に干渉するって言われてる。でもその結果としてどういう変質があるのかよくわからなくて。個体レベルだと一部が置換されるとか、修復型も存在するらしいけど、実例が少なくて定まってないんだ……でも実は!」


ジェリはそう言うと、自身の荷物からひとつのコアを取り出した。ロスルがそのランクを見立てる。


「ランク4と推定」


彼女がコアに付属した部品を操作すると、外殻が薄く広がり、瞬時にジェリの全身を覆った。


「じゃーん! ランク4コアの防護服だよ! 私は砦の人たちほど空に慣れてないけど、これなら落ちても大丈夫!」

「…虫の海に落ちたら終わりだ」


ゼンの冷静な指摘に、ロスルが気づいたように言う。


「まさか……その防護服、虫の干渉に抵抗できるのか?それが、緑が混じっているということか?」

「わからない!でも、そうだったらいいなって。これも、海上研究所の設備なら詳しく調べられると思うんだよねー!」


ジェリは希望に満ちた目で、自身の秘密兵器を見つめた。


……色々あるんだな。


ゼンは修復というワードや、硬質化の原理について少し知りたい気がしたが、それ以上にジェリのトークスピードに酔いそうだったので黙ることにした。


夕暮れに焚火が映える。そろそろ下山しなければ。

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