ep15:ユニオン
翌日、3人は指示通り司令室に集っていた。
ゼンはいつもより幾分やわらいだ気持ちで壁際に立ち、司令の言葉を待つ。
隣に立つライルの顔色が良いのを見て安堵した。この驚異的な回復力も彼の強みだ。
ライルがえらい寝ちまったぜと鼻をかく。司令の前だが、気にしていないようだ。
ゼンもあの後、昼から寝通しで、目覚めると深夜だった。
暗がりの中、ロスルが照明を灯し、デスクに食事の用意があると教えてくれた。ジェリが夕飯を運んでくれたのだというので、ありがたく平らげた。
それから道具の手入れをして、明け方にオヤジのところへ顔を出し、こうして司令室に参上したというわけだ。オヤジは多くを語らなかったが、満足そうな笑顔で見送ってくれた。
司令が口を開く。
「ライル、貴様は前線に戻れ。機体は修理済みだ。ライル機を優先したため、エラとゼンの機体はもう少しかかる。
エラ、今回の作戦とスカイフォールに関する報告書を作成。その後、機体修理の完了を待って資源調達任務に復帰しろ」
司令の視線がゼンを捉える。
「ゼンには護衛任務を与える。ここに残れ。以上、解散」
ライルとエラはゼンに軽く声をかけ、部屋を出ていく。すぐにそれぞれの仕事にかかるのだろう。
残されたゼンは表情の読めない司令の喉元をぼんやりと眺めつつ、思考を巡らせる。そういえば、確保したランク5コアについて司令は何も言っていない。護衛任務と関係があるのだろうか。
街にあるランク5コアは、ホバー用の8つと、タワーを支える8つ。それ以外に、実はもう2つだけ存在する。虫の海を非戦闘員が渡るための飛空艇が2機あり、その推進力として組み込まれているのだ。
飛空艇は定員6名程度の小型機で、一機は公用機として司令を含む一部の政官が利用し、残る一機は民間の商用機として物資の運搬に充てられている。民間人の利用機会はほとんど用意されない。
砦による護衛とは、これらの飛空艇が危険な空路を行く場合の随伴を指す。ゼンの狙撃スタイルは小回りが利き、遠距離から障害に対応できるため、護衛任務では重宝されていた。
そんなことを考えていると、「失礼」という声とともに大柄な男性が司令室に入ってきた。
そしてその後ろから、見慣れた影がひょこりと顔を出す。
――ジェリ?
ゼンは内心の驚きを悟られまいと表情を保った。
ジェリはゼンの姿を認めると、「よっ」とでも言いたげに片手を挙げてみせた。
司令が任務の説明を始める。
「こちらは北方領域連合の狩人、レシオ卿だ。知っての通り、ユニオンは本島から海峡を越えた大陸において、虫が及ばない寒冷地を居住区とする領域国家の連合体である。この度、任務で海上研究所を訪れる道すがら、視察を兼ねて当市に滞在されていた」
「よろしく。お若い『砦』さん」
レシオがゼンを見て微笑む。司令は話を続けた。
「お前たちの奮闘により、無事ランク5コアの入手に成功した。ラボでの加工もできなくはないが、エネルギー資源が安定している今、海上研究所で最新のチップと出力調整を施してもらうこととする」
ジェリがなぜか自慢気に、うんうんと頷いている。
「ラボの設備と技術は残念ながら先端的とは言い難い。最新の知識を習得し、この街に持ち帰ってもらう人員を同行させる。ゼン、お前の護衛対象は、レシオ卿、コア、そしてジェリだ」
レシオが補足するように口を開いた。
「私は愛機がありますし、戦闘を避ければ虫にやられる心配はありません。無理を言って道案内をお願いしたというわけです。コアとエンジニアを優先してください」
彼は終始にこやかだ。司令の倍ほどもある体躯だが、天井を気にしてか少しだけ首をもたげており、緊張感がない。
「往復にコアの加工を踏まえると、ひと月ほどの行程になるだろう。少し羽根を伸ばすといい」
「了解。修理が済み次第、出立します」
司令なりの労いということか。
ゼンは敬礼し、ジェリと共に部屋を辞した。
下層へ向かう道中、隣を歩くジェリが口火を切る。
「いやー、緊張した! ってことで、ラボ寄ってかない? 機体の修理状況、見ておこうよ」
「うん……よその狩人、初めて見たよ」
「すっごい大きい人だよね!強そう!」
「ユニオンの機体には興味がある」
ロスルはどこか嬉しそうな声色だ。
「あ、わかる! 私も興味あるなー!レシオさん、ただ者じゃない感じだし、『愛機』って言ってたから、独自調整かもしれないよ……!」
ジェリが目を輝かせて話す。自分のセリフに自分でテンションを上げる自家発電だ。
どうやら今回の任務、好奇心旺盛なエンジニアからレシオ卿を護衛する、という側面もありそうだ。




