ep11:頑強
結果として、ゼンの読みは合っていた。
機動力と防御を捨て、ホバーコアのほとんどを火力に転用した炸裂強化。
放たれた光の矢は太く、マザーに着弾するたび、その歩みが一瞬止まるだけの衝撃を与えている。
十発を超えた頃、本体の外殻が厚みを増し、硬質化を取り戻しつつある様子に気が付く。繁殖で放出したエネルギーが、再び蓄積されている証拠だ。
ロスルの演算サポートはない。風を読み、距離を測る。脳裏に再生されるのは、引退したオヤジの声だ。
――相手に意識をやるな。自分の身体と銃、弾道だけを考えろ。
「…わかってるよ」
呟きを聞く者はいない。一射ごとに機体が大きく後退し、照準がずれる。銃口から陽炎が立ち上り、エネルギーの再充填がもどかしい。
弾の残量にはまだ余裕がある。しかし、マザーが山あいを抜ける前にもう一度「天堕ち」させられるかは、見通しの立たない根競べだった。
今は無心に引き金を絞る、それ以外にできることはない。
* * *
エラは、遥か下で眠るライルを意識の外へ追いやるように、目の前の群体に集中する。
新たに生まれたホエールやサーペントを狩り、コアの奪取を繰り返していた。小さめの個体はチャージで薙ぎ払い、大きなサーペントからコアを奪取する。
その中にあった光の強い1つは、すぐにライルの元へ運んだ。彼の呼吸は安定し、土気色だった顔に少しずつ血の気が戻っている。同様に、傷口も塞がり始めていた。それでもまだ足りない。エラの勘が、あと1つ、質の良いコアがあれば目を覚ますと告げている。
「もっと早い、強いやつ…!」
吐き捨てるように言い、周囲を見渡す。ほとんどが漂うばかりの雑魚だ。7体のホエールを解体しても、得られたランク3コアは1個だけ。
その時、彼女の視界の端に、ひときわ大きく、滑るように移動するホエールが浮上するのが映った。構成するサーペントたちの動きが、他の個体より明らかに速い。――あれだ。
エラは機体を反転させ、一直線にそのホエールへと突貫する。周囲に複数のマンタが周遊していたが、構わず中央をこじ開けた。機体全体を刃と化し、抵抗するサーペントを両断しながら中核へと肉薄する。狙いは、群体の中央に位置する個体。
吸着してくる雑魚を振り切り、そのサーペントの懐に潜り込んだ瞬間、合金の刃を突き立ててコアだけを正確に抜き取った。群体の統制が崩れ、散り散りになっていく残骸に目もくれず、エラはライルの元へと急ぐ。
遠ざかったマザーの上空で、ゼンの放つ光条が雲を照らす。その孤独な光を見つめ、エラは呟いた。
「もう少し頑張って……」
* * *
奪取したランク3コアの投与を終え、ライルの顔を覗き込んだ、その時だった。
彼の瞼がゆっくりと開き、虚ろだった瞳が、やがて目の前のエラの姿を捉える。
「エラ……ゼンも、無事か…?」
言いかけてむせる。安堵で力が抜けそうになるエラだったが、すぐに気を取り直す。
「ええ、二人とも無事。盾が、護ってくれたから」
「そうか。……状況を」
エラは端的に説明した。
地形が変わるほどの爆発だったこと。
山喰いがマザーに変貌したこと。
繁殖によって千体を超える虫が発生していること。
その一部に素早いサーペントがいて、チップが確認できない難敵であること。
マザーは移動速度が上がったが、弱体化もしているらしいこと。
そして今、ゼンが二度目の爆発を引き起こそうとしていること。
すべてを聞き終えたライルは、ゼンの戦う空を静かに見つめた。そして、苦笑を浮かべる。
「よく特性を見破ってくれた……、ゼンの援護に行こう。エラは、羽根への攻撃を続けてくれ。いずれ効果が出てくる」
その声には、確信があった。
ライルはゆっくりと身体を起こすと、自身の機体の状態を確認する。爆風でひしゃげた盾を見ても、彼は動じなかった。
「いけるな。俺と同じくらい頑丈だ」
軽口を叩き、彼は盾を構え直す。
「行くぞ。さっさとマザーを山喰いに戻してやる」
ライルとエラの二機が、力強く浮上する。
向かう先に、ゼンの小さな機影が揺れていた。




