菊乃屋の危機
翌日、太郎と家康は神田の裏路地にある「菊乃屋」を訪れた。木造の店舗は、松月堂同様、歴史の重みを感じさせるが、暖簾は色褪せ、ガラス戸には「閉店のお知らせ」が貼られていた。店内に入ると、店主の菊池美津子(55歳)が疲れた顔でカウンターを拭いている。彼女は菊乃屋の4代目で、夫を早くに亡くし、息子の翔太(20歳)と二人で店を切り盛りしてきた。
「佐藤さん、徳川さん、わざわざ来てくれてありがとう。でも…うち、もうダメかもしれない」と美津子がため息をつく。話を聞くと、菊乃屋は地元で愛されてきたが、近隣にできた大手チェーンのスイーツ店「SweetWave」に客を奪われ、売り上げは半減。翔太は「もう和菓子なんて時代遅れだよ!俺、店継ぐ気ねえ!」と家を出てしまい、美津子は一人で店を支えている状態だ。さらに、店の老朽化で改装資金が必要だが、銀行の融資は断られ、閉店を決意したという。
太郎は焦る。「いや、菊池さん!松月堂みたいに、SNSでバズらせれば客戻りますよ!若い子にも和菓子、絶対ウケるって!」だが、美津子は首を振る。「松月堂さんの話、聞いたよ。あんたたちのキャンペーン、すごかった。でも、うちにはそんな資金ないし…翔太もいない。もう、諦めるしかないの」
家康は静かに美津子の話を聞き、店の奥に飾られた古い写真を手に取った。そこには、菊乃屋の初代店主が地元の人々と笑顔で写る姿。「ふむ。この店は、民の笑顔を百年繋いできた。戦国の世なら、領民を見捨てる城主は滅ぶ。美津子殿、この店はまだ戦える。某が、旗を掲げてみせる」と宣言。
美津子は半信半疑だが、家康の眼光に押され、「…本当にできるの?資金もないのに?」と尋ねる。家康は太郎に目配せし、「太郎よ。この戦、松月堂の術だけでは足りぬ。某の『人心掌握術』と、貴様の『デジタル』の力を合わせよ。まずは、翔太殿を呼び戻すのじゃ」と命じた。
太郎は「え、翔太!?家出した息子って…どうやって!?」と慌てるが、家康はニヤリと笑う。「戦は、まず味方を固めることから始まる。行け、太郎!」