天下人の君臨
2025年、東京・渋谷。スクランブル交差点は、昼夜問わず人で溢れ、巨大なデジタルサイネージがカラフルな広告を吐き出し続ける。佐藤太郎(28歳)は、その喧騒の中で立ち尽くしていた。スーツはヨレヨレ、ネクタイは緩み、額には汗。電王社での営業成績が振るわず、上司から「数字が足りねえ!お前、いつになったら一人前になるんだ!」と怒鳴られたばかりだ。クライアントには「もっとバズる企画をよこせ!」と突き返され、疲れ果てていた。
太郎はコンビニで買った缶ビールを片手に、渋谷の裏路地をフラフラと歩く。ネオンの光が遠くで揺れ、酔った若者たちの笑い声が響く。空を見上げ、太郎はつぶやいた。「俺の人生、こんなんでいいのかな…。広告マンなんて、夢見てた頃はもっとキラキラしてたのに」
その瞬間、ゴミ捨て場の裏から「バチッ!」と青い光が迸った。続いて、ドスン!と重いものが落ちる音。太郎はビールを落としそうになり、恐る恐る覗き込む。そこには、時代劇から飛び出してきたような甲冑姿の老人が倒れていた。白髪を結い、鋭い目つき、腰には刀。まるで戦国武将だ。
「お、おじいさん!大丈夫ですか!?」 太郎が慌てて駆け寄ると、老人はムクッと起き上がり、キッと太郎を睨んだ。
「某は徳川家康、江戸幕府を開きし者なり。貴様、何者じゃ?」
「は!?と、徳川…家康!?え、え、俺、佐藤太郎、ただのサラリーマンですけど…!?」
混乱する太郎をよそに、家康は周囲を見回した。渋谷のネオン、スマホをいじる若者たち、爆音で流れるJ-POP。家康の目は驚きで丸くなる。「なんじゃ、この光の城は!?戦国の世とは別天地か!?」
こうして、戦国時代の覇者・徳川家康が、2025年の東京にタイムスリップした瞬間だった。