第八十三話 「龍神の正体」
快晴の星空の下、広場のど真ん中で傷だらけのしゃらくとアドウが、横並びで大の字に寝転がっている。既に決着のついた両者は、何も言う事なく、目の前に広がる星空を眺めている。
「・・・おい小僧。名を何と言った?」
アドウが先に口を開く。
「しゃらく!」
しゃらくが星を眺めたまま応える。
「・・・しゃらく。はは。良い名だな。・・・名を覚えておこう。この乱世を引っ繰り返すやもしれん男の名を」
アドウがニヤリと笑う。
「あァ覚えとけ! わっはっは!」
しゃらくが笑う。すると二人の下へ、ウンケイやくも八らがやって来る。
「!?」
「あれ!? お前!」
しゃらくとアドウが目を見開く。見ると、ウンケイ、くも八、シカ、ツバキと並ぶ最後尾に、城抱え商人のリコウの姿がある。
「何してんだよこんな所で!?」
しゃらくが上体を起こし、目を見開いてリコウを指差す。アドウも同様に上体を起こし、リコウをジッと見ている。
「どうも」
リコウがニコリと笑う。
「・・・つまり、そういう事か?」
顔を顰めたアドウが、軍師のくも八の方を向く。すると、くも八が静かに頷く。肩の力が抜けるアドウの横で、一人訳の分かっていないしゃらくが、キョロキョロと首を振っている。
「双方騙してすまなかった。・・・私が龍神だ」
リコウの言葉を聞いたしゃらくが驚きのあまり、再びパタリと大の字に寝転がる。
「えェェェ~~!!!?」
寝転んだしゃらくが遠吠えを上げる。その声は城外にまで轟き、町人達がしゃらくの声に驚く。
「お、お前が! 龍神!? はァ!?」
忙しなく再び上体を起こしたしゃらくが、目をひん剥いて声を裏返らせている。
「ウ、ウンケイ! お前知ってたか!?」
「あぁ」
「えェェェ~~!!!?」
再びしゃらくが遠吠えを上げる。そして再び、城外の町人達がしゃらくの声に驚く。
「・・・はっはっは。こりゃ参ったぜ。まさか身内にいたとは思わなんだ」
気の抜けたアドウが、リコウを見て笑う。リコウは黙ったままニコリと笑っている。
「理由は何だ? お前はソンカイに気に入られていたろう?」
「・・・ええ、そうですね。気に入られてからは、良い思いをさせて貰っていましたよ」
リコウが目を瞑り、答える。その答えにアドウが眉を顰める。
「私があなた方についていた嘘というのは、なにも私が龍神だという事だけではありませんよ?」
リコウがニヤリと笑う。アドウとくも八が目を見開く。
「この私の存在自体が、全て嘘っぱちです。私は行商でも何でもなく、この土地で生まれ育った。理由はこれで充分な筈」
リコウが空を見上げ、微笑んで答える。アドウとくも八はそれを聞き驚くも、納得したように肩を落とす。
「・・・ふふ。はっはっは! そしてこ奴らを巻き込み、計画通りまんまと壊滅させられたという訳だ! 見事な策士よ!」
アドウが笑う。
「笑い事ではありません。・・・してお主、ソンカイ様はどうした?」
アドウとは対称に、表情を強張らせたくも八が尋ねる。
「・・・」
ドオォン!! すると、城の方からけたたましい音がする。見ると城の戸が蹴破られており、中から盗賊の駄エ門、リキ丸が現れる。二人は大きな麻袋を背負っており、袋からガチャガチャと大きな音をさせている。
「・・・貴様ら」
アドウとくも八が目を見開く。見ると、駄エ門の左手に持たれた大刀からは血が滴っている。
「・・・」
しゃらくやウンケイらが説明を求めるようにリコウを見るが、リコウは黙ったまま目を瞑っている。
「・・・いずれにせよ、俺達は失業だな。わっはっは」
アドウが静寂を破る。隣のくも八も一気に力が抜け、その場にへたり込む。
「なんだ、注目の的じゃねぇか」
皆のいる広場の中央にやって来た駄エ門とリキ丸が、ニッと笑う。
「おい商人さんよ。俺達はずらかるぜ。じゃあな」
駄エ門がリコウにそう言うと、皆の真ん中を通り過ぎて行く。すると、しゃらくの前で駄エ門が立ち止まり、しゃらくの方をチラリと見る。しゃらくは思わず息を呑む。
「・・・中々面白かったぜ」
「ん? ・・・あァ、ありがとよ」
「お前、名は?」
「しゃらく」
「・・・しゃらく。・・・くっくっく。特別に教えといてやる。夜烏組がすぐそこまで来ている。お前らもさっさとずらかった方がいいぜ。・・・じゃあな、しゃらく」
そう言うと、駄エ門がしゃらくの前を通り過ぎて行く。しゃらくは口をあんぐりと開けたまま、駄エ門らの背を見送る。駄エ門とリキ丸は夜烏組を警戒してか、正門とは真逆の裏門の方へと向かって行く。
「夜烏組か。・・・でも俺達はなにも、ずらからなきゃなんねぇ事はしてねぇよな?」
話を聞いていたウンケイが呟く。
「フフ。関係ないと思うよ。多分、夜烏組に通報したのはソンカイだ。そのソンカイが死んでいる以上、俺達は何を言っても粛清対象だ。悪いけど、俺は去るよ。こんな所で捕まる訳にいかないからね」
ツバキはそう言うと、裏門の方へ体を向ける。
「では、日を改めて待ち合わせよう。君達には感謝してもしきれない。お礼もしたいしね」
リコウがニコリと笑う。
「・・・分かった」
シカも頷くと、ツバキに続いて裏門の方へ向かう。
「・・・じゃあ俺達も行くか」
「あァ」
しゃらくの返事を受け、ウンケイも裏門の方へ歩いて行く。
「なァウンケイ!」
しゃらくの声にウンケイが振り返ると、しゃらくは胡坐をかいたままニコリと笑っている。
「歩けねェ!」
「・・・チッ」
ウンケイが、しゃらくを肩に担いで裏門の方へ向かって行く。
「熊手のおっさん! じゃアな!」
ウンケイの肩に担がれたしゃらくが、アドウに手を振る。それを見たアドウは少し驚いた後、ニコリと微笑む。
「天下取れよ!? しゃらく! わっはっは!」
アドウはそう言って笑う。
「しっしっし! おう! 任せろ!」
それを聞いたしゃらくも笑って答える。アドウとくも八、そしてリコウの三人がしゃらく達の背を見送る。
「・・・良いのですか? 今私は丸腰ですよ?」
リコウがしゃらく達の方を見たまま、アドウに尋ねる。
「・・・舐めるなよ小僧? この戦は俺達の負けだ。貴様の首を獲るのは、貴様との次の戦だ」
「・・・“次”が無いかもしれませんよ?」
アドウの返答を聞いたリコウが、アドウを見て再び尋ねる。
「わっはっは! しゃらくさい! 俺は“不屈のアドウ”だ!」
アドウが豪快に笑う。それを聞いたくも八も、黙って微笑んでいる。リコウは目を丸くしている。。
月に照らされた城門の外、中の様子を伺うように町民達が、城門の前で聞き耳を立てている。その中には兜を頭に被ったブンブクもおり、心配そうに城壁の上を見ている。すると、ブンブクが何かを感じ、後ろを振り返る。すると、向こうからやって来る数人の人影を、月明かりが照らしている。次第に、足音とカチャカチャと刀の擦れる音を聞いた町人達も振り返る。見ると腰に刀を差し、烏羽色の羽織を着た男達がこちらへやって来る。そして男達は、町人の前で立ち止まると、先頭にいた一人の男が歩み寄って来る。
「皆様すみません。中に入りたいので、そこを空けていただけますか?」
男はそう言ってニコリと笑う。
完




