第八十二話 「一騎討ち」
城外の門の前では、城下町の町人達が押し寄せている。先頭にいる町人達は、中の様子を何とか見ようと、固く閉ざされた門扉に顔をくっ付けている。
「中は一体どうなってんだ!? 何も見えやしねぇ!」
「しかし何者なんだ? お前らを逃がしてくれたって人達は?」
町人達がザワザワと騒いでいる。
「私達にも分からないけど、とっても強い人達だったわ。あの人達ならもしかして・・・」
城内で人質となっていた女が、目を輝かせている。
「あのお兄ちゃん達なら絶対勝てるよ!」
人質だった少年も目を輝かせる。少年の隣には、甲冑を脱いだブンブクが心配そうな顔をして、門扉を見つめている。
皆が固唾を飲む城壁の向こう側では、アドウの前にしゃらくが立ちはだかっている。しゃらくの後方では、ウンケイとシカ、そしてツバキが、それぞれの武器を鞘に納めて見守っている。一方アドウの後ろには、軍師のくも八が同じように見守っている。
「・・・おい龍神よ。普通は貴様と俺とで一騎討ちだろうが。何を考えてる?」
アドウが目を顰める。するとツバキは、地面に落ちていた翁面を拾い上げ、その翁面を見て笑う。
「フフフ。俺は龍神じゃないよ。俺はこの刺客達を釣る為の餌さ。騙して悪かったね」
「何!?」
アドウと後ろのくも八が目を見開く。
「えェ!? お前結局龍神じゃないのかよ!」
勢いよく振り返ったしゃらくも、目を丸くしている。
「フフ。ごめんね、しゃらく」
ツバキが目配せする。
「・・・となると龍神はどこに? もしや龍神とは繋がっていなかったのか?」
くも八が尋ねる。
「さあな」
ウンケイがニヤリと笑う。アドウとくも八の表情が険しくなる。
「えェ!? やっぱりおれ達の知ってる奴なのか!? 誰なんだよ一体!?」
しゃらくが再び振り返って、目を丸くしている。その様子にウンケイとツバキが笑っている。
「まァいいや! おっさん! おれと一騎討しろ!」
「・・・面白い。よかろう! この俺に挑む奴など久しぶりだ! わはは!」
アドウが笑い、大熊手を構える。しゃらくも構え、牙王の姿に変身する。
「何処からでもかかって来い」
アドウが指を動かし、しゃらくを挑発する。しゃらくはニッと笑うと、物凄い速さでアドウに突っ込んでいく。一方で余裕綽々な態度のアドウは、しゃらくの凄まじい気迫の蹴りを、熊手の柄の部分で容易く受け止める。
「わはは! ぬるいな小僧! そんな蹴りでは十二支将軍に遠く及ばんぞ!」
アドウが大熊手を振るが、しゃらくもそれを宙返りで躱す。
「身のこなしは悪くないがな」
アドウがニヤリと笑う。
「ガルル! うるせェ!」
しゃらくが宙高く跳び上がり、右脚を振り上げる。ガンッ!! しゃらくの踵落としを、アドウが両手で持った熊手の柄で受け止める。
「わはは! どうしたぁ!? こんなものか!?」
アドウが笑う。すると、しゃらくが熊手の柄の上で足を滑らせ、そのまま膝裏で柄を挟んで熊手を固定し、拳を振りかぶる。アドウが目を見開くバキィィ!! アドウの頬をしゃらくが殴る。しかしアドウは熊手を離さず、吹き飛ばされる事なくその場に留まっている。
「げッ!」
しゃらくは驚くが、殴られたアドウの方はニヤリと笑っている。するとアドウが熊手を持ち換え、勢いよくそれを振る。ドガァン!! 勢いのまま、しゃらくが城壁まで吹き飛ばされる。
「いでェ・・・!!」
しゃらくの体は城壁にめり込んでおり、額からは血が流れている。
「わっはっは! この俺を殴るとは、中々やりおる!」
頬を赤く腫らしたアドウが高らかに笑う。
「チッ! 全然効いてねェなァ!」
立ち上がったしゃらくも僅かにニヤリと笑う。激しくもどこか楽しそうな二人を、離れた場所からウンケイ達とくも八が見つめている。
「・・・あいつは大丈夫だろうな?」
吹き飛ばされたしゃらくを見たシカが呟く。
「さぁな。・・・よっこらしょ」
ウンケイが、シカの心配を他所に瓦礫の上に座る。
「フフ。両者楽しそうだしね」
ツバキも微笑みながら、ウンケイの隣に座る。
「チッ」
何故か余裕綽々の二人に、顔を顰めたシカが舌打ちをする。その隣にはアドウ軍軍師のくも八が、シカ同様に顔を顰めている。
「・・・本当にあの小僧に、この戦乱の世を変えられると思っているのか?」
くも八が険しい顔で真っ直ぐと前を見つめたまま、ウンケイらに問いかける。
「・・・」
ウンケイがくも八をチラリと見る。そしてまた前を向き直る。
「・・・さあな」
ウンケイがニヤリと笑う。
「何?」
ウンケイの思わぬ答えに、くも八が思わずウンケイを見る。
「俺はただ、あいつが面白ぇから一緒にいるだけだ」
ウンケイが笑う。くも八が目を見開く。
「フフフ。同感だね」
ウンケイの答えを聞き、ツバキが笑う。
「・・・そうか。・・・フッフッフ。それもまた良かろう」
くも八が笑う。
「ハァハァハァ」
広場の中央で、しゃらくとアドウの両者が、肩で息をしている。周囲には巨大な瓦礫が散らばっており、熾烈な戦いを物語っている。
「ハァハァ・・・中々やるな小僧」
傷だらけのアドウがニヤリと笑う。
「ハァハァ・・・おっさんもな!」
血まみれのしゃらくもニヤリと笑う。
「わっはっは! ハァハァ・・・中々楽しかったが、俺も歳だ。悪いが体力の限界なんで、次で終わらせて貰うぞ」
そう言うとアドウが腰を落とし。大熊手を両手で構える。
「!?」
次の瞬間、大熊手を振りかぶったアドウが、凄まじい勢いでしゃらくに向かって来る。しゃらくが目を見開く。
「“熊襲猛武”!」
ブゥオォォン!!! まさに間一髪、しゃらくがその場で上半身を後方に反らせ、アドウの大熊手を躱す。しかしその勢い凄まじく、躱された一撃は後方の城壁を抉る。
「くっ! ・・・躱されたか」
アドウがニッと笑う。刹那、上体を反らせたしゃらくがそのまま両手を着き、両足でアドウの体を蹴り上げる。アドウの体は背を上に宙高く飛び、胴の甲冑はひび割れている。次の瞬間、宙高く跳び上がったしゃらくが、アドウの背中に向かって両手を構える。
「“降龍牙”!!」
しゃらくが宙を蹴り、両手でアドウの背中を抑え、物凄い勢いで地面に向かって下降する。ドガァァァン!!! 轟音と共に地面の瓦礫が吹き飛び、土煙が舞っている。
「アドウ様・・・!」
様子を見ていたくも八が、思わず呟く。ウンケイらも同様に、固唾を飲んでいる。すると、後方からの足音に気が付いたウンケイらが振り返ると、土煙に紛れて一人の人影が近づいて来る。
「ハァハァハァハァ!」
地面に大の字で寝転がるしゃらく。その隣には同様に倒れているアドウの姿。大技を食らったアドウは、咄嗟に大熊手で勢いを殺し、間一髪で致命傷は避けたが、立ち上がる気力は無く、ただ力なく星空を見上げている。
「ハァハァ・・・おっさん! まだやるか!?」
「・・・はっは。・・・もう動けん。参った。俺の負けだ」
しゃらく一行と、不屈のアドウ率いる龍神討伐軍の戦いは、快晴の星空の下で決着を期した。
完




