第八十一話 「忍」
しゃらくとツバキ、そしてアドウの三人がぶつかり合うその刹那、どこからともなく無数の手裏剣が、三人に向かって飛んで来る。しかし三人は、音もなく死角から飛んで来る手裏剣に気が付いておらず、手裏剣は三人の命を取らんと、どんどん向かって来る。刹那、ガキン! ガキン! ガキン! 飛んで来た手裏剣が全て叩き落される。三人が動きを止めて見ると、ウンケイとシカがそれぞれの武器を手にしており、地面には幾つもの手裏剣が落ちている。
「・・・なんだ!?」
しゃらくが目を点にし、開いた口が塞がらずにいる。それはアドウの方も同じで、すぐに周囲を見渡す。すると、城や城壁、本陣などの陰から、全身黒尽くめの者達が顔を覗かせている。
「・・・忍? 何者だ!?」
アドウが熊手を下ろし、問いかける。
城内最上階の広間では、城主ソンカイと商人のリコウがその様子を見ている。
「止められてしまいましたぞ・・・!」
リコウがソンカイの方を見る。
「チッ」
ソンカイは舌打ちをし、眉を顰めている。
城内広場のしゃらく達の周囲の陰から、全身黒尽くめの忍達が十人程出て来る。するとその内の一人の男が口を開く。
「名乗る必要はない。貴様らの命頂戴する」
男の一声を合図に、忍達が一斉に刀やくないを手にする。
「ほう。なるほどな」
アドウが、城の最上階をギロリと睨む。
「忍か! 初めて見たぜ! おもしれェ!」
しゃらくがニヤリと笑い、腕を捲る。
「なァおっさん! あいつら、おれ達の事も狙ってるみてェだしよ! ここは一旦協力しようぜ?」
「・・・仕方あるまい」
そう言うと、しゃらくとアドウ、そしてツバキ、ウンケイ、シカが、それぞれ忍び達の方を向き、武器を構える。
「共闘する気か。上等だ。かかれ!」
男の掛け声で、忍達が一斉に向かって来る。忍達は皆、身のこなし軽やかで、物凄い速さで向かっては来るものの、足音は一切聞こえない。
「私の後ろに付けウンケイ!」
そう言ったシカが、向かって来る忍達に向かって行く。ウンケイはシカに言われた通り、それに続く。そしてシカが刀を構える。
「“落花流水”」
ガキィィン!! 忍達の太刀筋をシカが受け流し、忍達が勢いそのままで後ろへ飛ばされていく。するとその飛ばされた方向では、既にウンケイが大薙刀を構えて待っている。
「“三日月”」
ズバァァ!! 飛んで来た忍達が、ウンケイによって斬られる。
「こりゃあ効率がいいな。わっはっは」
ウンケイが笑う。その背後でも、しゃらくが向かって来る忍達を次々と殴り倒している。
「チッ! 本命はアドウと龍神だ! 奴らを狙え!」
声を聞くと、忍達が一斉に標的を変え、アドウとツバキに向かっていく。
「わっはっは! 舐めるなよ!? ソンカイ!」
アドウが大熊手を構える。ツバキも、静かに二対の刀を構える。
「“羆川”」
アドウが大熊手を勢いよく地面に振り下ろすと、直線状に地面が抉れ、忍達が吹き飛ばされる。しかしその内数人は、宙に跳び上がってそれを回避し、そのまま空中から両者を狙う。するとツバキが同様に宙高く跳び上がり、忍達の前で刀を構える。
「“落ち椿”」
ズバァァ!! 宙に跳び上がった忍の全員が、目にも止まらぬ速さで斬られ、地面に落ちていく。
「ふぅ」
ツバキが息をつき、地面に着地する。
「ほう。中々やりおる」
アドウが目を顰め、ツバキを見つめる。
「これで俺の役は終わりだ」
ツバキが呟く。するとツバキの着物は少しはだけており、胸の上部に花の刺青が施されているのが見える。それを見たアドウが、更に目を顰める。
「・・・貴様のその刺青。どこかで・・・」
するとツバキが、すかさず着物を直して刺青を隠す。刹那、最後の一人の指令役だった忍が音もなく現れ、アドウの背から刀を振りかぶっている。
「おっさん危ねェ!」
気が付いたしゃらくが叫ぶ。刹那、何者かが忍に向かって跳び上がる。
「“八重巣”」
ズバァァ!! 忍が、蜘蛛の巣状に放たれた太刀筋で斬られる。斬られた忍は白目を剥き、血を吐きながら地面に落ちていく。忍を斬ったのは軍師くも八で、ウンケイに斬られた腕とは逆の腕で、刀を握っている。
「くも八! まだまだ腕は健在だな! わっはっは!」
着地したくも八に、振り返ったアドウが笑う。
「冗談はよしてくだされ。この老いぼれめは、ご覧のように使い物にならん」
くも八が刀を鞘に納める。
「わっはっは! 何を言う、“八重巣のくも八“よ。その異名は、幾重にも張り巡らせた策略から付けられたものではない。元はその妙技を恐れられ、呼ばれ出したものだ。貴様も俺も、老け込むにはまだ早いわ!」
アドウが大熊手を肩に担いで笑う。くも八は僅かに口角を上げる。
城内最上階、大広間から飛び降りんばかりに、ソンカイが身を乗り出している。
「しくじりよって! 使えぬゴミ共め!」
激高したソンカイが、手すりを何度も叩く。
「・・・このままアドウと龍神が手を組むのはまずい。・・・おいリコウ! 俺は・・・」
ソンカイが振り返るも、そこに商人リコウの姿は無い。慌てて周囲を見渡すが、リコウの姿は忽然と消えている。
「・・・!?」
ソンカイの額を一筋の汗が走る。すると、大広間へ続く階段を登る、大きな足音が聞こえる。ソンカイが階段の方を見ると、そこから盗賊の駄エ門とリキ丸が顔を出す。
「くっくっく。よおソンカイさんよ」
「貴様は・・・!? 何故ここに!? 衛兵達はどうした!? であえぇ! であえぇ!」
ソンカイが叫ぶも城内から返事はなく、目の前の駄エ門とリキ丸が、笑いながら階段を登り、大広間へ上がる。
「城の兵なら、全員ぶっ殺して来たぜ!?」
リキ丸がニヤニヤと笑いながら、ソンカイに近づく。
「・・・!? ・・・分かった! ではこうしよう! お前達を我が家臣にしてやる! そして下で戦り合っている者達を始末しろ! さすれば褒美はたんまり遣わそう! どうだ!? 貴様ら野盗には良い話だろう!?」
ソンカイがニヤニヤと笑いながら、まくし立てる。
「くっくっく。確かに悪い話じゃねぇな」
駄エ門が笑う。するとソンカイの表情が明るくなる。
「・・・だが生憎、俺達はもう別の船に乗っちまってなぁ」
駄エ門の言葉に、ソンカイの表情が固まる。
「悪ぃが、俺達は真面目なんだ。先約は裏切れねぇ」
駄エ門がニヤリと笑う。すると隣のリキ丸が大刀を抜き、ソンカイに振りかぶる。ソンカイが目を見開く。
「では、続きをしようか!?」
アドウが振り返り、しゃらくとツバキを見る。
「よし! やろうぜ!」
しゃらくが着物の上半身を脱ぎ、再び牙王の姿になる。しかし、臨戦態勢のしゃらくとは対称に、ツバキは二対の刀を鞘に仕舞い、両手を上げている。
「降参。俺は疲れたから、この勝負はしゃらくに譲るよ」
ツバキがニコリと笑う。
「何?」
アドウが顔を顰める。一方でしゃらくの方は、表情が明るくなる。
「っしゃア! 一対一で決着つけようぜ! おっさん!」
完




