第八十話 「軍師くも八」
カラン! カラン! 龍神の翁面が地面を転がる。
「・・・いたた。・・・これは骨が折れそうだ」
城壁の方へ吹き飛ばされた龍神が立ち上がると、頭に藤色の鉢巻を巻く。それを見たアドウが眉を顰める。
「・・・貴様は確か、今度の徴兵にいたな。やはり我らの中に潜り込んでいたか」
アドウがニヤリと笑う。
「おいツバキ! 大丈夫かよ!?」
しゃらくが、蹴り飛ばされたツバキを心配する。
「あぁ、心配ない。ありがとう」
ツバキがしゃらくにニコリと笑いかける。
「あァそうかよ!」
しゃらくとツバキの両者が、アドウに向き直る。
「はっはっは! 貴様ら中々やるようだが、俺を討ち取ろうなど百年早いわ!」
アドウが巨大な熊手をグルグルと回す。しゃらくとツバキの二人が、アドウに向かって行く。
一方のウンケイとシカの前に、くも八を先頭に兵達が武器を構えている。しかし兵達の数はかなり減ってきており、城兵、徴兵を合わせて三十人程である。
「兵十名はわしに付いて来い! 残りは小さい方を叩け」
くも八はそう言うと、刀を手にウンケイに向かって行く。その後ろを兵十人が続く。そして残りの兵達は、一斉にシカに向かって行く。
「へぇ。あんたが五人分?」
ガキィン! ウンケイがくも八の剣を防ぎ、不敵に笑う。
「舐めるなよ坊主。わしゃ百人分じゃ」
ガキィィン! ガキィン! ガキン! くも八の猛攻を、ウンケイが受け止める。するとその脇から兵が弓を引いている。
「チッ!」
くも八の猛攻を受け、手が離せないウンケイは、弓を引く兵に向かって地面の小石を蹴り、それが兵の手に当たる。ガキィン! 的を外した矢が、くも八の方へ飛んで行き、くも八がそれを刀で弾く。
「すっ、すみません! くも八様!」
矢を外した兵が顔を青くしている。
「構わん! 続けろ!」
くも八が檄を飛ばす。すると、その一瞬の隙にウンケイが宙高く跳び上がる。くも八が目を見開く。
「“雷電”」
ガギィィン!!! ウンケイが上空から振り下ろした強烈な一撃を、くも八が刀で受け止める。
「くっ・・・!」
しかしその一撃の威力凄まじく、くも八は両手を使い顔を歪めながら何とか止めている。
「やるな、爺さん」
するとウンケイは、そのまま空中で宙返りし、くも八の後ろの兵達に向かって、空中で薙刀を振りかぶる。
(真の狙いは後ろか!)
くも八が目を見開き、すかさず後ろを振り返る。
「“三日月”」
ズバァァァ!!! 兵達が一斉に斬られ、吹き飛んでいく。ガキィン! 背後からのくも八の攻撃も分かっていたように、ウンケイが薙刀を背中に持ち換え、それを防ぐ。そしてウンケイが、くも八の刀を弾き飛ばし、再びくも八と正対する。
「ハァハァ。・・・あと何人だ?」
ウンケイがチラリと後ろを見る。後ろで立ち上がっている兵は、半分の五人程になっている。
「兵達よ! こ奴からは距離を取り、弓矢ででわしの援護に徹底せよ!」
「・・・はっ!」
くも八の命を受け、ウンケイの背後の兵達が一斉に弓を構える。
「・・・仕留め損ねちまった」
ウンケイがくも八と兵達に対して半身になり、薙刀を構え直す。そして顔はくも八を向いたまま、兵側の右手に持った薙刀を、片手でグルグルと回し出す。兵達からは回転する薙刀のせいで、ウンケイを狙いにくくなっている。
「ほう。わしの方がガラ空きじゃぞ?」
くも八が眉を顰める。
「あぁ。それでいい」
ウンケイがニヤリと笑う。
「ほうか。・・・では遠慮なく!」
くも八がウンケイに突進する。後ろの兵達は、機を逃すまいと一斉に弓を引く。しかしウンケイは薙刀を回すのを辞めず、くも八との距離がどんどんと近づいて行く。そしてくも八が刀を振りかぶる。刹那、ウンケイが薙刀を持ち換え、くも八に薙刀を振るう。その瞬間後ろの兵達も一斉に矢を放つ。そしてくも八の刀がウンケイに届く寸前、くも八の腕が薙刀に斬られる。ウンケイはそのまま体を回転させ、後方から飛んで来る矢も全て斬り落とす。
「ゔっ・・・!」
刀を持っていた右腕から血を流したくも八が、刀を落とし膝を着く。くも八が顔を上げると、ウンケイは後ろの兵達に斬りかかっている。そして傍に目をやると、シカが既に十五人もの兵を倒している。
「・・・ここまでか」
左手で右腕を押さえながら、くも八が目を瞑る。するとウンケイが、薙刀を肩に担いでくも八の元へ歩いて来る。
「降参しろ爺さん」
ウンケイが薙刀をくも八に向ける。その後ろには兵達が全員倒れている。
「・・・敵ながら天晴れじゃ。この城内で数百人にも及ぶ兵達を、たった数人で討ち取るとは。・・・さあ斬れ」
くも八が目を瞑る。
「それは降参と取っていいな? 俺は無駄な殺生はしねぇ」
ウンケイがそう言うと、薙刀の刃を下ろす。
「・・・何じゃいそらぁ? 生き恥を晒せと?」
「あぁ、そうだ」
勝負の付いたウンケイとシカが、しゃらくらの方を見る。
「うらァァ!!」
「はっはっは!」
バチィィン!! しゃらくの拳を、アドウも同じように拳を出して止める。刹那、アドウの懐に入ったツバキが二対の刀を振りかぶる。ガキィィン!! しかし攻撃に反応したアドウが、大熊手の柄の部分を巧みに使い、それを止める。
「フフ。流石だな」
止められたツバキがニヤリと笑う。その後も二人から猛攻を受けるも、アドウはそれらを悉くいなしていく。
「はっはっは! そんな攻撃では俺の首は取れんぞ!?」
二対一の状況とは思えぬほど、余裕のアドウが笑う。
「くっそォ! おっさん強ェなァ!」
汗だくのしゃらくが顔を顰める。
「フフフ。確かに手強いね」
一方でツバキの方は、相変わらず飄々としている。
「けどなァおっさん! おれァあんたを倒して、あんたが出来なかった十二支将軍だって倒してみせるぜ!」
鼻息を荒くしたしゃらくの発言に、アドウが眉を顰める。
「・・・ほう小僧。十二支将軍を倒すだと?」
「あァ!」
アドウの問いに、しゃらくが真っ直ぐに答える。その脇のツバキはやれやれといった感じで笑っている。
「そうか。・・・それで? その先に何を見ている?」
アドウが再びしゃらくに問う。
「戦のいらねェ国にする!」
しゃらくの言葉にアドウが目を見開く。
「・・・くっくっく。わっはっは!」
僅かな沈黙の後、アドウが肩を震わせ大笑いする。その反応に、しゃらくの方はムッとしている。
「そりゃあ大層な夢よ! それならば確かに、十二支将軍らも倒さねばなるまい!」
するとアドウは笑いながら、大熊手を肩に担ぐ。
「そしてこの俺も倒さねば、更に遠い夢となる!」
アドウがニヤリと笑う。
「あァその通り! プッ! プッ! まずはあんたぶっ飛ばすぜ!」
しゃらくが両の掌に唾を吐き、腰を落として構える。隣のツバキも刀を構える。そして再び三者がぶつかり合う。刹那、どこからともなく三人に向かって無数の手裏剣が飛んで来る。音もなく、更に三人それぞれの死角から飛んで来る手裏剣に、三人は気が付いておらず、高速に回転する手裏剣は三人の命を取らんと向かって来る。
完




