第七十九話 「龍神登場」
「・・・やっと来たか」
ニヤリと笑うアドウ含め兵達の視線の先、城壁の上に翁面を被った一人の男が立っている。思わずウンケイとシカも振り返る。
「お前を待っていたぞ。龍神とやら」
アドウの言葉を聞いたしゃらくが、寝たまま皆の視線の先を見上げる。
「あ、・・・あいつが龍神・・・?」
龍神は、龍の鱗のように鮮やかな碧色の着物を身に纏っており、月夜に照らされ、星空の如くキラキラと光っている。
「くも八様ぁ! 龍神です! 龍神が現れました!」
城内広場の中央の本陣、兵がくも八の元に慌てて駆けて来る。
「・・・さてどう動く?」
城内の最上階でも龍神の登場に気が付き、商人のリコウが窓から身を乗り出して見ている。
「ついに龍神が現れましたぞ! ソンカイ様!」
興奮しているリコウとは対称に、城主のソンカイは冷静である。
「フフ。やっと出て来たか」
ソンカイが怪しく笑う。
一方、城の入り口付近では、血だらけで倒れる兵達の脇を、盗賊の駄エ門とリキ丸が通り過ぎて行く。
「兄者ぁ、あれ龍神じゃねぇか?」
額に手を置いたリキ丸が目を凝らしている。隣の駄エ門もリキ丸の視線の先を見る。
「やっとお出ましか。だが俺達にはもう関係ねぇ。行くぞ」
駄エ門はニヤリと笑うと、城の中へと進んで行く。
「あぁ、そうだな」
リキ丸も駄エ門の後に続く。
城内広場に戻り、皆が城壁の上に突如現れた龍神に、釘付けになっている。
「・・・」
皆の注目を集めながらも、龍神は沈黙している。
「おい、何とか言ったらどうだ? こちとら、貴様にやられた部下も多い」
アドウが熊手を龍神に向ける。それを合図に、後ろの兵達も一斉に武器を構える。上半身を起こしたしゃらくとウンケイ、シカも龍神の次の挙動に固唾を飲んで注目している。すると龍神が、突如両腕を上げる。見ると、袖で隠れていたが腰に二対の刀を差している。
「ほう」
それを見たアドウがニッと笑う。すると龍神は、腰に差した両の刀を抜き、トッと城壁から飛び降りる。皆が驚く中、龍神はアドウに向かって落ちて行っており、両の刀を振りかぶっている。ガキィィィン!! 龍神の二対の刀とアドウの熊手が、火花を散らすほどの勢いでぶつかる。そのあまりの勢いに、周囲の兵達が怯んでいる。
「はっはっは! 意外とやるじゃないか!」
笑ったアドウが、熊手を更に振ろうとすると、龍神は軽やかに後方へ宙返りし、これを躱す。
「おォ! やるなァ龍神!」
目の前に着地した龍神に、しゃらくが感心している。
「ん?」
しゃらくが突然首を傾げる。すると龍神の脇に、ウンケイとシカが立つ。
「悪いが、俺達はこっちにつくぜ」
そう言うと、ウンケイが薙刀をアドウ達に向けて構える。シカの方も同様にしている。
「やはり貴様ら、繋がっておったか」
アドウが眉を顰める。
*
「・・・アドウ様。これはあくまでわしの憶測ですが・・・」
少し遡り、城内本陣でくも八の話を、アドウが聞いている。
「恐らく一連のこの騒動、全ては龍神が裏で糸を引いていると思います」
「何?」
くも八の話に、アドウが眉を顰める。
「あまりに段取りが良過ぎるのです。昨日今日来た彼らに、こんな真似が出来るとは思えませんな」
くも八が、奥で暴れているしゃらく達を見つめ、自分の長い髭を撫でる。
*
「はっはっは! 面白い!」
時は戻り、武器を構える龍神とウンケイ、シカに対し、アドウが巨大な熊手をグルグルと回す。その風圧に、後ろの兵達が仰け反る。
「ありゃヤバそうだ!」
思わずつぶやくウンケイら三人も、腰を落として構える。するとアドウは、巨体に見合わず宙高く跳び上がる。
「“月輪熊爪剥”!」
ガッシャァァン!! アドウが回転の遠心力を利用して振り下ろした熊手が、地面が割れるほどの勢いで地面に突き刺さる。攻撃の威力を察知した三人は、跳び上がってそれを躱している。
「どわァァァ!!」
アドウの攻撃により、地面に走った亀裂はしゃらくが座る地面にまで及び、しゃらくも大慌てで跳び上がる。しかしアドウは既に熊手を構え直し、逃げ遅れたしゃらくに向かって振りかぶっている。ガァン!! すかさずしゃらくが、降られた熊手の柄の部分を蹴り、勢いを相殺する。すると着地したしゃらくが両腕を前で交差させ、思い切り地面を蹴る。
「“獣爪十文閃”!!」
ズバァァァ!! アドウの体に十字の切り傷が出来る。アドウの背中に回ったしゃらくが、再びアドウに向かう。
「“虎猫鼓”ォ!!」
ガン!! しかし今度のしゃらくの攻撃は、振り返ったアドウが熊手の柄で受け止める。
「はっはっは! 俺に血を流させたのは久しぶりだぞ小僧!」
「へェ! じゃア倒されんのはもっと久しぶりだなァ!」
しゃらくとアドウの両者が、ニヤリと笑う。刹那、ズバァァァ!! アドウの体に再び切り傷が走る。
「ゔっ・・・!」
思わずアドウの巨体が膝を着く。見ると、龍神が二対の刀を振り上げており、刃の先からは血が滴っている。
「おっと、浅かったか」
龍神が刀の刃を見ながら呟く。
「おい! こいつは俺の相手だ! 水差すんじゃねェ!」
しゃらくが龍神に唾を飛ばす。
「フフ」
龍神が面の下で怪しく笑う。
「・・・貴様ら全員で来たって相手じゃねぇよ。まとめてかかって来い」
立ち上がったアドウが、腹の斬られた傷を叩きながら笑う。
「野郎ォ・・・!」
アドウの前に、しゃらくと龍神が構える。
「・・・お前、龍神だったのかよ」
しゃらくが、アドウから視線は外さずに呟く。その後ろでは、ウンケイとシカが兵達を相手にしている。
「おいしゃらくと龍神! ヘマすんなよ?」
するとウンケイが、薙刀を頭の上でグルグルと回す。その風圧で兵達が怯む。
「“風車”」
ブゥオォォン!!! ウンケイが遠心力を利用して薙刀を振る。その一撃に兵達は吹き飛び、ウンケイとシカの前が開ける。刹那、ウンケイとシカの眼前に、何者かが飛び掛かる。ガキィン! ウンケイが薙刀で受け止めたのは、軍師くも八の刀。
「刀を抜いたのは何年振りじゃ」
一方その後ろでは、アドウが巨大な熊手を振り回し、しゃらくと龍神がそれを躱している。ガキィン!! アドウの一撃を、龍神が刀を交差させて防ぐ。するとすかさず、アドウが龍神の脇から蹴りを入れ、龍神が城壁の方へ吹き飛び、龍神の翁面が地面を転がる。
「・・・いたた。…こりゃ骨が折れそうだ」
立ち上がった龍神が、藤色の鉢巻を頭に巻く。
完




