第七十八話 「龍神討伐軍大将アドウ」
「あとはお前ら倒すだけだァ!!」
ガゴォォン!!! 啖呵を切るしゃらくの後ろ、町人達を外に逃がすと、巨大な城門が勢いよく閉じられる。しゃらくの視線の先、武器を構えた兵達の奥には、本陣で腕を組んで座っている龍神討伐軍の大将アドウの姿。
「やい大将ォ! おれと勝負しろォ!!」
鼻息を荒くしたしゃらくが、大声を上げる。それを聞いたアドウがニヤリと笑う。
「小僧め。よかろう」
アドウがゆっくりと立ち上がる。すると前にいる軍師のくも八が心配そうに振り返る。
「・・・我が兵もおりますので、ほどほどに」
「分かっておる」
アドウが再びニッと笑う。一方のしゃらくも拳と拳を叩きつけ、ニヤニヤと笑っている。周囲では向かって来る兵達を、ウンケイとシカが薙ぎ倒している。
「手伝うか?」
ウンケイがしゃらくに尋ねる。
「馬鹿言え! 丁度いい腕試しだ。あいつは十二支将軍と何度も戦ってんだろ? 今のおれがどこまで通用するか、あいつで試す!」
そう言ったしゃらくが、アドウの方に目線を戻す。するとそこにアドウの姿は無い。刹那、ドガァァァン!!! 激しい音と共に、突如しゃらくの目の前が瓦礫や土煙で覆われる。
「活きの良い小僧よ! 望み通り俺が相手してやる!」
見るとしゃらくの目の前には、不屈のアドウが仁王立ちしている。いきなり現れたアドウに、しゃらくやウンケイ、シカが驚愕する。しゃらくは咄嗟に牙王の姿に変身し、四つん這いで後方に跳び距離を取る。
「どうした? 呼んだのは貴様だろう? さあかかって来い」
突如登場した大将の気迫に、周囲の兵達が士気を取り戻す。
本陣では軍師のくも八が、変わらず冷静に戦況を見つめている。
「くも八様、逃げられた町人に追っ手を向かわせますか?」
一人の兵が前にいるくも八に尋ねる。
「よい。人質はもう必要ない」
振り向く事なく答えるくも八の言葉に、兵は首を傾げる。前を見つめるくも八の長い髭が風になびく。
「くくく。大将のお出ましか」
広場には戦場が二つ。しゃらく達とは少し離れた所で、盗賊の駄エ門とリキ丸も兵達に囲まれている。
「兄者ぁ、どうすんだ?」
両の刀を肩に構えたリキ丸が、駄エ門に尋ねる。駄エ門は相変わらずニヤニヤと笑っている。
「面倒くせぇのはごめんだ。城のもん分捕ってずらかるぞ」
「あいよ。兄者」
二人の大男が怪しく笑う。その余裕な様子に、周囲の兵達が苛立ちを見せる。
「貴様ら! よくもガマ比古様を! 奴らがガマ比古様の仇だ!かかれぇ!」
兵達が中央の二人へ一斉に向かって行く。すると、駄エ門の前に出たリキ丸が腰を低く落とし、右脚を真横に高く上げる。周囲の兵達が思わず動きを止める。リキ丸はニヤリと笑うと、高く上げた脚を勢いよく振り下ろす。ドガァァン!! 地面に穴が開く程の四股に、周囲を囲んでいた兵達が勢いよく吹き飛んでいく。リキ丸は更に、反対の脚を同じように高く上げ、勢いよくそれを振り下ろす。リキ丸のたった二度の四股に、周囲の兵達があっという間に居なくなってしまう。駄エ門とリキ丸は、怯む兵達を気にする事なく、城の方へ歩を進めて行く。
一方城外の町では、帰って来た人質の町人達と、その家族達が涙ながらに抱き合っている。そんな町人達の輪の外れで、ブカブカの兜と甲冑を着たブンブクが、心配そうに城の方を見つめている。
城内広場の城門前、ひしめく兵達の中、ひと際目に付くほど大男のアドウと、しゃらくが四つん這いになり獣の如く牙を剥ける。
「おい! 急に来たらびっくらすんだろがァ!」
「はっはっは! 何を驚いてる。俺を倒すんだろう?」
豪快に笑うアドウの右手には、柄の先に四つの刃が並ぶ立派な熊手が握られている。アドウの巨体からは一見普通の熊手に見えるが、それをしゃらくに向けるとかなり巨大である事が分かる。
「ガルルル! “虎猫鼓”ォォ!!」
四つん這いで駆けたしゃらくが、拳を振りかぶる。するとアドウもニヤリと笑い、熊手を後ろに構える。その凄まじい殺気にしゃらくが目を見開く。
「“熊爪剝”」
ブオンッ!! アドウが熊手を上から振り下ろす。しゃらくは咄嗟に脇に避ける。ドガァァン!! すると熊手の刃は勢いよく地面に突き刺さり、その勢いに地面が罅割れる。
「っぶねェ!!」
大量の汗を浮かべたしゃらくが目を見開く。
「ほう。ただの馬鹿ではなさそうだ」
アドウは、地面に深く突き刺さった熊手を軽々と抜き、それを肩に担ぐ。
「おい小僧。貴様の目的はなんだ? 貴様は龍神を倒す徴兵として雇ったはずだが、何故邪魔をする?」
アドウの問いに、しゃらくが更に顔を顰める。
「その言葉ァ、そっくりそのまま返すぜ! 目的は龍神の討伐だろ!? なんで関係ねェ人達を傷つけてンだ! どんな理由があろうと、おれァ許せねェ!!」
しゃらくが再びアドウに向かって行く。
「成程。それがお前の正義か」
アドウはニヤリと笑い、熊手を構える。
「“蹴兎”ォ!!」
ガキィィン!! しゃらくの蹴りを、アドウが熊手で防ぐ。
「では存分に戦おう! それを指揮したのは無論、俺だ!」
地面に降りたしゃらくが、両手を交差させ地面を蹴る。
「“獣爪十文字”ィ!!」
ガガンッ!! しゃらくの鋭爪もアドウが巧みに防ぐ。すかさず、しゃらくは拳を握り、それを振りかぶる。アドウもすかさず熊手を構え直す。
「“無爪猫拳”ォ!!」
刹那、アドウが目にも止まらぬ速さで、熊手を不規則に振り回す。
「“熊葛折り”!」
ズバァァ!!! しゃらくの体が葛折り状に斬られ、血飛沫が上がる。
「ぐっ・・・!!」
白目を剥いたしゃらくが、その場に仰向けで倒れ込む。
「しゃらく!」
付近で兵達と交戦していたウンケイが、しゃらくの様子に気が付く。ウンケイの声に、同じく付近で交戦中のシカも気が付く。
「ほう。斬られる刹那に後ろへ跳んだのか。やるじゃないか」
ニヤリと笑うアドウが、しゃらくに近付く。するとアドウの上空に大きな影が掛かる。
「“雷電”」
ガギィィン!!! 上空から飛んで来たウンケイの一撃を、アドウが受け止める。
「良い仲間も持ってる」
アドウがウンケイを見てニヤリと笑う。
「・・・くそっ!」
渾身の一撃を容易く止められたウンケイが、倒れているしゃらくの前に立ちはだかる。
「おい馬鹿野郎! お前大丈夫かよ!?」
「・・・ゔっ」
ウンケイの呼びかけに、しゃらくが微かに反応する。すると、ウンケイと同じく兵と交戦中だったシカも、ウンケイと並びアドウの前に立ちはだかる。
「チッ! 足を引っ張るなと言ったろ!」
シカがしゃらくに舌打ちをする。
「・・・ご、・・・ごべん」
しゃらくが情けない声を出す。倒れたままのしゃらくと、その前に立つウンケイとシカを、アドウを先頭にした兵達が取り囲む。
「あ! アドウ様! あれを!」
兵の声に、アドウがしゃらく達の背後にある城壁の上を見る。するとそこに立っているのは、翁面を被った一人の男。
「・・・やっと来たか」
アドウがニヤリと笑う。
完




