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第七十七話 「錯綜」

 ガガガガァッ!!! 大広場の城壁際でしゃらくとウンケイ、そして赤鬼に化けたブンブクが、町人達を守りながら、兵達を()ぎ払いながら、壁伝いに正門へ向かって進んで行く。正門までの距離はもうすぐだが、正門は軍師くも(はち)の指示により固く閉ざされている。

 「ハァハァ! なァウンケイ! 門が閉まってるけど、どうすんだ!?」

 しゃらくが後方のウンケイに尋ねる。

 「ハァハァ。気にせず進め!」

 「わかった!」

 しゃらくは、ウンケイの返しに何の疑問も持たずに進む。



 広場内の本陣で戦況を見守るアドウ、くも八の元に再び伝令兵が駆けて来る。

 「・・・お伝えします! 歩兵隊隊長のガマ比古(ひこ)様が、たった今何者かに()たれました! ガマ比古様は、お体を両断されており・・・、その・・・」

 伝令兵が言葉を()まらせる。くも八が目を(つぶ)る。

 「・・・あい分かった。もうよい。下がれ」

 くも八が伝令兵を下げる。伝令兵は一礼し、戦場と化した広場へ戻って行く。

 「・・・さて、どうしましょうな。思わぬ火事は、うちの主力をも飲み込むほど広がってしまった」

 くも八が広場を見つめたまま、自分の長い(ひげ)を撫でる。

 「・・・龍神(りゅうじん)の方はどうなっている?」

 後ろに座るアドウが重い口を開く。すると、くも八は黙ったまま首を横に振る。

 「そうか。・・・門は、地下の(じょう)を開けねば開かぬのだろう?」

 「ええ。ですが恐らく、門が開かれるのも時間の問題かと。壁上の弓兵達も(しか)り、この騒ぎの中で隠密(おんみつ)に動いておる者がおります」

 くも八の話に、アドウが更に顔を(しか)める。

 「・・・アドウ様。これはあくまでわしの憶測(おくそく)ですが、・・・」

 くも八の話にアドウが眉を(ひそ)める。

 


 一方、広場を見下ろす城内の最上階では、城主ソンカイと商人のリコウが戦況を見守っている。

 「・・・カゲ斗弓(とき)殿(どの)とガマ比古(ひこ)殿(どの)がやられるなんて・・・!」

 リコウが身を乗り出して、城下の広場を見ている。一方の城主ソンカイは、兵隊長が二人討たれたにも(かかわ)らず、相変わらずの無表情でジッと広場を見つめている。

 「・・・龍神の方はどうなっている?」

 ソンカイが口を開く。

 「はっ。龍神は未だ動きがございません。先程解き放たれた町人達も、未だ町内を探し回っております」

 突如誰もいなかった後方からの声に、リコウが驚き振り向く。見るとそこには、いつの間に来たのか、全身黒()くめの衣装を着た(しのび)が三人、片膝を着いている。リコウの開いた口が(ふさ)がらない。ソンカイは忍の報告を聞き、眉を(ひそ)める。

 「・・・そうか。では相打ちは相叶(あいかな)わぬか」

 ソンカイの言葉にリコウが眉を(ひそ)める。するとソンカイが、後方の忍の方を振り返る。

 「まあそれでも、アドウの奴はしぶとく生き残るであろう。アドウと龍神がぶつかった後、両者とも始末出来るよう準備しておけ」

 「はっ!」

 シュッ! 忍達が一斉に姿を消す。リコウは、ソンカイの言葉に耳を疑っている。

 「・・・ソンカイ様。今のは?」

 「フッ。聞かれたか。では消えて貰わねばならんな?」

 ソンカイがニッと笑う。リコウの(ひたい)を一筋の汗がタラリと流れる。

 「フフ。冗談だ。今のは貴様を信用して聞かせた。当然、他言(たごん)すれば殺す」

 笑みを浮かべながらも向けられた冷たい視線に、リコウは生唾を飲み込む。

 

 

 「どりゃアァァ!!!」

 しゃらくが目の前の兵達を蹴散(けち)らす。するとその先には、大きな正門が(そび)え立っている。

 「着いたァ!」

 すかさず門前の兵達も蹴散らし、町人達を門の前に移動させ、その前にしゃらくとウンケイが立ちはだかる。ブンブクは既に変化(へんげ)を解き、町人達と一緒に居る。

 「よしお前ら! 門を力一杯押せ!」

 ウンケイの掛け声に、町人達がすかさず門を押す。しかし門はピクリとも動かない。

 「おいウンケイ! お前が行ってやんなきゃだろ!」

 「分かってる! ・・・ここ一人で大丈夫か!?」

 「しゃらくせェ! おれを誰だと思ってんだァ!?」

 ガガガガァァッ!!! しゃらくが迫って来る兵達を吹き飛ばす。その隙にウンケイは後方へと走り、町人達と一緒になって門を押す。すると金属が擦れる音と共に、門が(かす)かに動く。

 「・・・くっ! まだか!? おいブンブク! お前も手伝え!」

 ウンケイがそう言うと、ブンブクは変化の術で再び巨大な赤鬼に化け、一緒に門を押す。

 「(ひる)むな! 行け! 門が開く事はない!」

 しゃらくの前に広がる兵達は、倒せど次から次へとやって来る。

 「ハァ! ハァ! ウンケイまだかァ!?」

 汗だくのしゃらくが叫ぶ。

 「もう限界か!? 早過ぎだ!」

 汗だくのウンケイが叫ぶ。

 「ガルルル! ンな訳ねェだろ!」

 すると、しゃらくが右腕を前、左腕を後ろに回し、腰を(ひね)片膝(かたひざ)を着く。その間に兵達は、しゃらくの目と鼻の先まで迫る。刹那(せつな)、しゃらくが目を見開く。

 「“龍爪巻(たつまき)”」

 ゴゴゴゴォォ!!! しゃらくが、目にも止まらぬ速さで回転しながら宙高く跳び上がり、まるで竜巻のように、周囲の兵達を飲み込み、一掃する。しかしその威力の代償は大きく、着地したしゃらくは肩で息をし、すぐ立ち上がれずにいる。すると、凄まじい威力の攻撃に怯む兵達の中から、弓を構えた兵達が顔を出す。

 「放て!」

 号令と共に幾本もの矢が飛んで来る。しかしその標的はしゃらくではなく、その奥の門を押している者達へ向かって行く。しゃらくが慌てて立ち上がろうとするも、疲弊(ひへい)した脚が言う事を聞かず、すぐに立ち上がれずにいる。

 「ウンケイ!!」

 しゃらくが叫ぶ。振り向いたウンケイが、咄嗟(とっさ)に傍の薙刀(なぎなた)に手を伸ばす。しかし矢は、夢中で門を押している町人やブンブク達の背に迫る。刹那、ガガガンッ!! 飛んで来た全ての矢が地面に叩き落ちる。

 「シカ!!」

 そこには両の手に刀を握るシカが立っている。

 「何をもたもたしてるんだ! 私のブンブクちゃんに当たったらどうする!?」

 「私のって・・・。あぁ悪い! 助かったぜ! よし皆、いつ錠が開くか分からねぇ! 押し続けろ!」

 ウンケイの掛け声に、再び皆が門を押す。

 「シカありがとう!」

 刀を構えるシカに、しゃらくが笑顔を向ける。

 「一番はお前だ! 私のブンブクちゃんをしっかり守れ!」

 「あァすまねェ!」

 立ち上がったしゃらくも構える。背中合わせに構えた二人に、兵達と矢が向かって来るが、両者は次々と薙ぎ払っていく。

 「錠を開けぬ限り門は開かん! 奥の奴等は捨て置き、その二人を袋叩きにしろ!」

 兵達がどんどんとしゃらくとシカに向かって行く。刹那、ガコン! 大きな音が門から聞こえる。すると皆に押された門は、音を立てて開いていく。

 「何!!?」

 兵達が目を丸くしている。



 「ふぅ。これで良し」

 城内の地下では、ツバキが門の錠である壁から伸びた棒を下げ、開錠している。傍には錠を守っていた兵が何人も倒れている。



 地上では、ウンケイが押さえている隙間から、町人達が外へ駆け出す。城の外でも兵達が何人も倒されている。

 「よっしゃア! あとはお前ら倒すだけだなァ!」

 

 完

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