第99話 Who are me
アハッ! と笑うとグラータは自身の掌から雷を放出する。無差別に放たれる雷に「相手にしてられねえぜぇ」とジュードは姿を消してしまう。それは味方などまるでいないと言っているようでジュードにも被弾するのだろう。糸雲と対戦していたジュードは「あばよ!」と完全に消えてしまう。
グラータは綿毛を放り捨てて谷嵜先生を殺すために標的を定めた。
「雷って斬れるわけ?」
「出来るから切れるんだろ」
あくまでも空想の刀、想像することでなんだって出来る。
グラータの雷撃が谷嵜先生と糸雲、彼を襲う。紙一重で回避する。
(ゾーン内だからって好き勝手に)
グラータの放電が地域一帯の異常を引き起こす。停電する。街灯が消滅する。パリンっと割れる電球。光の速さで動き目で追うことは難しい。触れてしまえば、身体に電気が流れて麻痺するだろう。
「どんな芸当だろうと俺の糸は誰も逃さない」
先に動いたのは糸雲だった。硬質な糸がグラータに向かった。グラータの手首に糸を巻き付けるとそこから電流が流れ込み。糸雲は感電した。
「ぐぁあっ」
「そりゃあ鉄製の糸に雷を触れたら、電流が流れる。理科の授業だな」
「それ、早く言ってくれると嬉しかった。センセー」
谷嵜先生は地面を蹴り距離を詰める。手にある刀を振り上げてグラータを斬りつける。けれど刃に手応えを感じなかった。刀を再び変形させて銃に戻して連発する。反動で後ろに身を捩る。
グラータも黙って攻撃を受けるわけもなく、落雷を落とす。突っ立っていたら雷に当たり行動不能は免れない。
反撃しようと銃口を向けた時、現実にいる人たちがグラータを隠してしまう。誤射したところで現実に影響はないが、連射できると言っても数秒のタイムラグが生じる。その隙を突かれてしまう可能性もないわけではない。
「アハハハッ!」
その笑い声が聞こえてすぐに谷嵜先生の背後に現れて鋭い爪を突き立てた。
背中を引っ掻き動きを鈍らせると蹴られる。引っ掻き攻撃の反動で地面に近づいた身体を支える為に手を付いて振り返り撃ち込む。グラータの仮面の額が欠ける。
「っ……痛ったいわね! なり損ない風情が! 調子に乗るんじゃないわよ!」
グラータの逆鱗に触れたのか、雷の柱を生み出して谷嵜先生の行動を阻む。暴力的なまでの光が視界を塞ぐ。それで不利になるのは、谷嵜先生だけではない。グラータもまた谷嵜先生を見失っている。どちらが先に見つけるかで勝負が決まる。
「谷嵜先生! 正面にいます」
雷から逃げ惑って、糸雲を解放していた彼が谷嵜先生に告げる。言葉を疑うこともせずに、谷嵜先生は真っすぐと銃を構えて撃った。雷の柱を通り抜けて、グラータの胸に命中する。
「ちっ! クソガキ!!」
グラータは痛みを感じているようで声を殺しながらも、声の主を視る。
瞳は紫色にして、未来を視る彼。先読みが出来る彼の空想がこの場にあるのは、こちらからしたら好都合だったがグラータにとっては鬱陶しい存在。
何もできないと放置していたが、邪魔されてしまうのは許容できない。
谷嵜先生は雷を避けながら、グラータに突っ込む。その手にある銃を刀へと変形させて、地面を蹴り、距離を縮めて、突き刺した。
「未来予知。千里眼。バカにしてくれるじゃない!」
「くッ!」
谷嵜先生を突き飛ばすと、その手から刀を手放してしまう。
グラータは、突き刺さった刀を引き抜いて握り直す。
「バニティの奴が生かしておけとかなんとか言っていた気がするけど、従う義理なんてないわよね」
目にも止まらぬ速さで彼に近づき彼に刀を振るった。否、普通の人間が見たら遅かったのだ。けれど、今の彼の瞳は、視界はなにもかも先を見据えている。
振り下ろされた脅威を難なく回避していく。
「わっ!」
転がりながらグラータの刃、雷から逃れる。タイミングが少しでもズレてしまえば大怪我は免れない。
谷嵜先生は、彼を助ける為に起き上がり近づこうとすると目の前に星空の球体が出現した。光も闇も吸収してしまうような奇妙な空間。立て続けに起こる驚きに思考回路も麻痺してくる。このままでは、星空の球体に飲み込まれてしまうと頭ではわかっていても身体が行動を起こさない。
「消えなさい!」
「くそっ……!」
間に合わない。彼はグラータに殺されて、谷嵜先生は星空の球体に吸い込まれてしまう。そう直感した直後、谷嵜先生の身体に硬質な糸が巻き付かれて引っ張られる。
「谷嵜君。貸し一つ、いや二つ」
「パペッティア」
糸雲が指さす先には、硬質な糸で作られたドーム状の塊がグラータの攻撃を全て阻止していた。
糸が解けて、中が見えて来る斬撃と落雷に襲われたはずの彼が綿毛を抱えていた。
彼は、グラータから逃げ惑っている間に綿毛を抱き上げて糸雲に護られたのだと気づく。糸雲が機転を利かせたのだ。落雷が起こる直後に硬質な糸で雷の軌道を変えたのだろう。
「ちっ……雑魚がぞろぞろと。いいわ。一人でも連れて行けばいいのよね」
グラータは不機嫌な声色で周囲に雷の柱と星空の球体を無数に生み出し谷嵜先生と糸雲の行動を封じた。逃げ道を確実に塞ぎ、どちらかを選ばせようとする。柱に触れてしまえば、身体は感電して最悪死んでしまう。球体に触れたらどうなるのかいまいち把握しきれていない。
新形を追い詰めたジュードと同じ力。吸魂鬼ならば持っているのだろう。
「私、悪者だから汚い手も簡単に使っちゃうのよね!」
星空の球体が生み出されて、雷の柱で身動きが取れない谷嵜先生と糸雲はどちらかが狙われると思っていた。けれど、星空の球体は方向転換して硬質な糸を護られている彼と綿毛へと向かっている。
「助けに行っても良いのよ? 勿論、邪魔するけどね」
落雷が落ちる。谷嵜先生は舌打ちをして回避するしかない。
硬質な糸が解かれて、彼は綿毛を背負って星空の球体から逃げる。空想の使いすぎて双眸が熱を帯びても、綿毛を落とさないように逃げ惑う。
谷嵜先生と彼の距離は三十メートルほどでゲートを開くにも遠すぎる。もう少し近ければ、ゲートを開いて離脱させることが出来る。
星空の球体に触れてしまう未来が見えてしまうのを目を閉ざすことなく先を見据える。
「パペッティア、二人を連れて離脱しろ。複数は悪手だ」
「だろうね。けど、簡単に離脱させてくれる気配もない」
逃げられない。さすがの糸雲も分が悪いと理解しているようでどうにかして若者を回収したいのだが出来ない。一本、二本と雷の柱が増える。彼の千里眼を以てしても大人たちに近づくことが出来ないのだ。硬質な糸が雷に触れると手が痺れて機能を失う。彼らに気を向けていたらこちらが攻撃されてしまう。
「先生! 頭上に来ます!」
言われてその場を跳ね退けると言われていた通り落雷が落ちる。
いつどこから雷が来るのか分からない。
彼がなかなかに回避力が高いのか今のところ無傷でいる奇跡をいつまでも続かせることは不可能だろう。糸雲は糸を伸ばして、柱の隙を縫う。雷に触れる直前に糸を切断して身を捻る。
そして、グラータとの距離が近くなり糸をその腕に巻きつけた。
「なにっ」
瞬きの間にグラータは地面に倒れていた。いったいなにがあったのか理解できずに困惑する。その手足に糸が巡っている。
糸を辿るその先には、肩を上下させて呼吸をする糸雲。
「自己操殺。お前は俺の支配下だ」
指先ひとつでグラータの動きは掌握できる。
グラータは持ち上げられる。不本意な動きにグラータの機嫌はますます悪くなる。
「ばぁか。私が自分の雷で怪我するわけないじゃなぁい」
グラータは放電する。糸を通して糸雲を襲う。「ぐぁああっ」と悲鳴をあげるのをグラータは楽し気に哄笑する。人間の悲鳴を聞いて楽しんでいる。
「時間稼ぎだよ。ばぁか」
そう言われて気づく。グラータは一つのものしか見えていないのだ。ちょっかいをかけてきた糸雲しか見えていなかった。その所為で谷嵜先生の動向を監視できなかった。谷嵜先生へと向けていた雷も星空の球体も避けられて、彼らのもとへ向かっていた。
その事に気づいたときには、遅く彼と合流を果たしていた。
追いかけようにも糸雲が邪魔で身動きがとれない。
(イライラする。邪魔ばっかり、人間の癖に、食い物の癖に、ただの……)
「亡者のなり損ないの癖に!!」
「ッ?!」
糸が千切れた。千切られた。グラータは谷嵜先生に向かって巨大な球体を生み出した。得意げに使っていた雷ではなく、何もかも消し去る球体で逃げる物を許さないと放つ。
美しくも不気味な球体が迫る。
「谷嵜君!」
ゲートを開き彼と綿毛を退避させている谷嵜先生は動きが遅れた。




