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第98話 Who are me

 谷嵜先生は、真っ二つになった暁を診ていた。現実に戻って、身体が残っていてくっついても、暁の心は死を自覚してしまっている。安定するまで、現実に連れて行くことは難しい。だからこそ、此処で留めなければならないのだ。


 結界空想を此処で終わらせていいわけがない。


 谷嵜先生は、自身の掌を切り裂いた。暁の傷を撫でる。すると見る見るうちに、暁は元の状態に戻っていく。完全に塞がると暁は焦点の合わない瞳を彷徨わせる。灰色の空が見える。その傍には、黒服の男、谷嵜先生が立っていた。

 上半身を起き上がらせると身体が痛む。身体の中心、縦に真っすぐと痛みを感じる。不意に俯くと衣服が真っ二つになっていた。確実に死んでいた。


「先生、俺は……いったい」

「怪我を塞いだだけだ。まだ安定していないが、空想は使えるか?」


 起きてすぐに暁の安否ではなく、空想の使用を告げる当たり容赦ないと暁は、相変わらずの様子にどこか安堵を感じていた。

 痛む身体を持ち上げて立ち上がる崩れるように座り込むのを谷嵜先生が支えてくれていることに感謝を告げて、意識を集中させて結界を練る。


 掌に問題なく生み出された結晶。無事に空想を発動できるとわかれば、谷嵜先生は暁と共にゲートへと入る。ゾーンからゾーンへと出る。新形がいる地点にゾーン越えしたのだ。

 ゲートから出て来ると頭上で、新形が落下してくるのを見つけてすかさず結界を生み落下を防ぐ。

 

「あとは、俺たちに任せろ。お前は寝とけ」


 新形は、安心した表情をして眠った。暁に結界で護る事を命じる。暁は二つ返事で結界を展開して、気を失った新形を護るために努める。


「おい、おいおい。保護者が出てきてんじゃねえぞぉ」

「うちの生徒にちょっかいをかけるな。吸魂鬼」

「逃げることしか出来ねぇ軟弱野郎がよ。俺様のおもちゃを横取りしてんじゃねぇぞぉ」


 ジュードは、醜悪の感情を谷嵜先生へと向ける。新形を殺しきれなかったことが気に入らない。もっとも完全に殺し切ることは目的にしていない。もしも殺し切ることに執着しているのならば、星空の球体に全てを飲み込ませて殺しているだろう。


「てめぇの空想を教えてもらおうかぁ?」

「ああ、しっかりと受け取れ」


 ズガンと耳を劈く音が響いた。ジュードの仮面に向かって鋼が飛ぶ。

 仮面に直撃すると頭部が後ろに反れる。仮面に疵はつくことはなかったが仮面の内側に衝撃が受けたのか赤い血が流れていた。


「痛ぇ~。だが、完全じゃねぇブガッ!?」


 ズカンと再び轟いた。その後も、何度も何度もジュードの額、顔面へ目がけて銃弾が向かう。谷嵜先生の手には、黒光りする凶器。銃器が握られていた。かつて悋気を殺した銃器が握られている。


「吸血鬼部が吸血鬼を庇ってんじゃねえぞぉ! ふがっ!?」


 不機嫌なに声を荒げるジュードに谷嵜先生は容赦なく銃弾を撃ち込んだ。


「バカスカ撃ちすぎだぁ!! てめぇら人間どもの空想程度で俺様を殺せるわけねぇだろうがぁ…………っ!?」


 新形がどれだけ空想を酷使してもジュードは脅威の再生能力を見せていた。負傷した人間の空想は程度が知れている。並大抵の吸魂鬼狩りでは仮面の吸魂鬼は殺せないと嘲笑うジュードだったが身体に異変が起こった。


 治らない。


 谷嵜先生が撃ち込んだ銃弾が体内に侵食する。貫通せずに体内に残り続ける。

 内側から喰い破る虫のように動いている。銃弾が生き物のようにジュードの身体を蝕む。


「てめぇ! なにしやがったぁ!!」

「これもお前らが舐めた人間の空想だ」


 ただの銃弾ではない。それはあくまでも谷嵜先生が想像した力。


「正直に空想を開示するバカがいるか」


 その銃弾の一発がジュードの右胸に向かい穿つ。そこには、人間が持つはずの鼓動する臓が存在していなかった。普通の人間のように殺すことが出来ない。


(痛ぇ……! 冗談だろぉ。ただの人間に俺様の……ッ!? まさか)


「まさか、てめぇかぁ!」

「気づくのが遅い。減点だ」


 そこからは、はやかった。行動も、時間も、速くて、早かった。


 谷嵜先生は地面を蹴りジュードとの距離を縮めて仮面に銃口を突き付けたゼロ距離で撃ち放ったが、ジュードも二度目はないと紙一重で身体を捻り回避する。こめかみに銃弾を掠める。


「おいおい、髪が焦げたじゃねぇかぁ」


 その戯言も聞き入れず谷嵜先生は長い脚を振り下ろしてジュードを地面に叩きつけた。硬い地にジュードは鈍い呻き声を上げた。冷ややかな目がジュードを見下ろす。

 仮面の奥で何を思っていようとジュードは動けないでいた。


(本物か。それともフェイク? どうだって構わねぇが)


「俺様を踏んでんじゃねぇ!」


 狂人的な力と共に谷嵜を吹き飛ばす。飛び退いて銃を構え直す。


「おいっ! 男ぉ! てめぇ、よくも俺様を踏みやがったなぁ!」

「噛ませ犬の物言いだな」

「だとぉ!? てめぇぶっ殺す」


 ジュードは、星空の球体を生み出したことに谷嵜先生は怪訝な顔をする。

 球体は大きさを増して、谷嵜先生へと向かう。銃弾を放ち、様子を見ると銃弾は、球体に取り込まれて無に帰した。


「暁! 離脱しろ!!」


 ゾーン内にのみ干渉するようで、現実世界に存在する電信柱に疵を付けなかった。ならば、ゾーン内にいる暁や気を失っている新形が危険だと即座に理解すると谷嵜先生は暁に現実に帰還することを命じた。暁は、谷嵜先生の言葉に従い、現実へと離脱する。


「おいおい、良いのかぁ? てめぇ、一人で……遠距離型だろうがぁ」

「誰が銃器だけだと言った?」


 その手にある銃が形を変える。その様子にジュードは目を見開いた。

 人間が所有する空想は常にひとつ。人間の空想領域では、それが限界でありそれ以上では、精神異常をきたす。


「やはりてめぇが、本命かぁ? それとも、ただ狂っちまった愚者か」

「お前の目で確かめてみろ。そして、消えろ」


 朱殷色の瞳がジュードを見る。


「忙しいそうね、ジュード。手伝ってあげましょうか?」


 突如として聞こえてきた女性の声。雷鳴と共に現れたのは、グラータだった。

 その姿に谷嵜先生は目を見開いた。グラータの手には、引きずるように持つ綿毛がいたのだ。


「邪魔すんじゃねぇ!」

「死にそうになってる姉弟アンタを助けてあげようって言うお姉さんの優しさを無下にするじゃない。そのまま消されていたかもしれないのに」

「てめえの目は腐ってんのか! いつだって絶好調だろうがぁ!」


 漫才の会話を聞かされている最中「あれ、谷嵜君じゃん」とこちらもまた聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見ると糸雲が得意の糸でこちらにやってきたその後を彼が駆け寄って来る。彼の空想でグラータの居場所を突き止めたのだろう。


 糸雲が谷嵜先生の横に降りると「面白い奴を相手してるね」と投げかける。


「ならお前が相手しろ。俺はうちの生徒を回収する」

「そうしたいけど、生憎、あの子を助けるのも依頼のうちだ」

「依頼?」

「吸血鬼部のジョン・ドゥ君から、あの子と暁君を助けろって」


 糸雲は追いかけるのに疲れて肩で息をする彼を一瞥すると谷嵜先生は深いため息を吐いた。


「はあ」

「折角半額セールしてあげているのに懲りないな。だから誰も救えない」

「そうだな。その意見には同感だ。反面教師で行こう」

「教師が反面教師とか言う?」


 糸雲は、詳しい話は後にして今は目の前の危険レベルが高い吸魂鬼を退治しようかと硬質な糸を伸ばした。


「ジョン、千里眼を使って機を見て綿毛を回収しろ」

「はい!」

「パペッティア、足、引っ張るなよ」

「誰に行ってんだい」


 その様子を見たグラータが「やる気になっちゃって。あーあ、男ってヤダヤダヤダ」と文句を垂れる。


 谷嵜先生は、銃器の形を変える。その手には、脇差ほどの長さをした刀が握られていた。銃弾で仮面を破壊出来ないのならば、斬りつけて殺すことを考える。

 彼が谷嵜先生にグラータが雷を使うことを告げる。そして、綿毛の空想で雷の軌道を変える事が可能である事も告げれば、刀を構える。


 ジュードを糸雲が、グラータを谷嵜先生が相手をするために立つ。

 硬質な糸がジュードに向かうとジュードは少しは骨のある奴が来たと楽し気に笑う。一方で「ガキ相手じゃあつまらなかったのよね」とグラータが谷嵜先生に向かう。

 そのサポートで彼は千里眼で未来を視る。


「本命かどうかなんて関係ないわ! ぶっ壊しちゃえば同じこと!」


 雷撃が谷嵜先生に向かうと刀で斬り払う。その勢いを利用して距離を詰め刃を振り上げて、グラータを斬りつけて、蹴りを入れる。


「ッ……!」


 身体を斬りつけられてグラータは動揺する。


「……なんで治らないのよっ」

「お前らの言う本命が俺だったんだろ」


 怪我が治らない事に戸惑いながら「本命」と呟いた。


「そう。いいわ。もし本当にそんなら……壊すだけじゃない、ぶっ殺しちゃえばいいわよね!!」

「谷嵜君、相手を怒らせる天才」

「力量を図るには怒りが十分だ」

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