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第96話 Who are me

 ゾーン越えして、部室に飛び込む様に戻って来る。

 負傷者をすぐに寝かせられる為に用意された空き教室。簡易ベッドが用意されたその場所に彼と浅草は佐藤先生と花咲を寝かせる。


 浅草は、佐藤先生のスマホを取り、吸魂鬼狩りのアプリを起動させる。『緊急要請』と打ち込み。先ほどまで仮面の吸魂鬼が二体出現した座標を打ち込む。

 これで何人が来てくれるかはわからない。来てくれないかもしれない。期待するだけ無駄というものだ。金が発生しない要請を素直に受け入れるほど世の中甘くない。特に通行料を取られて自分の事で手一杯になっている吸魂鬼狩りが他人の為にできることなど限られてくる。


「ジョン」

「え、わっ」


 部室に戻ってきた二人。浅草は彼に佐藤先生のスマホを投げ渡す。電話帳からモグラに属している者を呼びだすように言われる。

 電話帳をスクロールして、一番に見つけたのは『パペッティア』の文字だった。他にも見慣れない文字があるが、彼が知っているのは、操り師である糸雲だけ。

 好き嫌いなど言っていられない。どれだけ嫌味を言われても、悪態を付かれても、構わない。


 今回の依頼は糸雲か、蛇ヶ原、大楽が出したものだろう。もしくはモグラに所属している他の人。それでも、依頼は達成している。

 彼はコールボタンをタップする。耳に当てて出てくれと心のうちで祈る。数回のコール音が焦燥を強める。


『最近、お前からの連絡が多い気がする。営業困難で客引き? 酒は控えてる。悪いけど』

「助けてください」

『あ?』


 佐藤先生の連絡だと思って出てみれば、まったく違う若い少年の声に相手は数秒沈黙した後、深いため息が聞こえた。


「花咲律歌さん、モグラ所属、名前は胡蝶さんの捜索依頼を達成しました。依頼は完了です。今度は僕たちを助けてください。仮面の吸魂鬼が二人、現れました」


 矢継ぎ早に言う。


『またお前は、千里眼はどうした。どうして使わない』

「僕じゃダメなんです! あとで好きなだけ言えばいい。でも、この身勝手で大切な人たちを失いたくない! 私情じゃなくて、これは、吸血鬼部の依頼です。助けてください」


 あとでいくらでも請求したらいい。生涯かけて支払っていく所存だ。綿毛を助けて、暁を助けて、みんなを助けてくれ。


『吸魂鬼の詳細』

「一人は、花咲さんを襲撃していたジュードって呼ばれています。僕たちを襲ったのはグラータです」

「吸魂鬼ホイホイでもついてるの?」

「にょっ!?」


 ゾーン越えしてきたのか、突然現れた糸雲が呆れた様子で彼を見た。

 通話が終了したスマホを片手に驚愕する浅草を一瞥して彼を見下ろす。


「ランク低い個体なら、相手にしないけど。今回は、面白そうだ。引き受ける」


 糸雲は自身のスマホをタプタプと操作すると数分で、彼の手にある佐藤先生のスマホが振動した。視線を下に向けると『救援要請が受理されました』とポップアップ通知が表示されていた。


「まあうちのが世話になったらしいし」

「ゴー?」

「イイヨ」


 糸雲は、浅草を見て「君は、怪我人の面倒をお願いしても?」と言えば「御意」と敬礼の真似をすると満足に口角を上げる。


「ジョン、ついてこい」


 そう言って糸雲はゲートを開いてゾーンへと入っていく。彼はその後を追いかけた。



 ――――



 四十五分前、谷嵜先生と新形が暁を救出するために向かっていた。

 新形は、その背に翼を生やして上から暁を探した。コンクリートジャングルと言われた都会ではなかなかに目的の人物が見つけるのは至難の業だ。どれだけ相手に色があろうと同じことである。


 暁を見つけたのは、暁が自身に結界を張り身を護っているところだった。結界がゾーン内の光を反射させて新形の視界に留まった。

 新形は翼を消しそのまま落下する。吸魂鬼の頭部へ着地を目指すと狙い通り吸魂鬼の頭部を蹴り飛ばした。


「お待たせっ」


 蹴り飛ばした勢いでその場で回転して、無事に着地を完了させる。

 空想の練り過ぎで眩暈を起こしている暁を見て「流石副部長」と称賛する。


「早い登場ですね」

「そりゃあ、先生の期待に応えないとね」


 新形が手を伸ばして立ち上がらせると谷嵜先生も駆けつけて来る。


「暁、無事か?」

「はい。……ジョン君は?」

「佐藤に任せてきた。今はこっちだ」


 新形が蹴り飛ばした吸魂鬼は、ビルにぶつかり、瓦礫に埋まっている。不機嫌な雰囲気を垂れ流しながら起き上がり仮面のズレを直す。


「おいおいおい。随分じゃねえかぁ! 百面獣」

「おやおや、誰かと思えば……あんたか。趣味の悪い遊びばかりしてる吸魂鬼、ジュード君」


 いったい誰がちょっかいをかけているのかと思えば見覚えがある吸魂鬼だったと新形は驚く様子もなく名を呼ぶ。


「今度は、確実に殺せるね」


 新形の言葉を挑発と取ったのか。突如三人の視界が僅かに暗くなった。暁は何ごとかと見上げた瞬間、新形によって襟を引っ張られる。「わっ!?」と驚いた声と共に暁がいた場所には、ドカンっと一発でクレーターが出来上がっていた。暁の視界に移ったのは、銀色。


「おい、おいおい、おいおいおい……避けるなよ。最高に良いポジションだっただろ。俺様の見事な拳で、ガキを粉砕出来る最高の瞬間を不意にしちまうなんてよぉ。俺様はガッカリだぜ」


 銀色の髪が揺れる。吸魂鬼の癖にさらりとしていることに新形は、不機嫌になる。アンバランスだが、すらりとして、しっかりとしている体躯。矛盾で形成されたような造形美。


「だが、一度は避けられても二度目は無駄だろうが!」

「お前ら! 下がれ!」


 谷嵜先生の言葉よりも速かった。言葉の意味を理解する間もなく、暁の身体が二つに裂けていた。視界が左右に別れて、倒れた。


「暁ッ!」

「まず一人」


 人間の死が呆気なくもそこにあった。呆気ない最後だった。暁は見ていることしかできなかった。動けなかったのだ。これが吸魂鬼の力だと言うなら、ただの人間では到底太刀打ちできるわけもない。今まで多くの事案を解決してきたつもりだった。吸魂鬼狩りとして空想を鍛えてきた。結界の空想。暁家の名を汚さないようにと奮闘してきた結果が今だったのだ。

 今まで防戦一方だった暁は、都合いいの的だろう。暁が張っていた結界をいとも容易く貫通させて殺したことに驚愕する。


(大丈夫、暁はまだ死んでない。まだ此処に残ってる。完全に修復を……いや、ダメだ。今は柳が近くにいない。治癒を持っている人が)


 こんな状態は初めてだった新形もこれには驚愕で身体が動かない。知っている吸魂鬼だとしても、以前あった時となにもかもが違うのだ。


「焦るな。新形」

「先生」

「まだ間に合う。時間を稼げ、出来るな?」


 新形の動揺を落ち着かせるように背に手を置いて静かな声で言う谷嵜先生に新形は頷いてジュードを見る。


「いいのかぁ? 全員で俺様に向かってこなくてよぉ」

「私だけで十分だよ。特にあんたはね」


 谷嵜先生が傍にいる。谷嵜先生が暁を取り戻してくれる。

 新形が自身を豹へと変形させる。出来るだけ谷嵜先生と暁から離すために動き出す。


「慢心、過信。いいぜぇ。いいぜぇ最高だぁ。それを砕かれた末の表情、堪らねぇ。興奮ちしまうぜぇ。人間は、一言でそれを傲慢つーんだ!!」


 自身の空想が優れていると勘違いしてしまう。今まで無事に生きて戻ってこられた。だからこそ、自分を信じてやまない。それを打ち砕き歪む表情に悦を感じるジュードは、肩を震わせて笑っていた。仮面の奥に表情があるのならば、口角を釣り上げて、傑作だと哄笑しているだろう。


「まだまだ青いね。砕けた末に見える表情なんて恐怖しかないよ。その仮面をぶっ壊して、面を見せてもらうから。蟒蛇うわばみ! 目にもの見せてやって!」


 言うと新形の腕が、見る見るうちに形を変える。巨大な大蛇。人間の腕を優に超える大きさ。

 蟒蛇はジュードを見て大口を開けた。ジュードは一歩跳ね退けるが蟒蛇は逃がすわけもなく、身体を伸ばしてジュードを拘束する。そして、蟒蛇は大口を開けた。鋭い牙を突き立てて丸のみにしようと狙う。


「おいおい、探求心が祟ったなぁ! 百面獣!!」

「……っ」


 牙が首を突き刺し、上空へジュードを放り投げて飛ばし大口を開けて飲み込む準備をしていると、放り出された身体は消滅して、無傷のジュードが蟒蛇の頭部を掴み触れただけで粉砕した。

 伝播するように新形の腕が崩壊していくのを蜥蜴の尻尾のように切断する。身体にまで崩壊が進むのは得策ではない。


「うぐッ……!?」


 激しい痛みを殺そうと頭の中を冷静にさせる。ぶわりと汗が吹き出す。


「この空間で俺様に敵うと本気で思ってんのかぁ? 雑魚どもが」


 嘲笑する声。蟒蛇の肉塊が飛び散り頬を黒く汚して消滅する。ジュードはそのまま新形に向かって手を伸ばした。暁のように真っ二つにされるか、蟒蛇のように粉砕するか。向けられた手が触れる刹那、新形は後ろに強く下がった。兎のような脚力を以て退避したのだ。


「何をしたら消えてくれるわけ?」

「ハッ! 俺様を消そうだぁ? 出来もしねぇことを言ってんじゃねぇよ!」

「完全に消すことは出来なくても、一時的に巡らせることはできる」


 ジュードが拳を握り新形に近づく。新形はその場を跳ねる。拳を回避してジュードの頭を踏みつけると苛立ちの勢いのままにジュードは拳を後ろに振り回した。新形の髪が僅かに千切れる。


(触れるだけで壊すのかな。触れなければいいだけ)


 その拳が脅威だというのならと新形は背中に翼を生やす。ばさりと羽ばたかせて空中に行く。その後を嬉々と追いかけて来るジュードに狙い通りだと雲に触れられる距離まで行く。


「おいおい、見え透いた手口だなぁ! 新形ぁ!!」

「……」


 雲を超えるとそこは灰色の海。ジュードは新形と対峙する。

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