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第93話 Who are me

 谷嵜先生を口説いている新形と一切の反応を見せない谷嵜先生の少し後ろを追いかけるように旧校舎に向かえば、昇降口で紛失したサイコロを探している佐藤先生に会う。どうやらサイコロでジャグリングの真似をしていたらうっかり手を滑られてサイコロの一つを放り出してしまったのだと言えば「バカか」と谷嵜先生は呆れた様子だ。


 佐藤先生を外に残して三人で部室に向かうと、吸血鬼部の部室では浅草と綿毛がトランプをしていた。スピードと言う数字の前後を手札から素早く出すゲームだ。自身の山札が無くなれば勝ちの単純な判断力ゲームをしている。


「ウィン!」


 ふんっと得意げな表情をする浅草と悔し気に残り三枚の手札を見つめる綿毛。

「次は、俺です」と順番待ちしていた暁がトランプをシャッフルしている。


「暁が珍しく課題してなーい」

「夏休み明けなのでする事がないんですよ。それに、たまの息抜きくらい許されるべきでは?」


 新形の茶化しも受け流してトランプを二つに分ける暁。

 部活開始時間になるまで谷嵜先生はソファに横になって寝に入った。早く来ても予定の時間までは何もしないのが、この部活の緩さだろう。


「ジョン君もどうですか? スピード」

「え、僕はいいよ。見てる方が」

「良いじゃない。貴男、白昼夢を覚えたんでしょう? それを使って浅草先輩に勝ってよ」


 どうやらスピードの勝者は浅草のようで「ウェルカム!」と挑発してくる。白昼夢をそんな私用に使っていい物なのかと戸惑うが、谷嵜先生は何も言ってこない。新形もスマホで谷嵜先生を撮影しようとしてこちらの話は聞いていない。


「それなら、隠君の次に一戦だけ……」

「ういうい」


 十分にシャッフルされたトランプが浅草と暁の前に各々の山札が用意される。

 スピードなんて小学校以来だと対面する二人のテーブルを見る。綿毛はあと少しのところでカードの運が悪く負けてしまったのだと教えてくれる。


「ルールはわかっているとは思いますが、手元に五枚のカード。中央には、二枚の表面でカードの前後の数字を重ねていきます。互いに数字が重ならない場合は、互いの山札から一枚を中央に重ねて続行。山札がなく、手札の五枚が先に無くなかった方が勝利です」


 一般的に知られているルールを改めて説明して、暁と浅草の勝負が始まった。

 初手で暁の手札にジョーカーが来てしまう。手札を重ねて複数で出す。そのタイミングを逃してしまえば、重ねた手札は無効になりはじき出される。

『3』『4』『3』『2』『A』『K』とトランプの数字が変って目を回す。

 スートは関係なくあくまでも数字勝負。判断能力が試されるトランプゲーム。


「ちなみに、ジョーカーを最後に残したらダメだからね」


 新形が告げる。暁の手にあるジョーカー。いざと言うときとして残しておいても、タイミングを見失い最後まで残ってしまうなんて詰まらないことにならないようにと言うが、そのタイミングを見つけるのがまた難しいのだと暁は心の内で毒づく。


「ウィン!」


 その一言を告げたのは言うまでもなく、浅草だった。

 ふんすっと両拳を付き上げて勝利を喜ぶ浅草に暁の手元には『joker』と道化師のイラストが描かれたカード。


「不覚です」

「だから言ったのに」

「いえ、あの時『8』がでるはずだった。その前後『6』も『7』も浅草さんは持っていないと確信を持てた。そこで俺の手持ちは『6』『joker』『4』そのままの順番でカードをだせていれば、俺の勝ちは確定していたはずなのに」

「場が『9』で手札に『10』があったら、そりゃあ出すでしょう」


 暁の頭脳戦は見事に完敗である。

 浅草が「ジョーン!」と彼を呼び。トランプをしようと誘ってくる。先ほどの試合を見て、浅草に挑みたいと言う方がどうかしているが、やると告げてしまっている以上、その席に座らなければならない。


 彼は唾を飲み込み暁が座っていた椅子に腰かける。よくシャッフルされたトランプが彼の前に差し出されて二つに分けられる。


「特別ルールとしてジョン君は、白昼夢を許可します。浅草さんは先ほどと同じように勝者の実力を見せつけてください」

「綽々~」

「僕だけハンデある」


 けれど白昼夢を使えることを谷嵜先生に伝えることは出来るだろうと深呼吸する。

 暁の合図と共にスピードが開始される。合図が言い終えた直後浅草の手は手前にあるトランプを引いた。


『♡4』『♧9』

『♢3』『♢10』

『♤4』『♡J』

『♤5』『♧Q』


 浅草の手札が流れるように入れ替わる。彼は戸惑いながら急いでトランプに触れなければと思っても速さが止まらない。『J』が出たならば、手元の『10』をと思ってもすぐに変わってしまう。やっと止まったのは、浅草の手札に出せるトランプが無くなってからだった。

 彼が出さなければ、浅草は動けない。ニコニコと満面の笑みを浮かべる王者に彼は手も足も出ない。このまま何もせずにトランプを置いた瞬間、彼は負けが確定する。


 深呼吸する。そして、彼の視界が僅かに灰色になる。現実での違和感。意識が、視界が狭まる。

 彼はトランプを触れる。スピードのルールに則って中央にカードを置いていく。手札になければ、相手の手札に出せるカードが無くなるまで待機。同時に山札から引いて再開。




 彼は白昼夢の中で浅草とスピードをしていた。ゆったりとした空間。呼吸を止めてしまうほどの集中力。

 先ほどまで浅草の動きに追いつくことが出来なかった彼は、寧ろ浅草を置いていくように彼の手がトランプを柔らかく持ち上げて中央に重ねる。


「半ゾーン入り。これちょっかい掛けたら解けるよ?」

「やめてあげてくださいよ」


 手を叩いて音を彼に聞かせれば、目を覚ましてしまう。意地悪をしたくなるが、今は彼がしっかりと白昼夢を習得できているか確認しなければ新形は谷嵜先生に褒めてもらえない。

 傍から見たら彼に異常はない。だが、確かに新形は違和感を感じている。彼が確実に白昼夢を使っているのだ。ゾーンと現実に適正のある人間は少ない。彼はたった一日で白昼夢を掌握している。


 トランプが重ねられる音だけが部室に響く。誰もが緊張の面持ちでテーブルを見ること


「はぁ、はぁ……か、勝った。勝ちました!」

「すごいねー。柳の負け~」

「びぇ~」


 ギリギリの瞬間で彼が最後の一枚を重ねた。悔しいと表情に出しながら「ナイス~」と勝利を讃えてくれた。


「本来ならジョン君が浅草さんに勝つことは不可能ってことですか?」

「普通にやってて、動けなかったものね」


 暁と綿毛が言う。確かに彼は一切動けなかった。


「それにしても、浅草先輩は、トランプゲームが上手なんですね」

「ういうい」

「幽霊部員の子に教えてもらったらしいよ」

「幽霊部員……あっ、浅草先輩と燈火先輩が旅行に行っていたって」

「ういうい、ビックウッド!」

「それは大きな木と言う意味ですが」


 彼は、燈火と浅草が赤城山に登山をしていたことを告げる。

 旅行の言葉に新形が「先生! 私と旅行に行こう!」と誘うが本人は起き上がり言う。


「夏休みにいざこざがあったようだが、無事にお前らが部室に来られたことは嬉しく思うよ。改めて本日より俺たち吸血鬼部は被害者の通行料を取り戻すことを常に視野に入れて、ゾーン内に迷い込んだ迷子を見つける」


 いつものように調査をする。ゾーン内に取り込まれた人たちを救出する。


「ジョン、お前は白昼夢状態で千里眼を使え」

「え……」

「暁と二人で、探してほしい子がいる」


 暁がトランプを回収して箱に入れているのを一瞥して谷嵜先生は言葉を続けた。


花咲はなさき律歌りつかを探してくれ」

「行方不明者ってことですか?」

「ゾーンに入ったきり戻ってこない。なんでも妹を探してるとか」

「その人は、ゾーンの事を知ってるんですね」

「ああ、お前もよく知ってるだろ。パペッティアと同じ組織の奴だ」

「え……それってモグラってことですか?」


 彼が知る中で糸雲骨牌、蛇ヶ原入間、大楽蝶がモグラに所属している。

 花咲律歌も同じように所属しているのなら、同属の人が見つけるものではないのだろうかと不思議に思っていると、暁は彼の疑問を口にする。


「なぜ俺たちが? 向こうの失態でしょう?」

「どっかの問題児が、一億の借金を抱えたから、その半分を免除すると言ってきた」

「一億!?」

「カイジ?」


 綿毛と浅草が驚愕する中、心当たりがある彼は目を伏せた。


「もっとも学生相手に法外な金を請求する方もどうかしてるが、それを了承する奴もどうかしてる」

「半額って事は、五千万?」

「それも多いけど、まだ緩い方ですよ。それで、どうしてそれがうちに来たんですか? その人にではないんですか?」


 暁が余りにも他の組織に手を貸すのが不服なのか、断りの言葉を探している。

  モグラに所属しているのならば、吸魂鬼を追って戻ってこないのは日常だろう。生き甲斐を見出しているのなら、なおさらだ。妹を探すと言ってもそれだって通行料なのではないのか。


「花咲律歌。吸魂鬼狩りでの名前は、胡蝶。妹の名前は、花咲零。見つかり次第保護だ」


 彼と暁の二人で白昼夢や空想を使いながら花咲たちを見つけることを命じられる。

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