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第92話 Who are me

 二学期登校日。

 夏休みも終えて、彼らは学校に登校する。寝ぼけ眼を擦り眠気を晴らす者や意気揚々と登校する者がちらほらをいた。彼もまた日々の疲れを身体に残しながらも起きて、学校に登校する。


「よぉ、ナナ」

「わっ……燈火先輩」


 燈火が彼の背を見つけて近づいてくる。ぽんっと背中を叩かれて背後にいたことに気づかされる。


「佐藤先生から聞いたよ。お前のクラスで、襲われたんだって?」

「はい。……入学して一番に出来た友だちが」


 羽人が襲われたことは、幽霊部員である燈火にも伝わっているようで「そうか」と神妙な顔をする。彼が一番近くにいたのにと不甲斐なさに苛まれながら夏休みを訓練に費やした。疑似的痛みは、羽人の辛さに比べたら取るに足らないものだと自身を戒める。


「そ、それより! 燈火先輩は、夏休みどう過ごしてたんですか?」


 自分のことは気にしないでくれと笑みを浮かべて強引に話題を変える。


「俺? 俺は、柳と旅行に行った」

「旅行!? え、どこっ!? どこにですか!」


 燈火は彼の気持ちを理解して、伝えたかったことを言う。

 水泳選手を志すことをやめた浅草が、それを勧める燈火といったいどこに旅行に行ったのかと気になり、ドキドキと高揚した気持ちでズイっと顔を燈火に向けて尋ねれば「落ち着けって」と宥められる。


「赤城山」

「え……やま?」


 彼はきょとんとした顔をするが、燈火はいたって真面目な表情をする。


「ハイキング」

「はいきんぐ……って、海でもなんでもないじゃないですか!?」


 水泳してほしいのに、水泳から程遠い場所に言ってどうするんだと彼は呆れ顔をするが「まあ聞けって」と彼の気持ちを理解していながら言葉を続けた。


「違うんだよ! 赤城山付近には、湖があってさ! 柳が、度々ちらちらっと見てたわけ! これってもう脈ありだろ?」

「それって、ただ綺麗だからってだけなんじゃ」

「綺麗でも、入ってみたいなって思うもんじゃないのか?」

「そうなの、かな?」


 無理に海に連れて行くよりも、陸地を歩いて何気なく水に触れる機会があればいいと誘ったようで結果は、燈火的には良好のようだ。

 良い夏休みを過ごせたようで彼は安堵する。みんながみんな暗い顔をしていられない。いいニュースも知りたくなるというものだ。

 何より浅草は部活もあるのに燈火と旅行が行けたことに驚きがある。もっとも吸血鬼部の一部が襲撃されたり生徒が吸魂鬼に狙われては、部活動なんてしていられないだろう。


 燈火と昇降口に向かえば、偶然にも谷嵜先生を見かけて、彼は燈火に別れを告げて谷嵜先生を追いかけた。


「先生!」


 呼ぶと谷嵜先生は相変わらず目の下の隈を濃くして、ゆらりとこちらを見る。夏休み明けの谷嵜先生は面倒な二学期が始まると憂鬱そうな表情をしている。一生長期休みであれと雰囲気を駄々洩れにさせている。その気に押しつぶされそうになる彼は「うっ」と言葉を詰まらせる。


「お、おはようございます」

「はい、おはよう」

「あの、僕」

「お前、幽霊部員の自覚ないだろ」


 彼は谷嵜先生を前に言葉を忘れてしまう。吸血鬼部の幽霊部員。

 谷嵜先生は、別室で休養していたため、彼に直接幽霊部員だと告げたわけではない。洋館の調査を終えて以降は会っていない。新形の様子を見るに命が危険に晒されているわけではないようで、杞憂だったようで安堵する。

 けれど、その様子に谷嵜先生はため息を吐いた。


 ただの高校生。数か月前にこちら側を知った新参者に心配されるとは、まだまだだと口にせず彼の立場を尋ねる。


「え……あっ。はい、正直、自覚はしてないです。先生が僕の無謀な行動を咎めての処置であることも理解してるつもりです。だけど」

「理解してるならなおの事、余所の組織に頼み込むのは違うんじゃないのか」

「っ……それは」

「はあ……まあ、過ぎちまったことはしょうがない。お前、あんま余計なことするな。カバーするこっちの身にもなれ」

「カバー?」

「ハウスに目を付けられてるってことだ。これ以上、規定破りを続ければお前、連中に消されるぞ」

「消される!?」


 ハウスがどういう存在なのかいまいち掴めていないが、それでも谷嵜先生の口から物騒な言葉が出て来る事に緊張が彼を支配する。

 しかし、谷嵜先生は彼の強張った表情に「ふっ」と笑みが漏れた。


「冗談だ」

「……笑えないんですけど」

「目を付けられてることは事実だ。お前は、今までの組織間を往来したお陰で秩序がこんがらがってる。俺たちは三つの谷近辺、他の組織も各々ハウスやサブハウスのおこぼれに預かってる中、お前はどこか一つに留まらない」

「で、でも、それってパペッティアも同じじゃないです」

「あいつは、そう言うネットワークを介してる」

「ネットワーク?」


 困惑していると谷嵜先生はため息を吐いて、スマホを取り出して画面を見せた。

 そこには蝙蝠エンブレムが表示されて、その後IDとパスワードが自動入力されて出てきたのは、一昔前の掲示板のような表示をしている。吸魂鬼情報が行き交い、その中で依頼したり、依頼を受ける事が出来た。その中に『パペッティア』の文字がある。

 かつてバニティが勝手に吸魂鬼狩りのスマホを盗み開いていたアプリであると気づく。


「これで吸魂鬼狩りは、随時配置が決まる。この前、調査依頼が届いたのもコレ経由だ」

「そう、なんですか……」


(違う。洋館調査は、バニティが仕組んだ罠だった)


 彼はそれを言えなかった。


「ハウス連中のおこぼれを受けて、食ってる。この仕事を引き受けるのに、単独は危険を極める。だからこそ、組織が結成される。組織が結成されれば、方向性が決まって来る。俺たちのように通行料を取り戻すためだけに活動している連中と通行料は二の次に考える連中だ」

「そうだったんだ」

「だって言うのに、お前は知らないからってどこにでもふらふらと足元を固めろ」


 そう言われて彼は俯き「はい」と呟く寸前に「まあそれが出来てるのがまた厄介だな」と谷嵜先生は髪をガシガシと掻いて嫌な表情をする。


「吸血鬼部として、身を振ってると公言してる辺り、お前ほんと厄介だよ」

「え、えっと……すいません」


 彼は確かに吸血鬼部に属している意思表明をしていることが厄介で仕方ない。

 モグラの吸魂鬼狩りと親しいと暁から一通りの事は聞いているのだろう。


「はあ、お前を幽霊部員にしても意味がないことが分かった。これ以上、お前を野放しにすると面倒になる。暁とペアで行動しろ」

「え、それって、部員に戻って良いってことですか!」


 谷嵜先生は心底面倒な顔をして「ん」と短く返事した。

 これからも吸血鬼部として活動が許された。不謹慎でありながら彼はどこか自分の役目を得られたことに喜びが浮上する。


「白昼夢は?」

「いけます!」


 確信はない。だが、断言出来た。千里眼、白昼夢も共に彼はゾーンでの過ごし方もこなれてきた。ゾーン内に入っても、必ずしも吸魂鬼に遭遇してしまうわけではないと荒幡市での日々を理解した。


「なら、初日のブリーフィングに参加するように」

「はい!」


 彼は力強く頷いた。その様子に満足したのか谷嵜先生は踵を返して職員室がある廊下を進んでいく。彼は部活に復帰が認められた。


 教室で羽人の事を告げられる。彼と同じように男子はみんな、怪奇事件に巻き込まれてしまったことを知っている。羽人は登校する事が出来ない為、休学となった。


 一刻でも早く羽人を取り戻すために彼は気を引き締める。通行料でも何でもない。羽人の魂を取り戻すことが出来ればと、食われた魂など取り戻す術があるとも思えないが、元気な友人との再会を夢見る。




 放課後、彼は、旧校舎に向かうために廊下を歩いていた。本校舎を歩くのも夏休み明けということもあり久しぶりで、ホームルームを終えて解散を言い渡された後、部活まで時間があると本校舎を徘徊していた。その際に、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。


「何も出来なかったようじゃのう。それとも見逃したのか?」


 人気のない廊下、部活動で残った生徒の声が遠くで聞こえる。声のする方を覗き込むと谷嵜先生と女子生徒――綺麗な橙色の髪で古風は話し方をする出席番号九番の独弧どっこりんがいた。

 独弧は、同年代とは思えない程大人びていて、彼は顔を合わせるたびに言葉を詰まらせている。

 そんな同級生が、谷嵜先生と二人で話をしているのは、意外だった。それこそ担任に用事があって話をするのは、不思議なことではないが独弧は模範生ではないが、特別問題児と言うわけでもない。授業の疑問を尋ねる雰囲気ではない。


「まあなんだって良いが、童たちが騒ぎ立てるぞ?」

「そうなる前にどうにかするだろ」

「そうかそうか、わしの早合点じゃったか。ならば、わかっておるじゃろう? 早く仕留めねば得ぬものもあるということを」

「有難い助言だな。何もしない癖に」

「我が子の為ならば、母は一肌脱ぐが、なに。今は休暇中、わしが出る幕もなかろう」

「遠慮せずその力を存分に振りかざしてくれてもいいんだがな。その方がこちらとしても面倒が省かれる」


 相手に敬意を示さない話し方に谷嵜先生も今では慣れてしまっている。

 独弧は、何か知っている素振りを見せながら核心を突くことなく「せいぜい足掻けば良い」と高校生とは思えない物言いをして立ち去る。


 その後、谷嵜先生は新形に捕まり、二人で旧校舎に向かっていくのを彼は、慌てて追いかけた。行先は同じなのだから、こんなストーカーまがいな事をしてはいけないと二人の背に声をかける。

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