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第85話 Who are me

 暁と蛇ヶ原の喧嘩は一先ず置いておき新形は、別室へと向かった。血塗れの服では外に出られないとして、学校のジャージに着替える為だ。この場に谷嵜先生がいなくてよかったと安堵していたのも数分前のことだ。


 彼はどう言うわけか張り詰めた空気の中にいた。部室で蛇ヶ原と暁が睨み合っていたのだ。もっとも蛇ヶ原は目を細めてニコリとしているが。暁は怒りを面に出している。


 部室に居づらくなった彼は「ちょ、ちょっとトイレ」と逃げ出した。トイレなんて実際は嘘であるとわかりきっている。部室前を行ったり来たりと忙しなく歩き回っていると「なにしてんのジョン」と着替えた新形が戻って来る。

 彼は経緯を口にして部室に居づらい事を言えば「なにそれ、うける」と笑い話にされてしまう。


「あの、なんであんなに険悪なんですか?」

「私と夏休みに会った糸雲骨牌いるでしょう?」

「はい」

「糸雲が所属しているのが、「モグラ」って言う非公認組織」

「ハウスじゃないのに、どうして喧嘩なんて」

「寧ろハウスが相手なら暁は、二つ返事だろうね。まあやり方の違いで、組織間の諍いってだけだよ。うちは通行料をメインにしてるけど、モグラは吸魂鬼の被害を減らすためにやってる。自分の通行料は二の次、勿論取り戻せるならそうするけど、見つからない方法を探しても意味がないって考え」


 奪われた通行料を取り戻す術を見つける吸血鬼部と吸魂鬼を撃退して被害を減らそうとするモグラ。どちらも他人の為ではあれ、方法も手段も異なる。


「で、君はどうしてモグラ所属の子といるのかな?」

「……友だちが吸魂されて、悔しくて……偶然居合わせたパペッティアに、吸魂鬼の殺し方を教わろうと思いました」


 素直に口にすると新形は意外そうに「へえ」と呟いた。


「でも、僕の空想は誰かを傷つける物じゃない。だから、吸魂鬼を倒すことじゃなくて、友だちのように被害に遭う人を減らすように視えるようになりたかった」


 糸雲から蛇ヶ原へと変わり、なんでも見通すことが出来るのならば、不幸を回避することだってできるかもしれない。視たいものを、目的を定めて救いたい。彼の強い意思が空想に反映してさえくれたら報われる気がした。


「まあ、いい選択かどうかは兎も角として、ジョンが後悔のない道を選べたならそれでいいんじゃない?」

「怒らないんですか? 吸血鬼部の言いつけを破ったとか……」

「どうして? 谷嵜先生の邪魔をしたら怒るけど、君らがどうしようと私には関係ないかな」


 たとえ、谷嵜先生が幽霊部員にしても、部活外まで面倒見切れない。彼以外にも多くの幽霊部員はいるのだ。その者たちが、ゾーンに触れて空想を手に入れて、報告なく暴れていたと居ても、自分たちには一切の関係はない。


 もしも恩を仇で返すようならば、新形は殺す気で、相手になるだろう。


「……そう、ですよね」

「なに? 怒られたい?」

「そんなマゾヒストみたいな言い方しないでくださいよ」

「マゾでしょう? 嫌いな人に教わるほど苦行もないと思うけど?」

「それは……僕のことを嫌ってる人なら、手加減なんてしないでしっかりとしてくれるかもって……」

「嫌いだから中途半端な教え方をするかもしれないのに、よくそんな信頼できるね」

「誰かを疑いたくないんですよ。そんな意地悪を言わないでくださいよ」


 むっと膨れっ面をする彼に新形は「ごめんね」と簡単に謝罪するがそこに心がこもっていないのは言うまでもないことだった。


「谷嵜先生は?」

「今日は学校には来てないよ」

「え、なら新形さんはどうして此処に」


 谷嵜先生がいないのなら、新形が学校にいるなんてあり得ないと彼は驚愕する。


「確認したいことがあってね」

「確認したいこと?」

「そっ。サト先が変な吸魂鬼に襲われたらしくてね。いろいろと報告があったから、谷嵜先生に会いに来たの。だけど、いなかったから明日また来ようとしたら、今度は私たちが襲われた」


 新形の肩は、旧校舎に常備されている包帯で一応は治療されている。浅草がいない所為でしっかりとは出来ていないが、止血は済まされている。着替えたジャージが汚れることはない。


「どう言う吸魂鬼だったんですか?」

「ピンク色、サト先を襲った吸魂鬼と今回、私を襲った奴」


 佐藤先生の襲撃情報が来て、吸血鬼部が襲撃されてしまった。

 谷嵜先生がいなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。もしも谷嵜先生がいたら、彼がゾーンに関わったことを激怒しているはずだ。その件を代わりに暁から咎められてしまうわけだが、今はそれよりも彼がモグラと関わっていることに文句があると部室の扉からは、いまだ険悪なムードが漏れ出している。


 佐藤先生から得た情報、ピンクの仮面で奇妙な形のナイフを扱い吸魂する目的よりも殺すことを遊びと捉える吸魂鬼。無邪気に遊ぶように人間を甚振る姿は、子どもその者だ。


(バニティじゃない。一人で来たとは言ってなかったし、僕と話したいが為に新形さんたちを遠ざけた?)


「それって、佐藤先生も襲撃されたってことですか?」

「ジョンのクラスメイトが襲われたって連絡を受けて、すぐに病院で」

「えっ」


 そんな話一度だって聞いていない。彼が知る必要のないことでも何か手助けにと彼はそこで思考を停止させた。


(出来ない。僕じゃ、先生を助けることなんてできない)


 自惚れで傲慢な発想だと気づいた。


(もっとこの力を使いこなさないと……)


「ところでジョン、白昼夢の調子はどうだい?」

「あ。……何度か、使いました。すいません」

「要領は得られた?」

「感覚は」

「そう。なら良いかな」


 使ってしまったことを咎められるかと思い素直に謝罪するが新形はそんなことはどうでもいいように呟いた。


「なにがですか?」

「ん~? 先生に無事に良い報告が出来るなぁって」

「でも、それって、余り良い報告にはならないんじゃあ……経緯が、経緯だし」

「怒られることも愛だよ」

「新形さんの方がマゾヒストじゃないですか」

「先生限定だよ。それに愛のある痛みは力になる」


 なんて言いながら「さて、バカを鎮めに行こうか」と部室へと顔を向けた新形に彼は言った。


「僕は、モグラに入ってません」


 引き戸である扉を前に新形は顔を上げて「わかっているよ」と微笑んだ。何も心配はいらない。彼が吸血鬼部に身を置いているのは事実であり、糸雲が身を置いたモグラではない。ただ個人的に依頼しているだけ、吸血鬼部に依頼しないのは、彼の事を知り、彼の性格を熟知してしまっているからだ。


 新形は部室に入る。部屋から聞こえて来る暁の非難を蛇ヶ原は平然と打ち返す声が聞こえる。「バカやってないで情報共有するよ」と新形の一声で暁は不機嫌ながら作業を始めた。


「……僕は、吸血鬼部の……」


 廊下で一人突っ立っている彼は、自分に今何が出来るのか考える。


「オヤ、キミハ」


 突如として聞こえた声に振り返るとカモノ校長がいた。「ヤア!」と前足を持ち上げて挨拶をする。

 どうやら襲撃を受けたと聞いて駆けつけてくれたようで、事が終えていると知れば残念そうな表情をしていた。つぶらな瞳が伏せられて惜しいことをしたと呟く。


「ソウダ! キミト話ヲスルノハ初メテダヨネ! 二人ッキリデ」

「ふたり?」


 少し気になる事があるが突っ込んでもしかたないと彼はカモノ校長に連れられて旧校舎を後にする。旧校舎を背に彼は茶色の小さな生物を追いかける。


「実ハネ。ボクハ、昔キミタチト話ヲスルコトガ出来ナカッタンダヨ」

「え……」


 突然変異で話せる生物だと思っていたと彼は意外な言葉に、声が漏れた。

 まあ普通に考えれば、話が出来ないのは当然とも言えるが


 随分と昔にまだ彼、新形、暁、そして谷嵜先生ですら生まれていない。随分と昔に、飼い主だった人間が吸魂鬼によってゾーンに触れてしまった。その際に一緒にいた小さなカモノハシもゾーン入りしてしまった。


 ゾーン入りした直後に、カモノハシには人間と同じ知性が与えられていた。

 思考する事が出来たが、突然のことで何が起こっているのか理解できないまま、目の前で飼い主は吸魂鬼に殺されてしまった。吸魂のキスだけで留まらず、ホイップクリームのように血を絞り出し地面に飼い主の血をまき散らした。そして、人骨を砕き、肉を握り潰して、食べ物で遊ぶ子どものように飼い主はなす術もなく死んだ。凄惨な光景だった。『今日はなにしようか』と数時間前に朝の挨拶と共に呟いた飼い主はもういない。殺されてしまった。


「ボクハ生カサレタ。動物ハ嫌悪スル対象デハナイヨウダ」


 理解できないまま、人間ではないカモノハシは現実に戻された。叡智を得てしまったカモノハシが以前のように暮らせるわけもなかった。人間を装って様々な挑戦をした。そして、調査した。飼い主を奪った生物が何者なのか。長い年月をかけて、やっと吸魂鬼の存在を知った。人間を襲う怪物。頭部のない怪物。


「ソレハソレハ波乱万丈ナ日々ダッタヨ」


 そりゃあそうだ。と彼は心の中で思う。人間が支配する世の中じゃ、叡智を宿すカモノハシなんて研究解剖されて終えてしまう。よく今まで隠れ住んでこられたものだと驚きを隠せない。


「ボクガキミタチニ姿ヲ見セルノハ誠意ダヨ。命ヲカケテ、吸血鬼部ヲ存続サセテクレテイル。谷嵜クンヲ強引ニ顧問ニシタノハ間違ッテイナカッタ。ソシテ、キミヲ入学サセタコトモ、間違イジャナカッタ」

「……知ってたんですよね。僕が入学する前に吸血鬼部にいたこと」

「ウン」


 試験当日に駅の事件を知った。吸血鬼部ではそれを未然に防ぐことは不可能。

 吸血鬼部


「トコロデ、キミハ、五十澤いそざわ乃蒼のあト言ウ人ヲ知ッテル?」


 聞いたことのない名前。彼は素直に首を横に振った。


「吸魂鬼カラ吸血鬼トナッタ。正真正銘ノ裏切リ者ダヨ」

「吸血鬼」


 魂を喰う吸魂鬼。だが人間を傷つけることを辞めて吸血鬼として名乗った元吸魂鬼。


「彼ハネ、唯一吸魂鬼ノ始祖ニ近ヅケタ人ナンダヨ」

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