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第84話 Who are me

 青い仮面、バツ印が二つ、目の位置に空いている。だが、その先は見えない。

 信じていいのだろうかと彼は頭の中で大きな渦を巻いていた。雁字搦めになってしまう思考の海に放り込まれた。


 彼とアカツメクサの吸魂鬼の事を知っていた。以前から知っていた。驚くことはないはずなのに、驚いてしまう。


「……はっきりさせてよ。僕になにをさせたいの、嘆きの川ってなに」


 嘆きの川に羽人の魂があると言いながら、それがどこにあり、どう言うものなのかバニティは言わない。

 もしその言葉が、バニティの言葉が全て真実であると仮定しても、なぜ彼を探すために魂を奪った人、羽人を操って事を起こしているのか。


「嘆きの川に羽人君の魂があるってことだよね? それなのに、君たちは羽人君を操れるの?」

「余りこの例えはしたくないのですが、吸血鬼が、人間の血を得た際に眷属の有無と似ていますね」


 吸血鬼が吸血をする際に眷属になる。完全に血を飲み干して干乾びたミイラになるか、その吸血鬼の力で眷属にして半永久的に夜の住民になるか。

 羽人が嘆きの川に落ちたとしても吸魂されているのならば、羽人の肉体自体は、吸魂鬼の意のままに操る事が出来る。


「吸魂鬼は、魂を何か別のものに変化させてるって」

「保存方法はその方次第ですよ。身につける物に変える方もいらっしゃれば、そのまま直接栄養として溶かして嘆きの川に落ちる事もあります」


 バニティの言うことを信じるとしたら、嘆きの川を見つける事ができれば、そこから羽人の魂を返してもらうことが出来るのではないだろうか。


「手伝っていただけるのなら、貴方が嘆きの川を見つける事が出来たなら、私が知る限りの通行料をお返しすることもやぶさかではない」

「っ!?」


 吸魂鬼の所為でゾーン入りして通行料を奪われた人たちも、通行料を取り戻すことが出来る。身近な人たちが、もう危険な目に遭わない。怪我をしなくなる。不安なことも消えてくれる。

 言葉全てが偽りだとしたらどうだろう。彼の反応を楽しみ、最後には情報全てを抜き取り「通行料を返すわけがないでしょう」と言われた日には彼は、絶望するなんて火を見るよりも明らか。保身に走るのなら吸魂鬼の話なんて聞くべきではない。


「僕のこと、どこまで知ってるの」

「貴方が吸血鬼部の部員でありながら吸魂鬼に情を宿してくれる特殊な人間である、と言ったところでしょうか」


 間違っていない。吸血鬼部なんて吸魂鬼からしたらふざけた名前でしかないだろう。「ああそれと」と訊いてもいないのにバニティは続けた。


「同僚、と言うのでしょうか。同胞も貴方のことを気に入っているようです。ジョン・ドゥ。ぜひ、貴方と遊びたいと言っています。貴方は私たちの界隈では、顔が広まっている」

「うそだ」

「そう思うならご自由にどうぞ。真実であると証明する術は持ち合わせていない。同胞を連れて来ることで証明できても、貴方は私を信頼してくれていない以上、連れて来ることはできない」


 一対一の今だからこそ、正常な会話が成り立っているだけで、ここに第三者が現れた時には横やりを入れられて話にならない。バニティは彼でなくてはならないのだと仮面越しではあれ真っすぐとこちらを見ている気がした。

 どれだけ綺麗な言葉だったとしても相手が吸魂鬼と言う異形である以上は、常に平行線だ。


「これで、どうでしょうか。言葉では確かに証明できない。けど、行動で表すことは出来る」

「行動?」


 バニティは人間の行動を見様見真似しているが、行動理念は理解できていない。どうしてそうするのはわからないのだ。だが彼が指名したことならば、容易に実行できる。勿論、互いの種族に手出し無用だ。生殺与奪の権は与えられていないが、互いに無視もしない。吸魂鬼は同族意識が強いと聞いている。ならば、仲間が攻撃されているのを黙ってみていることは出来ないだろう。

 譲れないところを補いながら、協力したいのだとバニティは言う。


「私は貴方が協力してくれると信じています。一方的な視点では何も見えない。貴方は全てを視る存在であると期待しています」


 そう言って「無理強いは嫌われてしまうので今日は引き下がります」と言って消えようとするのを彼は止めた。


「もう、貴方だけでもいい。もう吸魂した人たちを操ったり、好き勝手に使ったりしないでほしい。僕に用があるなら、ちゃんと会いに行くから」


 羽人や他の廃人たちが自覚のままに動いているのは許容できない。


「わかりました。今回は本当に貴方に会うために手段を選んでいられなかったことを謝罪します」

「僕に謝らないで、操ってしまった人たちを無事にみんな、帰してあげて」


 ちゃんと正規のやり方ならば、彼だって怒ることはない。提案があるのなら、互いに同意するまで話し合ったりもするだろう。それが彼の理想であり、彼が望む未来だ。


 今度こそ、バニティは消えるのを見届けると彼は、無意識に張り詰めていた空気が無くなり呼吸が出来ていた。

 彼は振り返って気を失っている羽人に駆け寄る。羽人はやはりまだ廃人状態でぼんやりとしている。


 白昼夢から脱した彼は少しだけ頭痛に襲われながらも羽人が無事であることに安堵する。


「僕が助けるから、絶対に」

「助けるためなら、魂を売るんだぁ~」

「ッ!? 大楽君」


 羽人に怪我がないか確かめているとバニティが立っていた場所を見つめる大楽がいた。どうして此処にいるのか分からず混乱する。

 挙句の果てに大楽の言葉は、彼がバニティと話をしていたところを見られていたことになる。


「違う。僕は」

「ああ、別にパペッティアに言う気ないよ。言うと俺にも矛先向きそうだし~」

「見逃してくれるの? 僕、吸魂鬼と通じてるかもしれないのに」

「それは俺の仕事じゃないし~。俺向きじゃない」


 なんて言いながら「ソレ、病院に連れて行くからさ。預かっていい?」と羽人を指さす。

 彼は頷いて、大楽の行動をただ見ていた。羽人を背負う大楽は「重い~」と文句を言いながらもしっかりと落とさないように押し上げて学校を出ていこうと彼の横を通り抜けた。その直後――……


「もし監視されたいなら俺がしたげる。視ることが出来るの、別にナナだけじゃないからさ~」


 鋭い瞳が彼を見た。青い瞳が彼に恐怖を与える。青の瞳は徐々に色を変えて紫色となる。


「ナナの音は、俺がちゃ~んと聴いてるよ」


 じゃね~と軽いノリでゾーン越えをする大楽に彼はまたもや呼吸が定まっていなかった。乱れた呼吸、夏特有の暑さ。太陽が沈み夜を迎える。涼しい風が彼の髪を揺らす。


 夏休みに入って、彼の周囲が彼をおいて動いている気がした。今まで通り代り映えしないと思っていたが何か違う。そっくりそのまま別空間に移動させられたような錯覚。本来はあり得ないと彼はちゃんと理解している。現実逃避していないと思っているが、それを確かめる術はない。だから、彼自身の感覚を信じるしかない。



 その後、旧校舎から蛇ヶ原、暁、新形が来た。彼を見て新形は「久しぶり~」とひらりと手を上げたが、その腕は血が流れていた。無事なんてお世辞にも言えないありさまだ。翼のような形のナイフが肩に突き刺さっている。あえて放置しているのだろう。下手に抜いて血が止まらなければ、出血死となるからだろう。


「ジョン、本当に年中無休で違反犯しまくって面白っ」

「面白がってる場合ですか。先生に怒られますよ」

「そのお怒りすらありがたいと思わないと、言われなくなればお終いだよ」

「はあ、新形さんみたいにですか」


 新形と暁が二人、懐かしい会話をする中、「ところで」と暁が蛇ヶ原を睨みつける。


「どうして、うちの人間が、モグラと一緒にいるんですか」

「お友だちやから? 別に不思議なことやない」


 暁の棘のある言葉を何とも思わない風に返すが、満足していないようで不機嫌な表情は変わらない。


「また性懲りもなく繁殖を続けているんですか」

「うちは、来たいお人さんが来るところや。去る者は追わず来る者は拒まず。それがうちらの信条やし」

「去った人のその後なんて、死しかないでしょう。食い散らかすだけ食い散らかして、ハウスだって迷惑している」

「そら、勘違いや。自分らやない。ネズミや。自分らとネズミを同じにせんといて」

「どちらも同じでしょう」

「カモノハシの庇護下におるお人さんは、柔軟な発想がないんか? それとも、現実を受け入れたくないんか?」


 バチバチと火花を散らすように二人は互いに対照的な表情をさせる。


「ねえ、君らの信条とか信念とか心底どーでもいいんだけど、こっちは怪我人。少しは労わってくれない?」


 二人の喧嘩を真っ二つに切り落としたのは、腕にナイフを刺したままの新形だった。痛みは当然感じているだろうに表情は苦痛に歪んでいない。寧ろ喧嘩を見せられてうんざりしていた。

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