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第83話 Who are me

 彼と蛇ヶ原は、ゲートから三つの谷高校に出る。本校舎の昇降口は封鎖されており、中に入る事はできなかった。文化部の活動は夏休み期間はないのだと蛇ヶ原が言う。もっとも文化部は自宅でも出来ることがほとんどだ。一方で運動部は運動場が建てられている為、わざわざ本校舎に入る必要はない。


 そして、羽人を見つけることはすぐに出来た。

 彼が空想で見た光景は、羽人が旧校舎へと通じる林に向かっている光景だった為、見つけたまではよかったが眼前の出来事だけは理解できなかった。羽人が暁を絞め殺そうとしていた。ギチギチと閉まる首に暁は痛苦の表情をさせて呼吸を確保しようと躍起になる。


「羽人君!!」

「なにしとんのや!」


 彼が羽人を呼ぶと、傍にいた蛇ヶ原が状況を理解してハッと我に返り駆け出す。羽人は、なぜ暁の首を絞めているのかわかっていないのか朦朧とした意識の中で素直に蛇ヶ原に押さえつけられていたが、蛇ヶ原や彼がいることに気づいていない。


「隠君っ!」

「ごほっはぁ……はぁ……ジョン君、どうして此処に?」


 そんなこと今は関係ないではないかと彼は言いたかったが「すいません」とすぐに謝罪して、こうなった経緯を知りたかった。

 暁は、呼吸を確保して周囲を見る。彼と共に来た蛇ヶ原に警戒していた。ハウスやサブハウスの人間にしては見かけない。彼がまた親しくなった空想使いなのだと推測する。


「その方は、佐藤先生から聞いています。襲われたジョン君のクラスメイトであっていますね?」

「……うん」


 吸血鬼部の副顧問として、吸魂鬼出現の情報は吸血鬼部にも通達されていた。その件から約五日が経過した今、突如としてゾーンから現れた。ゲートが出現して廃人である羽人は暁の前に現れて、襲ってきた。


 彼は周囲を見回して、他には誰もいないのかと尋ねた。


「部長が、その方と現れた特殊な吸魂鬼を追ってます」

「特殊?」

「仮面の吸魂鬼ですよ」

「っ!?」


 仮面の吸魂鬼。それだけで二人の表情は強張る。

 吸魂鬼に個々としての名称は存在しない。頭部が何で出来ているかで勝手に呼ばれる。吸魂鬼自身もそれを嫌がることはない。名前に固執しない。個性がほぼ似たり寄ったりで吸魂鬼は例え別個体だったとしても、その見た目が携帯電話やカエルと同じならば、そう呼ばれる。

 今回、吸血鬼部を襲撃した仮面の吸魂鬼が蛇ヶ原を襲った個体と決定したわけではない。そして、前回の調査で現れた悋気、バニティと決まったわけでもない。それではあまりにも都合がよすぎる。話をして現れるのなら、苦労などなかったことになるのだ。


 もしも蛇ヶ原の母親を通行料として奪った吸魂鬼ならばと彼は蛇ヶ原を見るが、蛇ヶ原の目的は敵討ちではない。母親は戻って来る。連れ戻す。そう心に誓って今まで生きてきた。糸雲の厳しい訓練にも耐えてきたのだ。


「蛇ヶ原君」


 バニティが現れたのならば、暁は「以前、遭遇した個体です」と言うはずだ。それを言わないのは蛇ヶ原がいるからなのか、もしくは本当に初めて見る個体だったか。


「平気や。ナナさんは怪我人を安全なところに連れたって? 自分は、吸魂鬼追いかけた人を見つけて来るわ」


 羽人を彼に預けて、ニカッと笑い蛇ヶ原は旧校舎へと駆け出して行った。止める間もなかったが、私怨で向かっているようにも見えなかった。


(蛇ヶ原君……)


 それでも不安は募る。彼よりも修羅場を抜けてきた。簡単に言えば、糸雲の後輩なのだから、強いに決まっている。どれだけ嫌悪していたとしても、糸雲の実力は本物だと素人の目でもわかる。何度もその空想を彼は身に受けている。何度も死にかけて、何度も腕を、脚をと奪われてきた。激痛の中で思考回路は嫌に冷静になっていた。


 だから、今回もどれだけ感情に触れるような事態においても蛇ヶ原は私怨で動くような人ではないと断言出来た。



「ジョン君、貴方は幽霊部員のはず……どうして」


 旧校舎から離れて、本校舎の昇降口前、階段に腰かける暁は彼を訝し気に見る。気絶した羽人を壁に寄りかからせる彼に向けて言われる。


(僕のしていること、本当のことを言ったら納得してくれないかもしれない。怒られるかも……でも、僕が選んだ道だから)


「友だちが、吸魂されたの。だから、僕……吸魂鬼狩りの人にお願いした」


 暁は黙って彼の話を聞いていた。

 またルールを破ったんですか、と口にする事は簡単で責めることも出来るが、彼なりに理由があるのだろうと言葉を待った。


「今は、同級生の蛇ヶ原君もその人の後輩で、僕に空想の使い方を教えてもらってる。そうしたら、僕の千里眼で、病院にいる友だちがいなかった。探してみたら、此処にいて……隠君を」


 言葉を続けることが苦しそうにしていた彼に暁は「もう結構です」と立ち上がるとゲートを開く。いったい何をするつもりなのか。ゲートに消えた暁を彼は白昼夢で見ると両手を合わせて結界を練っていた。


『相手が人間だったので、不意打ちを食らいましたが、次は油断しません。助けてくれてありがとうございます。ジョン君』


「先ほどの方にもお礼を言わなければ」と暁は、旧校舎に向かって歩き出すため、彼は慌てて引き留めた。重傷ではないが、怪我をしている暁をこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。


 白昼夢でこちらを見ている事に気づいた暁は立ち止まり彼を見る。


『ジョン君。なんか、変わりましたね』

「え……」


「良い兆候なのか、悪い兆候なのかはわかりませんが」と言って暁は旧校舎に駆け出して行く。もう引き留める事は出来なかった。彼は不思議なことに動揺している。


(僕が、変わった?)


 彼は困惑していた。変わったなんて思っていない。立ち尽くす彼の頬を風が撫でた。


「人間は、変化に気づかないものです。特に当事者ともなれば、時間と共に順応していく。ゆえに他者に指摘されて初めて自身の変化に気づいてしまう。気づかない方が時には幸せなこともあるでしょう」


 不意に聞こえた男性の声。メインストリートの中央辺りに立つ青い仮面にスーツ姿をした人物。それだけでただの人間ではないと直感する。何より先ほどまで確かにそこに人はいなかったのだ。突然ゲートを開いて現れるなんてことも考え難い。

 一目で三つの谷高校の在校生ではないとわかる。その者が纏う雰囲気が人ならざる者だと肌を刺す。声色は優しく、なるべく穏便に事を進めたいという意思が伝わるがそれが真意とは限らない。


「バニティ」

「お久しぶりですね。その後はどうですか?」


 それはまるで世間話をするように些細なことだと尋ねる。彼と偶然道端であって、近況報告を求める。


「どうして、声を掛けたの。襲うチャンスなら幾らでもあった」


 襲われたくはないが、そうなっても仕方ないほど彼は茫然としていた。「変わった」と言われて考え込んでしまったのだ。吸魂鬼に吸魂のキスをされていたって不思議ではない。


「実は、貴方に会いに来ました。なかなか巡り合えず、仲間の情報網を使い少々手荒い手段を用いたことは謝罪申し上げます」

「どういうこと……僕になんの用があったの。また意味の分からない映像を見せるの?」


 バニティは彼と別れる最後に仮面の吸魂鬼たちが揃う場面を見せた。それだけではない。二人の男が何者かに狙われいる場面も。それらすべて彼には理解できないものだった。だからこそ、吸血鬼部に告げられない。曖昧な情報は、混乱を招くと彼は考えていた。


「貴方のご友人が嘆きの川に落ちました」

「そんなの信じない」

「信じなければ、その方は二度と貴方の友人ではなくなりますよ」


 羽人が嘆きの川に落ちた。いまだそれが何なのか分かっていないというのに、バニティは確信している。


「人間と吸魂鬼。私たちと貴方たちの仲介人、使者。吸魂鬼からは私、人間からは貴方が、互いに良好な関係でありたい。そして、共に嘆きの川を見つけませんか?」

「……本心?」

「面白いことを言いますね。貴方は吸魂鬼狩りに吸魂鬼について教わっているでしょう? 吸魂鬼に意はない。せめてそれらを言葉で説明するなら無心で、そして、受け入れてくれるであろう人に提案しています」


 人間のように意志のぶつかり合いはしない。だが、人間は意思をぶつけなければ理解しない。ならばもう見様見真似で意思と模倣するしかない。なかなかに苦労したのだとバニティは努力を理解してほしそうだったが、それもまた会話の在り方で、テンプレートに用意されたものだと先に言われてしまう。


「私たちは、なにも無差別に魂を頂いているわけではないのです。生きるため、存在するため、消滅することに恐怖はなく、かといって吸魂鬼狩りに蹂躙されることも面倒です」


 生に執着していない。死に固執しているわけでもない。

 どうだっていい。しかしながら、確かに此処にいるのだ。此処に存在している。ゾーン空間に存在している。

 それだというのに、現実世界と言う空間に存在している人間たちが侵略してくるのだからたまった物ではない。我が物顔で領域に踏み入れて人間側の観点で危険だと勝手に判断して蹂躙する。


 思っている、思っていないで判断されるのはうんざりしている。人間は表情を読むというが、吸魂鬼には表情が無い。人間が作り出したものを模倣することをしない。ただ唯一できるのは、「理解する」こと。


「私は人間を理解したいと思っています。貴方も吸魂鬼を理解しようとしてくださっている。ならば、互いに合理的ではないでしょうか? 勿論、条件があるなら出来る限りのことはしましょう。私としては権限が許す限りのことは人間にしてもいいと考えています。ですがそれは、同胞への裏切りになってしまうかもしれない。それを考慮していただければ、ギブアンドテイク。貴方も私にしてください」

「僕が知りたいことを、貴方は教えてくれるの?」

「はい。貴方の質問、貴方の疑問、貴方には誠意と言うのを見せたい。勿論、意がないことを前提に」


 見様見真似で、真似ることに関しては、その頭部が物語っているだろう。完璧に似せることは出来る。彼の疑問に当てはまる回答を口にするために真似ればいいのだ。


「僕の一任じゃあ決められない」


 幽霊部員と言っても吸血鬼部としてそこにいるのだと彼はバニティを見る。


「困りました。それはきっと交渉決裂を意味していることにほかならない」

「そうじゃないよ。僕よりも吸魂鬼に詳しい人がいるから……」

「知っていますか? この世には、七十億人の人間がいるようですよ」


 突然、訳の分からないことを言い出して彼は閉口した。


「その七十億人の中の一人を選んだ。しかし、選んだ末に選ばれた者は権利を放棄する。そうして、また次の人間を探さなければならない。こうしているうちに互いに争いは絶えないというのに嘆かわしいと思いませんか?」

「惑わさないで」

「惑わしてなどいません。コレは真実です。私は、この目で見た物しか信じない。そして、私は見た。同胞を庇おうとしてくれた。ピンク色に色づいて存在し始めたばかりの同胞」

「それって……」

「ええ、アカツメクサの吸魂鬼。筥宮で貴方は、確かに人間ではなく吸魂鬼の為に感情を向けていた」 

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