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第82話 Who are me

 蛇ヶ原と大楽が遊んでいる最中、彼が空想で視たのは、羽人の病室。

 そのベッドの上に羽人がいなかった。もぬけの殻となっていたことを彼は慌てて空想をやめて蛇ヶ原と大楽に伝えた。


「羽人君が、いない。どこにも」

「落ち着きや。ロクさんがどこにおるか、空想で見たって。そうすればすぐに見つけられる」


 覚えたての力。彼の空想ならば、羽人がどこにいるか見つけることなど造作もないと言えば、彼は焦った様子で頷いて再び空想を発動させた。

 そして、結果で言えば羽人を見つける事は出来たのだが、羽人がいた所に彼は想像だにしていないところで絶句した。


 三つの谷高校。


 夏休み期間でも部活動がある為、正門は開放されている。生徒の侵入は造作もない。


「なんでや。ロクさん、意識不明どころか吸魂されとんのやろ? 動けるわけあらへん」


 もしも羽人の意思で学校に行ったのなら、廃人になっていない。廃人となっているのならば、動けないはずなのだ。仮に動けたとしても、ふわふわと行先など定まらない。廃人になる前に三つの谷高校の生徒だとしても身体が覚えているわけがないのだ。そんな数か月の時間だけを過ごした学び舎に立ち寄るわけがない。


「何かの冗談じゃないのぉ?」

「冗談なんかじゃないよ! ちゃんと病室の場所だって間違いじゃない。病室に羽人君のスマホが置いて行かれてた」


 廃人となった人間が一人でに動く例はある。目的もなく、当てもなく彷徨い事故死。それを防ぐために入院しているはずだが、病院の関係者が誰一人として気づいていなかったのかと責めてしまいそうだったが、一つだけ見解が浮上した。


「ゾーン越えを……した?」

「ゾーン越えって、廃人が? 無理じゃね?」

「無理やない」


 彼の見解に、大楽が否定するが、蛇ヶ原がさらに否定した。

 無理ではない。廃人となった者は、どう言う経緯であろうと一度はゾーンに触れている。つまり、通行料の発生はない。ゲートの開き方さえ知っていれば、ゾーンに入る事が出来る。


「誰かがロクさんをゾーンに連れ込み。浜波から三つの谷まで移動させた」


 ゾーン越え。場所さえ知っていれば、ゲートを通して肉体を移動させることが出来る。一般的に見たら一種の瞬間移動。実際に彼は、調査の為に吸血鬼部から様々な場所に移動している。たとえ移動先がゾーン内でも、ゲートを開けば、ゾーンから現実に行くことも造作もない。


「なんでそんな面倒なことするの~?」

「わからない。わからないけど、よくないってことだけはわかるんだ」


 きっと何か良くないことが起こってる。彼は急いで三つの谷高校に行きたかった。羽人が何かしてしまう前に、吸血鬼部の人たちに見つかる前に……。

 気持ちが急く彼を「アカンで、周り視えとらんよナナさん」と蛇ヶ原が窘める。


「落ち着きや。まずは、上に報告。自分らは勝手に行動はハウスの眼に触れる。特に独断行動は、規定違反や。いくらもぐりの集団言うても、ルールは尊重せなアカン」

「でもっ!」

「そもそも自分や蝶さんはええけど、ナナさんは吸魂鬼狩りやない。吸魂鬼狩りやない人間をゾーン内に連れ込んで、尚且つ連れ回しとるって知られたら自分らが吸魂鬼狩りの権利を剥奪されてまう」

「そーそー、もしバレて怒られて、うだつが上がらない人生も嫌だしなぁ」


 そんな悠長なことを言う二人。友だちが何かに巻き込まれているのに、のんきに話す余裕がある。それらすべてが彼を落ち着かせることだと理解していながら彼の気持ちは焦燥ばかりが強くなる。


(ナナさんの欠点やな。ココを改善せな、視えるもんも視えへん)


 このままなあなあにしていると一人で突っ走ってしまうのは火を見るよりも明らかならば、一緒に行って、彼を護りながら羽人を見つけるしかない。

 ハウスも病院関係者に気づかれる前に被害者を病室に戻せば咎めることはまずないだろう。ゾーンの事を知られることを嫌うハウスの手助けをしているのだ。


「蝶さん、君はパペッティアに連絡しといてや。自分、ナナさんと学校さん行ってみますわ」

「はぁい」


 それならば、お安い御用だとスマホを取りタプタプと画面を操作する。


「ナナさん、今から自分はナナさんの上司や。そんでもってナナさんは訓練生。言うことちゃんと聞いて、従ってください。自分がもし死にかけてても、自分が「逃げろ」と言ったらすぐに振り返らずに逃げてください」

「そ、そんな! だって」

「生きとることで、残された人間のあとを語る事ができる。もし誰も残らへんかったら、誰も死んだことも、最後に何をしとったのかもわからんようになる。誰か一人でもええ。外に件を伝えな。ナナさんは生きてそうする」


「約束できる?」と尋ねれば、彼は痛みを耐えるような苦々しい表情をした後、そうしなければ連れて行かないと気づき頷いた。吸血鬼部でもそれを従えなかった彼に頷くしか選択肢を与えない雰囲気を感じた。頷きを見た蛇ヶ原は視線を大楽に向けた「ほな、あと頼んます」と言って三つの谷高校へとゾーン越えをするためにゲートを開いた。



 二人がゾーン越えをするのと一瞥した大楽は蛇ヶ原に言われていた通り、現実に戻って糸雲とメッセージのやり取りをする。羽人が失踪。行先は三つの谷高校。

 ゾーン越えしていると報告をしていると背後から後頭部を殴られて、誰かに襲われた。


「っ……痛ぇ」


 倒れる大楽が顔を上げると角材を持ったくたびれた男が虚ろな瞳をさせて大楽を見ずに突っ立っている。

 人を殴っておいて、殴った相手を見もしないとはどう言う了見だと痛む後頭部を撫でて血は出ていないことに安堵する。


「ちょっと、不意打ちは卑怯なんじゃないのぉ?」

「う、ぁあ」

「いやいやいや! 何やる気になっちゃってんの!? 俺、こう言うの向いてないんだってぇ~」


 角材を持ち上げて力なく振り下ろしてくるのを紙一重で回避する大楽。ゾーン内ではない為、空想は使えない。挙句の果てに、相手は民間人だろう。普通に言えば、通り魔として警察の世話になってもらう。


「んもー。戦わないに定評がある俺に、なに期待しちゃってんのぉ~!」


 一歩後ずさると男は追いかけるように一歩近づいた。

 追いかけて来るとわかれば、走って交番にでも駆け込めば、逮捕されて事を終えられるが男の様子からして、そんな簡単な話ではない。


(こいつって確か……)


 その男に見覚えがあった。知り合いではないし、名前も知らない。どう言う人柄でなにをしている人かも知らない。だが知っている。

 大楽を襲撃している男は、彼が荒幡市に来た日、大楽が糸雲が来る前に周囲の吸魂鬼を退けていた際に襲われていた被害者の一人だ。吸魂された後であり、救急車を呼んで放置したが、その後は、わかっていないが、外にいるところを見ると家族にでも引き取られて家で療養しているのだろう。

 廃人の状態で動き回っているのは、家族の目を盗んで家を出たと簡単に推測出来た。


 男は完全に吸魂された後の抜け殻状態、自分が何をしているのかも理解できていない。魂が戻っても、前後の記憶はないだろう。傷害事件を起こしたことも否定して、何事もなく過ごしていくのだろう。

 そこまで思考して大楽は「なんかうざっ」と嫌悪を表情にする。その直後、握っていたスマホが振動する。


「もしもし! 可哀想な俺がおっさんに追われてるんだけど!! センパイ!」

『仕事しろ』

「吸魂鬼ならな! 人間に追われてんのー! 助けてよぉ~」


 通話の相手は、糸雲だ。羽人が病室を抜け出してゾーン越えをしたことを報告されて、実際に病院に行き、何かしらの痕跡を探したが見つからなかった。病院側は入院患者がいなくなったことに気づき、てんやわんやとしている。

 それでなくとも近年続出している廃人病患者。放っておいたら問題に巻き込まれてしまうと現在血眼になって捜索をするらしい。「らしい」と言うのもまだ捜索は開始すらされていない。

 どうやら、同じ廃人となった患者が一斉に動き出し近くの人を襲い始めたと糸雲から告げられる。それは、大楽が陥っている状態と酷似している。と言うか、そのままだ。

 まだ発見されていない廃人が野に放たれていたとしても不思議じゃない。何かの拍子にゾーンから抜け出して、放置されていることだって珍しい話じゃないのだ。


『相手は一般人だ。殺すな』

「じゃあ、どうしろって!?」

『ゾーンにでも送り込めばいい。魂がないなら、吸魂鬼の餌食になることはない。ゾーン内じゃあ現実の人間への干渉も廃人には出来ない』

「はーい!」


 それならば、話は早いと大楽は楽に全てを片付けてしまおうとゲートを開き立ち止まることをせずにゲートに飛び込む。当然大楽を追いかけてきた男もゲートに入って来る。


「う、ぁあぁっ!!」

「なぁんか、唸りだしたんだけどぉ」

『知らない』

「発言者~責任持ってね」

『嫌だ』


 最大級の無責任を人の形にしたら、こうなるのだろうと大楽はべーっと舌を出した後、いまだ呻き声を上げている男が鬱陶しく思い、スマホを頬と肩に挟めて、パンっと手を叩いた。すると音波が男に直撃して痙攣しながら気絶した。

 ふっと息を吐いて、「それで?」と次はどうするのか尋ねる。


「調査ならするよぉ~。俺向きっぽいし」

『サボるなよ』

「……勿論じゃん!」

『俺は暫く手が離せない。現実でもゾーンでもどっちでもいいから、何が起こってるのか調査だ』

「はぁい!」


 通話を終了する。


(さてとぉ、どこから調べようかな)


 どうして突然、廃人たちが動き出したのか。身体の持ち主は意思を持っていない。目は開いたままで乾燥しても瞬きなんてしない。文字通り歩く屍状態が続いている。見つけたからには、放置することはできない。間接的に殺していることになるからだ。学生と言う身分を使えば、罪に問われない。根本的にゾーン関係は、警察に告げても意味がない為、結果で言えば大楽が警察の世話になることもない。


ロク(あいつ)は三つの谷だっけ……)


 大楽は羽人も今回の騒動に巻き込まれた廃人の一人なのかと思案する。となれば、大楽自身も三つの谷に行った方が何かと言い情報を得られるのではと考えた。羽人だけがゾーンを介して移動している。それに三つの谷に何がある。もとい学校になにがあるというのか。


「吸血鬼部?」


 吸魂鬼狩りの中で、その名を聞かない方が珍しいほどに最近は名前が挙がる。面倒な組織、どこかに隠れている。三つの谷をルートにしている組織。

 吸魂鬼狩りのアプリにも吸血鬼部が組織として登録されている。つまり、アプリの開発者は、吸血鬼部を容認しているのだ。いったい誰がどこで開発しているか分からない、正体不明のアプリだが、それによって救われた人たちも多い。


 どちらも正体不明な為、調査するように言われたことが何度かあるが、別に吸魂鬼と結託していないのならば、わざわざ余所の組織に首を突っ込むほど野暮ではないと断った。

 もしも吸魂鬼が吸血鬼部を狙って動き出しているのなら、同業者が減るのは見過ごすことは出来ない。


「面倒だなぁ~」

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