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第81話 Who are me

 公園で蛇ヶ原に空想を素早く発動する方法を教わる。

 蛇ヶ原の周りには影蛇が生まれる。蛇ヶ原が空想を使うときの考え方を教えられて彼も真似ることを続けた。


 千里眼の空想。頭の中で必死に想像すると、熱暴走と言えばいいのだろうか。瞳の水分が蒸発してしまう錯覚に陥っていた。ドライアイのような痛みに目を閉ざして、痛みが治まったら開くを繰り返していた。


 激しい痛み、眼球に針が刺さったような鋭い痛み。目の神経が一気に引き抜かれたような。実際引き抜かれたことはない為、想像の範囲でしかないが、そう形容してしまうほどに彼の眼は激痛を訴えていた。


 蛇ヶ原に空想を教わって三十分。千里眼を活かした活動方法。吸魂鬼に対してどう使えるか。戦うだけが吸魂鬼狩りの務めではないと蛇ヶ原は説く。勿論、殺し方を知っていたら、便利ではあれ、吸魂鬼に通用するのは結局のところ空想であり、触れずに視るだけの力では、吸魂鬼を殺すどころか、人を傷つける事も出来ない。

 ならば、視点を変えて、倒す、傷つける。ではなく、視ることに着目するべきだと考えた。千里眼と言うのは、なにも遠くを見るだけではない。肉眼で見ることのできない事象を見ることが出来るのではないのか。

 つまり、吸魂鬼が逃げる際の消失現象。人の目で見えないからこそ、逃げられたと考えられているがその実、近くにまだ潜伏してこちらの行動を窺っているのではないか。もしもそう言うことがあれば、彼の眼は仲間を護る重要な力となる。

 逃げたからと気を抜いてしまえば、吸魂されてしまう。その危険性を限りなくゼロに近づけることが出来れば、被害者も減り、吸魂鬼狩りが気を張る事もないだろう。


 そうと決まれば彼は千里眼の空想を使い続けた。実績で言えば、ショッピングモールでカエルの吸魂鬼を見つけたときと公園で携帯電話の吸魂鬼に新形が殺されかける瞬間を見ただけであり、決定的なものはまだ何も出来ていない。


 ただ目を酷使しただけで何も進展がない。大楽が「想像力が足してないんじゃない?」と言うが実際そうなのかもしれないと彼は千里眼について考える。


「視えないのてさぁ。視ようとしてないからじゃない?」

「視ようとしてない?」

「殺人の決定的瞬間とか見たくないじゃん? そう言うのと同じで『視たくない』って思ってるから重要なものが見えない」

「じゃあ、僕は……人が死ぬところを見たいと思えば良いってこと? そんなの無茶苦茶だよ」


 他人の死に際を見たいなんて誰が思う。誰かが思っても彼は決して思うことはない。恐ろしいことが起こっているのなら、警察に通報する。逆恨みされてしまうことを恐れて目を背けてしまうのだ。


「じゃあ、誰も助けられないってぇ~」

「蝶さん、いじめんといて。ソレ、パペッティアとやり方同じや」

「うげぇ。それは嫌だなぁ。大切にしないとねぇ~」


 思ってもいないことを口にする大楽はもう口出しはしないと飲み物を買いに公園を後にした。

 一連の流れを見た後、彼は再び空想を発動するために集中する。何かがモヤとなり視えているようだが、ハッキリとしていない。発動していないわけではないのだ。確かに何かは見えているが、なにも見えない。


 その様子に蛇ヶ原は言う。


「目的がないからかもわからんな」

「目的?」

「何が見たい? これを見たい。その人を見つけたい。決定的目的を明確にしてみよ。ほな、ちょうどええ。蝶さん、見よ」


 飲み物を買いに行った大楽を見る。それを目的にする。

 彼は深呼吸して大楽が、どのあたりを歩いているか、何をしているのか頭の中で思い浮かべながら一度、目を閉じて再び開いた。




 公園の景色が一変する。モヤが晴れて視えたのは、路地に設置されている自動販売機を見つめる大楽。小さなコインケースを見つめながら暑さにうんざりする表情。五百円を投入してスポーツドリンクを買うために手を伸ばした刹那、小学生ほどの子どもたちがわーっと追いかけっこをしていた。五人集団の一人が、ドンっと大楽にぶつかり、謝罪なく走り去ってしまう。

『元気だなぁ~』と呟いてスポーツドリンクを買おうとボタンを押すが反応しない。あれ? と不思議に思いながら何度も押すが反応しない。まさかと思いお釣り入れを見れば、見事に小銭が入っている。つまり、既に何か購入された後――……。

 受け取りカバーを上げて、誤購入された飲み物を取り出す。


『甘さばっちり! イチゴケーキサイダー!?』とピンク色の文字で飾られた誰が考えたのか分からないそのネタジュースに大楽は絶望する。

 本物のイチゴケーキを液体にしてさらに炭酸を含めた劇物で、甘いという前に炭酸が口の中に広がって言葉が出ないと噂の代物だ。誰かが買うのを見るのはいいが、自分が買うことになるとは思わず、大楽は先ほどの小学生に買い取らせるかと考える。けれどもう姿かたち、笑い声すら聞こえない。陰謀なのかと疑いたくなるほどだ。炎天下の中、コンビニまでの距離を面倒くさがって自動販売機で済ませてしまおうとしたことがいけなかったのかと絶望する。




 ハッと彼は我に返る。蛇ヶ原が「なにか視えた?」と尋ねる。彼は一部始終を口にすると蛇ヶ原は腹を抱えて大笑いをする。


「それ、ほんまに飲むんやろうな」


 イチゴケーキサイダーなんてネタの中のネタドリンクを飲むなんて陽キャだってしない。蛇ヶ原は一頻り笑い、満足したのか瞼に溜まる涙を払って「にしても」と続ける。


「きっかけはわかったな。目的やな。発動は出来るけど、目的があらへんと見たいものも見られへん。ほんなら、吸魂鬼を見つけることも出来るんとちゃうか?」


 一度でも会っていれば、その人や、吸魂鬼を想像して、居場所を見つけられる。

 そして、その考え方の応用としてその対象が次にどう動くのか、行動してくるか想像して視ることが出来るはずだ。


「例えば、そうやなぁ~。ナナさんがやるわけないわかっとるけど、誰かの秘密を握れば、あとから取引で使えたりするで? 喧嘩しとる人を止める一つの手段やな」


 平和主義なのはわかってるが、強引な手札を持っていることも吉になることがあると蛇ヶ原は言う。


「情報を持っとることは罪やない。問題なんわ使い方や。悪く使えば、悪くなる。良く使えば良くなる。つまりそう言うことや。んでもって試しに、蝶さん以外の人、見てみたらどうや? 視たもの、聞いたものは他言無用で。あっ! それこそ、ロクさんの病室を視たらええよ! あそこなら、やましいことなんてあらへんやん」


 そう言いながら友だちが心配なのは、蛇ヶ原も同じことだった。

 表には出していないが、羽人を護れなかったのは、その力を持つ蛇ヶ原も同じだった。知っているものは、行動に制限が付きまとう。吸魂鬼狩りは何でも出来るわけではない。もっともゾーン内では何でも出来て、なんにでもなれる。だが、現実世界ではその限りではない。皮肉な話である。


 彼は蛇ヶ原の提案に乗り、羽人の病室を想像する。



「入間くーん。コレいるぅ?」


 彼が空想している最中に、大楽が帰ってきた。その手には、イチゴケーキサイダーとスポーツドリンクを持っていた。購入失敗した方を蛇ヶ原に向けると「いるわけないやろ」と一蹴されると「えー」と露骨に不機嫌な声色を出した。


「せっかく、入間の為に買ってきたのになぁ」

「嘘言うな。蝶さん、それ子どもさんにぶつかって間違った買うたものやろ? 飲まへんもんを押し付けんな」

「いいじゃん。お金取ろうってしてるわけじゃないんだしぃ」


 ぐいぐいとイチゴケーキサイダーを押し付けて来るのを「やめーや」と拒む。

 自販機で買ったことでまだ冷たい。ボトルが頬にくっつけられて突然の冷たさに嫌がりながら、余りのしつこさに、受け取らなければ、ずっとボトルを押し付けられてしまうと、しぶしぶイチゴケーキサイダーを受け取った。


「今回だけやで」


 ボトルを握りキャップを捻る。ぷしゅっと炭酸が抜ける音がボトルからする。ピンク色の液体をじっと見つめて意を決して口にする。


「んっ!? ~~~~あまっ」


 なんやねんこれ!! と声を張り上げて訴える。ボトルの中身を疑うように睨みつけると今度は大楽が腹を抱えてケラケラと笑った。

 絶句するような強烈な刺激と甘さ。甘酸っぱさを感じたと思えば、クリームの甘さを感じて、最後には、あるはずのないスポンジケーキ。頭の中が麻痺して吐き出してしまいそうになるのを強引に飲み込んだ。

 味に慣れていけば、甘さと炭酸が好きな人は耐えられるのではと思わなくもないが、蛇ヶ原には劇物だと思うほかなかった。


「蛇ヶ原君!」


 刹那、彼の声が響いた。

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