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第72話 Who are me

 浜波中央病院にて。

 佐藤先生は、羽人を病院に連れて行った。検査の結果は言わずもがな。近年続く、怪奇事件の被害者の症状。精神崩壊。瞳に生気は宿っておらず、死んでいるのではと錯覚する。所謂植物状態。


「異常がない状態では、経過を見るために一日二日しか入院させてあげられません」

「そーっすよねェ」

「一応、警察の方にも伝えておきます」

「お願いします」


(まあ、警察に行ったって通じねえだろォ)


 医者は申し訳なさそうにその場を立ち去る。病室に入ればベッドに横になる羽人が天井を見つめている。その姿を、他でも見たことがある。知る者たちが救えなかった民間人。各地の病院や家々で廃人が療養している。今に始まったことではない。


「悪いなァ。助けてやれなくて」


 羽人に伝えても、こちらを見ることをしない。虚無を見つめている。浜波がお祭り気分の中、人知れず不幸が湧いている。

 吸魂鬼の侵入を許してしまっている。海でも祭りの会場でも巡回して、吸魂鬼を退けていたつもりだったが、別の個体が潜んでいた。その所為で羽人が被害に遭ってしまった。


 自分たちは違うと思い込んでしまうのは仕方ない。保身に走るのは人間の性だ。無償で危険に飛び込むことは本来誰にもできないのだ。必ずどこかで利を求めている。

 スマホで吸魂鬼の情報が溢れるアプリを起動する。浜波で発生した吸魂鬼の情報が流れている。数分前にタイムラインで更新されているのは、「浜波大祭り兼花火大会に祭りの提灯を模した吸魂鬼が発生」と誰かの書き込み。

 それを知っているのは、佐藤先生と糸雲だ。佐藤先生が書き込んでいないと言うことは、糸雲が善意か、情報交換かで投稿したのだろう。その投稿詳細をタップすると、性質と別に「ハウスの介入」が記載されていた。

 ハウスの行動を監視するように「吸魂鬼狩りが直接被害者を見ていなければ、違反として咎められた」と記載されている。

 その後、被害者の状態は吸魂のみであることで投稿が文末を迎えて終える。


(生きてるだけ儲けもんだと思うか。もう取り戻せねえって腹を括るべきか)


 羽人の病室を離れて、照明が落とされた待合所。自動販売機が淡く光源として辺りを照らしているが、全体が明るくなることは当然ない。ベンチに座って佐藤先生は同僚に連絡を入れる。


「あ、黒美ちゃん? オレオレ、あのよォ……いや、暇じゃねえよ!? ちょっと問題、お前ンとこの生徒が襲われた。羽人ロクが襲われた。キスされただけで、殺されてはいねえけど、そこにジョンが居合わせちまってよォ。ちょっと病んじまうかもしれねえから、そこんところ……」


 佐藤先生の目の前には『携帯電話使用禁止』の張り紙が柱に貼られていた。


 一応は、吸血鬼部の副顧問として彼が関わってしまったことを伝えるとスピーカーの向こう側からうんざりしたようなため息が聞こえた。実際うんざりしているだろう。関わる事を禁止しているのに、どうしてか彼の周りでは吸魂鬼の動きが活発になったり、誰かを連れて行こうとする。


「なあ、なんでジョンを部員にした? いつもなら幽霊部員として、放置してただろォ?」


 彼が幽霊部員ではない理由は、聞いているつもりだった。

 結界系の空想で吸魂鬼と出た。新形が現実に連れてきた際に通行料が発生しなかった。


 この二つの不穏分子を明確にしなければ、目を離すことは出来ない。そして、その事を知らない彼の意思は確かなものだと理解できる。誰も傷つける事をしたくないという志は、本物である。けれど彼の周囲で何かが起こっている。


「まあ、何だっていいぜ。……で、羽人ロクはどーするよ? 処理するなら、早い方が良いだろォ?」


 深く考えるのも馬鹿らしいと佐藤先生は、羽人の今後を聞いた後、通話を終了する。背もたれに体重をかけて天井を見る。病院の天井なんてどこも同じで、通院していない佐藤先生でも想像は出来た。

 吸魂鬼に襲われてしまった人々は、親族のもとで療養する。治る見込みなどない。決定的なものが抜け落ちて、運がよくなければ人として尊厳を取り戻すことはできない。


「救われねえなァ」


 襲われる側も、襲った側も救われない。別段佐藤先生が平和主義ではない。目には目を、歯には歯をの精神で過ごしている。気に入らなければ、空想でどうにでもできる。けれど、そのルールもゾーン内でしか機能しない上に、人命を救うことは出来ない。限界がある。生徒たちにデカい顔したところで限界を知る者としては、嘲笑できてしまう。


 糸雲の言っている言葉も知っている者の一人として理解出来てしまうのだ。選ばれてしまった運が悪かった。お眼鏡にかなってしまった。そして、運が良ければ、魂を取り戻すことも出来ただろう。今回はできなかった。羽人の魂を奪った吸魂鬼は見つけられなかった。吸魂鬼を殺しても、消し去っても、何度も巡って現れる。真の意味で殺すことは出来ない。吸魂鬼に感情をぶつけて自分自身が呪いを受けなければ消せない。


「なんで、こんなところに居合わせちゃうかねェ」


 スマホをタプタプと操作する。まだ夏休みはあるが、吸魂鬼狩りに休みなどあってないようなものだ。糸雲も休暇と言いながらゾーン内で吸魂鬼狩りを続けていた。


(別に今更、お子様が死んだところで痛むような心も持ち合わせてねえけどよォ。なんつーか、やるせねえなァ)


『クヤンデル。ナラ、シンジャエバイイ、ツマラナイ、イノチハバイバーイ!』

「っ!?」


 甲高い声が聞こえ、弾かれるように佐藤先生はベンチから立ち上がり周囲を見る。

 誰もいないことが不気味さを醸し出す。ジーっと自動販売機の音だけが耳に届く。


「キャハッ」甲高い声。

 佐藤先生はゲートを開きゾーンに入った直後、背後に気配を感じ振り返ると銀色が迫っていた。その脅威から逃れる為に身を捩る。


「痛ッ」


 しかし間に合わず左肩が傷つき血が滴ると「デター!」と無邪気な喜びの声。声の主を見ると闇に溶けるようにひらひらと浮かぶ吸魂鬼。

 風のない室内で、黒いローブがはためく。干されているシーツのようにふわふわと揺れている。黒いローブを目深く被るその個体。

 浮いている為、正確なことはわからないが、中校生程の背丈をしているだろう。てるてる坊主のように縛り上げられている首元。まるで囚人のように身体に拘束具で繋がれている。


「デアッタトキノ、アイサツ! ハジメマシテ!!」


 少女のような高い声。ふわりと頭部が持ち上げられるとそこから見えたのは、ピンクと白の道化のような面。右目がハート、左目が星のマークにくり抜かれて、釣り上げられた口角。二つの仮面を真っ二つにして一つに合わせたような仮面の吸魂鬼は壊れた機械のように雑音を混ぜた言葉を佐藤先生に向ける。


「アソンデクレル、ニンゲンニ、チャント、オレイ! アリガトウ!」


 言いながらローブの中から巨大なハサミを飛ばしてきた。一度は掠ったが二度目はないと佐藤先生はサイコロを投げて、反撃する。


「奇数は優に、偶数は劣に! オレの完全勝利は、オレの命を賭けるぜ!」


 コロンっと床に転がるサイコロに出た目は赤い点と四つの点。「5」奇数だ。


「ナァニソレェ!」

「オレの勝ち! その生命貰うぜェ!!」


 サイコロの目から金色の帯が伸びる。仮面の吸魂鬼を拘束する。

 他の吸魂鬼に比べたら、脅威はあれ簡単に捕まえることが出来たが「ナァニコレェ」とローブが揺れるとサイコロにメスのような医療器具が突き刺さる。


「イマジナリィ!? スゴイ! キュウコンキガリッテヤツダ!!」

「ヘイ。お前、誰だよ」

「アー! オマエッテ、クチワルイ~。イケナインダァ。ソレニ、ナマエヲ、ナノルノハ、キイタホウガ、サキダッテ、オソワッタンダケドナァ」

「バーテンダー」

「バァテンダァ? ヘンナナマエ! ジャア、アタシモ、ナノルネ!!」


『イノセント』


 その声を聞いた瞬間、佐藤先生は身体が硬直した。言葉を聞いただけの事なのに、指一本動かなかった。ふわりとローブが降りて来る。白い足が見えた。素足が冷たい床に触れる。ぺたりと違和感もなく立つ。仮面の向こう側でどんな表情をしているかわからない。


「……オイオイ、なにしたよ」

「ナァニモシテナイヨ? ダイジョウブ?」


 クスクス笑っている素振りをして近づいてくる。ふわりと持ち上げられた右側のローブ。拘束されていることも鬱陶しく思う素振りもなく、鋭い刃が剥き出しになった。動けない身体に向かって突き刺さる。


「がっ!?」

「オモッタヨリ、ヨワイ。ツマンナイ!! モット、イマジナリィデ、アソンデクレルトオモッタノニナァ」


 退屈だと仮面の吸魂鬼、イノセントは文句を垂れる。長剣で貫かれた佐藤先生は苦しさに呻いて膝をついた。腹部から滲んだ血が床を汚す。やっと動けるようになっても、身体を穿つ刃が抜けない限り、物理的に動けなかった。


「オシマイ」


 翼のようなデザインのナイフが佐藤先生を包囲する。


「テンゴクへ、レッツゴー!!」


 翼の形のナイフが佐藤先生に向かっていく。ドスドスっと獲物を始末する残酷な音が仄暗い待合所に赤が広がる。イノセントの声が響く。


「ケロケロチャンヲ、コロシタッテイウカラ、チョーットキタイシタノニナァ」


 イノセントは、カエルの吸魂鬼を知っていた。三つの谷を根城にしていた吸魂鬼と会うことがなくなった。噂では吸血鬼部なる組織がカエルの吸魂鬼を消滅させたとなっている。吸魂鬼を殺す方法が他の街から三つの谷にやってきた男が、吸血鬼部に助言した。

 それが、イノセントの目の前で血を流して倒れている佐藤先生と確定している。


「ツマンナイ」


 人間の無駄な抗いも吸魂鬼の暇つぶしでしかない。殺して潰して、また現れる吸魂鬼狩りの相手をする。


「ネエ、吸魂鬼狩リチャン」


 イノセントは血だまりを見つめるとその背後で、紫色の眼光が過る。

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