第64話 Who are me
翌日、朝六時に起床した彼は羽人がまだ寝ているのを見て、起こさないように洗面所へと向かった。
「おはよ! ナナ! 早いんだな!!」
洗面所には、剣道と蛇ヶ原、小穴がいた。
まだ寝ていると思っていた為、三人が起きていることに驚く彼は、そのまま告げる。
「そう言う三人こそ、早いよ」
「俺はいつもこの時間には起床しているんだ」
「自分、夜行性なんやけど、今起きな二度と起きられへんからイヤホンを耳にして、爆音で目ぇ覚ましとるんですわ」
アラームを設定してスマホ最大音量でイヤホンをつけて寝ているらしい。
「爆音……耳、痛くならない?」
「慣れや慣れ」
「その慣れの所為で、目覚めが悪いのではないか」
「まさにその通り! いやぁ、さすが凌空君やな。洞察力花マルさん」
お陰で聴力低下中と自分事を笑っているが笑いごとではない。最悪、鼓膜を傷つけてしまうのではと彼は慌てるが「気にしすぎやで?」と言われてしまう。
「そう言うナナさんは、どうなん? もっと寝たいー言うもんとちゃう?」
「早起きは三文の徳って、諺があるでしょう? それでなにか良いことあるかなって」
「それ! 俺もやってるぜ!! 一日一善、早起きは三文の徳、百聞は一見に如かず!」
「最後ちゃうやん」
なんて言いながら、彼らは歯磨きをする。蛇ヶ原はまだ寝ぼけ眼で身体が億劫な為に電動歯ブラシを使っていた。蛇ヶ原から電動音が聞こえるのがシュールで笑ってしまうと「なに笑っとんねん」と突っ込まれる。
『おはよう』
「ロクさん、おはようございます」
ぽわぽわと意識がほぼ浮上していない状態で起きてきた羽人は、立ったまま寝ている。危うく柱に頭がぶつかりそうになると「アタマ、ブツケルヨ」の声と共に羽人と柱の間に手が差し込まれる。
「鬼久保君、おはよう」
「オハヨウ」
ほとんどの人が六時には起床しているようで、朝の行動も予定よりも早くなりそうだ。
順番に歯を磨き終えて談話室に行くと、ギターの音が聞こえて来る。昨夜と同じように大楽がギターで適当に音を奏でていた。騒音ではなく、心地良い音は夏の空気に合っており、朝から気分がよくなる。
彼が大楽に挨拶するとべーんっと挨拶のように音を出す。
「大楽君、昨日は結局、寝たの?」
「寝たよ~。防音室を出た後、部屋に戻ったら佐藤先生いなかったんだぁ~」
防音室でギターをかき鳴らせた上に、佐藤先生も布団にいなかった。熟睡できたと大楽はラッキーと語る。
(いなかった? でも、昨日は)
昨日、佐藤先生は、晩御飯をご馳走になった後、先に風呂に入って、「オレは寝るぜ!!」と誰よりも先に部屋に行ってしまった。教師として生徒の世話をしなくていいのかと思ったが、生徒たちの自由を尊重しているのだと小穴が言うため、気にしていなかったが、もしかすると佐藤先生は、部屋には戻っていなかったのかもしれない。
「グッドモォォニィィングッッ!!!」
「わっ!」
ズサーと床を擦りながら、談話室に滑り込んで現れた佐藤先生。
「おはよーセンセー。どこに行ってたの? 昨日部屋に戻ったらいなかったし、起きてもいなかったしー」
「夜は、便所。んで、オレの起床時間はなんと!! 早朝四時!!」
「ジジィみたいな起床時間でうける」
洗面所から談話室にやってきた真嶋が聞こえてきた佐藤先生の声に告げると「バカ言うんじゃねえよ」と突っ込んだ。
「サト先、もしかしてさ~。ドラマとかである。海の家で一日バイトとか言っちゃうやつ?」
真嶋が楽し気に言う。青春を謳歌する若者たちに横やりを入れる大人。それが佐藤先生なのではと言えば本人は、「まったく?」とそんな予定はないという。
「つーか、今のご時世に、んな簡単にバイト見つかると思うなよォ。それに、此処は浜波、最高リゾート地に一般ピーポーが介入できるわけねえだろォ。研修だの重要書類だの必要なわけ、お前らはただ遊びに来ただけだろォ」
「校外学習的な?」
「夏季合宿的な?」
「ヤリタイダケジャン」
真嶋と剣道の言葉に鬼久保が突っ込む。
佐藤先生は、もし本当にそう言うことがあったとしても、男子だけなんて不平等なことはしないと断言した。
「んまー、なんだァ。折角、男子だけで集まってんならお前らだけで楽しめよォ。無理にイベント作らなくても剣道が用意してんだろォ?」
佐藤先生はこれ以上自分に面倒なことが降りかからないように剣道に言えば「おう!」と肯定する。
「ご要望にお応えして! 残りも満喫できるプランは出来てるぜ!!」
今日は海、明日はバーベキュー、観光フェリーエトセトラ。剣道は夏を友だちと満喫したいのだとスケジュール表を出すと大楽が「結構マメだよね~」とスケジュールを眺める。
「三日目のフェリー気になる~。ギター持って行っていい?」
「勿論! ほかにも行きたいところがあれば連れて行ってやるぜ!」
「さすが、お坊ちゃん。金銭感覚狂っとるわ」
蛇ヶ原はくくくっと笑いながら何やら悪い考えをしているようだ。
「蛇ヶ原君、剣道君の家を破産でもさせようとか考えてない?」
「んなわけあらへんやーん。ナナさん、人聞き悪い」
『その笑い方だけで怪しいよ』
「嫌やわぁ~自分、そんな怪しく見えるん? 泣いてまうで?」
シクシクと泣いたふりをするが、誰も気にしていない。本人も特別過大反応してほしいわけでもないだろう。
剣道は、浜波にある様々な施設を紹介する。
「レジャー施設も沢山あるし飽きさせないぜ!」
招待したからには客人を楽しませなければと意気込む。
その後は、朝食を取り十時になり、海へと向かう。
剣道の家から海までは、バスで向かう。バスの車内では、見たことのない景色が流れていることに彼や羽人、鬼久保は興味津々で窓際でジッと見る。小穴に「君たちは、生まれたての赤ん坊か」と突っ込まれてしまうが、見知らぬ土地では、そう言った好奇心が駆り立てられるのだ。
「青い空! 青い海! 白い砂浜! そして!」
「布面積、およそ四十パーセントの女性たち!!」
「キタァー!!!」と拳を突き上げた真嶋と小穴。バスから降りて、澄み渡る海。
一般開放された海には、旅行客や近所の子供たちが海遊びに興じている。
真嶋と小穴が目的としていた若い女性たちもいる。皆一様にその場に適した格好だ。
「コイツラ、カンシシナイト」
「気づかないうちに警察呼ばれちまうなァ」
鬼久保と佐藤先生はさすがに犯罪者予備軍の二人を警戒する。
佐藤先生自身の受け持ちでないが、務めている学校の生徒が警察の世話なんてことになれば、常に不機嫌な待ったなしの友人に絞め上げられると二人の面倒を重点的にみる羽目になったことを脱力する。
海水浴を楽しむ家族連れ、バーベキューをする若者たち、波に乗ろうとサーフィンをする人。三者三葉に海で楽しんでいる。海で楽しむ人たちを眺めると唐突に剣道が口を開いた。
「この中で泳げる奴!!」
「はぁい! 俺っ! 浮くことしかできない~」
「昔ならば出来たが……」
真嶋が我さきに挙手して自信満々に泳げないと言えば、小穴が小学時代はスイミングスクールに通っていたため、少しならばと答えた。
「むり~ギター濡れる~」
「……ス、スコシダケ」
『わかんない』
「二十メートルは余裕やで~」
「泳げない」
みんながそれぞれ言えば、「泳げるやつは俺と競争だ!」と剣道は小穴の腕を掴んで強引に海にへと駆け出して行くのを見て「ええやん」と蛇ヶ原が追いかけた。
「その前に準備体操ちゃんとしろよォ! ロッカーレンタルも!!」
佐藤先生が慌てて追いかける。
「んじゃあ~俺は、カワイ子ちゃんを探しに行こう」
「ソノマエニ、ヤルコトアルダロ」
真嶋がナンパし始めそうなのを鬼久保が首根っこを掴み海の家にあるロッカーをレンタルするために向かう。大楽も担いだギターを背負いなおして二人を追いかけた。
「僕たちはどうしようか」
『スイカ割りって出来るかな?』
子供の頃から憧れなのだと言って羽人の瞳はキラキラと輝いて見える。
「お、怒られても良いからやろ!!」
その輝きに彼は拒むことが出来ずに必死に頷いた。
売っているかもしれないと二人は、スイカを探しに海の家へと向かった。




