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第62話 Who are me

【浜波駅】


 通行人の邪魔にならないように化粧品の広告が貼られている壁際に移動する。四人分の旅行鞄が彼らの足元に積まれる。羽人がチェインで到着したことを知らせると『了解!』の猫スタンプが送信される。


「浜波、ふぅん。夏の日差しに照らされた女性たちが一堂に会するこの街」

「僕、浜波って初めて来た」

「オナジク」

『季節ごとの観光客の集客率が一位の街。浜波市、その名前の通り、晴れ渡った空に青い海、白い砂浜、海に関してのレジャー施設が満載で、海付近に建てられたホテルでは、海が苦手な人の為に巨大プールも完備されてる。国一番のリゾート地でもある』

「しっかり、コピー&ペースト!! 便利じゃね?」


 音声設定された羽人のメモ帳機能で浜波の詳細を伝えられる。

 真嶋は便利を利用してナンパに使えないか熟考するが、いちいち文字入力していたら女の子たちが逃げてしまうと結論に至りすぐに断念する。


「ぜひとも、女性とお近づきになり! コミュニティの幅を広げる! それこそ、高校生男子」

「んなの小難しい言い方すんなって、ナンパだろナンパ!」

「難しいこともないと思うけど」


 健全な男子高校生。好みの女性を見つけてしまえば、猪突猛進。真嶋は「あっ! かわい子チャン!」と駆けだそうとするのを鬼久保が服を掴んで引き留める。


「ヤメテ、オトナシクシテ」

「足も素敵だが、やはり女性は項だ。項に差し込む日差し」

「熱気にやられて、布面積が減る! 女って最高!!」

「モウ、ナニイッテンノ、コノヒトタチ」


 男子高校生の恥晒しか、もしくは自分たちがおかしいのかと鬼久保は呆れ果てる。

 相手にしていられないと思いながらも、少しでも目を離してしまえば、女性に声をかけて手が付けられなくなるため、もしかすると真嶋と小穴の面倒を見るために鬼久保は呼ばれたのかと勘ぐってしまう。


「なんや、皆さんお揃いやないか」


 ディスプレイ広告を眺めていた彼と羽人、女性をナンパしようとする真嶋と小穴、それを止める鬼久保の五人が剣道を待っていると突如として聞こえてきた。

 そちらを見ると濃き色の髪をした少年が暑さにうんざりした顔をしてやって来る。


「蛇ヶ原君」

「おはようさん。ナナさんにロクさんに新太さん、んでもって、その他大勢」


 出席番号六番の蛇ヶじゃがはら入間いるま。特技は夜の方が目が効くことであり、気温の変化に敏感で、暑いのも寒いのも苦手。蛇ヶ原の机には、卓上扇風機が置かれるほどだ。きっと冬になったら、カイロを大量に持ち歩くのだろう。


「剣道君は?」

「一矢さんは、家で待っとるよ。自分らも行こうか」


 踵を返して蛇ヶ原は駅を出ていこうとすると「蛇ヶ原君! 君は、項と胸と尻! どちら派かね!」と小穴に唐突に尋ねられたのを蛇ヶ原は「んー」と考える素振りをしてにやりと笑った。


「自分、手首が好きやなぁ~」

「て、手首」

「時計とか付けてへん、まっさらな手首を頭上でひと纏めに掴むん興奮するんよな」

「ガチぃ~!」

「胸や尻や~言うとるうちは、まだまだ素人さんやなぁ~。ただのエロさは下品なだけやで」

「くっ……上級者の意見か! 勉強になる」

「触るって……エロいよなぁ~」


(コノヒトタチ、ナニシニキタノ)

(手首?)

(……?)


 三者三葉の反応を見せながら蛇ヶ原の案内のもと剣道の家に向かう。鬼久保は心底、公然でそう言った話をしてほしくはなかった。男子高校生以前にセクハラ発言で絞め上げられるのではと恐々だ。


「一矢さん、他の友だちさんを迎えに行かな言いはって、ほんなら駅も一矢さんの家も、自分がわかっとるから言うて案内引き受けたんですわ。だからまあ、女の子やのーて堪忍してや」

「先生に引率願えて光栄です!」

「マジ! ソンケイっす!!」


 蛇ヶ原の背後を二人のバカが側近の様について行くこと十五分、目の前に広がったのは、日本家屋。


「マジッ!?」

「まさか」

『ワォ』

「此処が、剣道君の家」

「クルンジャナカッタ」


 住宅街から暫く塀が続くと思っていたが、まさかその塀の内側に自分たちの友人がいるとは誰も想像していなかっただろう。


「剣道君って……お金持ち?」

「せやで~。だから、文武両道なんでもござれ精神やんか。ビンボーさんなら、なんぼも部活掛け持ちしたりせんやん?」


 入り口の門を通過して、両側には日本庭園が広がっている。家と思しき建物に近づくのに二分ほど有する。石畳の道。引き戸の玄関が六人を迎える。


「もう帰って来とるんかな~」


 蛇ヶ原が嬉々と引き戸に手を振れるとあっさりと侵入者を受け入れる。

 玄関先には、二人分の靴が並べられていた。給仕の人がいると思ったが、さすがにそんな事もなく玄関には誰もいなかった。


「おぉ、帰っとったわ。一矢さーん、五人を連れてきたで~」


 玄関先で言えば、廊下の奥からドドドドっと地団駄のような足音が聞えて来る。騒がしい音と共に現れたのは、案の定剣道だった。


「お前ら! おはよ! よく来てくれたぜ!!」

「お、おはよう。剣道君」

「企画さんきゅー」

「一週間お世話になります」

『よろしく』

「オマネキアリガトウ。ジュンビ、ホボシテナイ」


 各々挨拶をするとその言葉に剣道は返して中に招き入れる。


 木の匂いがする廊下、障子が彼らの横を通り過ぎる。畳の匂いもしてくる。伝統的な日本家屋に住むのが、クラス一の熱血少年だと思うとイメージが全くない。

 ここがスポーツジムで、そこに住んでいると言われた方がまだ納得がいった。

 客間に到着すると、剣道が迎えに行っていた男子と男が二人、優雅にお茶を楽しんでいた。


「さ、佐藤先生」


 どう言うわけか吸血鬼部の副顧問の佐藤先生が剣道の家でお茶を楽しんでいる。

 その向かいでは、金髪に青い瞳が特徴的な同級生、出席番号八番大楽(だらく)しょうがいた。軽音部に入部して以来、教室内でギターをかき鳴らしては、谷嵜先生に怒られているところをたまに見たことがある。そんな大楽は今、佐藤先生とのんびりとお茶を飲んでいる。


(なんだか、気まずいな)


 彼は、羽人の横で佐藤先生を見る。佐藤先生は、黒いVネックのシャツにレザーパンツを履いていた。学校でも思ったが、佐藤先生は教師と言うよりは、バンドマン、もしくはバーテンダーのような人だ。

 そんな事はさておき、彼は数日前に幽霊部員として活動を停止された。その事を佐藤先生は当然知っている。その場で聞いていたのだから。


「ちょー! なんでサト先がいるんだよー。大人はんたーい!」


 真嶋が佐藤先生の存在に気づきぶーぶーとブーイングする。

 大人の干渉しない合宿だったのではないのかと訴える。


「あー、ごめーん。俺が連れてきちゃったー」


 へら~と気の抜けた顔をする大楽に誰もが肩の力が抜けてしまう。


「なんだよォ。少人数って聞いてたけど、まさか谷嵜んとこの男子全員来てんじゃねえかよ! 暇かよ!」

「そう言う佐藤先生はお忙しいのではないのですか!」


 小穴が突っ込むと「オレはどこも受け持ってねえもん」と言われる。


「オレたちにも夏休みをくれよ」

「つまり休暇ってことスか」

「Yes!!」


 彼は佐藤先生の言葉に、必ずしも吸血鬼部に直結するなんて軽率すぎると頭を振る。佐藤先生は、彼のことを余り非難しているように見えなかったが、それでもやはり彼は疑心暗鬼になってしまっていた。


「なんや迎えに行っとったん、センセーさんを迎えに行くためやったん?」

「いや、蝶が俺んちを知らなかったから迎えに行ったらいたんだよ!」

「ちなみに、オレも知らなかったぜ!」


 高校で家庭訪問はないし、担任ではない佐藤先生が知らなくて当然だ。

 どうやら大楽が待ち合わせの場所で剣道を待っていると佐藤先生と遭遇して、話をしていた。その際に大楽が誘ってしまったのだという。


「チルドレンたちだけで楽しいことなんてさせねえぜェ!! オレも混ぜろ!」

「遊びたいだけじゃないっスかー」

「実際、おやじたちじゃあ手ぇ回らねえと思うんだ! だから、佐藤先生がいてくれた方が引率系? 帰りだってバラバラより大人がいた方が良いだろ?」

「しかし! 我々は高校生! 小中学生ではないのですから一斉下校のような真似はしなくていいかと!!」

「お前らが一番心配だっつってんのー」


 佐藤先生は口をへの字にして不本意であることを伝える。

 真嶋と小穴が帰宅中に一般女性に迷惑をかけてしまうことがないと断言できるのならば、こちらも後顧の憂いなく夏を満喫できるが、こうして見つけてしまえば、放っておくことも出来ない。


「そーれーに、ナンパの極意的なもん教えてやらんでもねえぜ?」

「よろしくお願いします!! 先生!」

「まさしく高校教諭に相応しい!!」


(チョッレェ~)


 真嶋と小穴が綺麗に頭を下げる姿に佐藤先生は苦笑する。


「んじゃ! 決まりだな! 一週間! 俺たち一年C組男子の夏の親睦会の始まりだぜ!!」


 剣道が嬉々と拳を突き上げるとノリノリの羽人、大楽、蛇ヶ原、佐藤先生。方向性がズレていると呆れる彼と鬼久保。まだ見ぬ女性へと期待に胸を膨らませる真嶋と小穴であった。

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