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第54話 Who are me

『十人のオトモダチ、撮影したよ』

『九人のオトモダチ、カメラを向けられたよ』

『八人のオトモダチ、音声を取られたよ』

『七人のオトモダチ、SNSで呟いたよ』

『六人のオトモダチ、拡散して炎上したよ』

『五人のオトモダチ、正義感が強いから制裁を下したよ』

『四人のオトモダチ、遊びに来たよ』

『三人のオトモダチ、かくれんぼしたよ』

『二人のオトモダチ、鬼になったよ』


『一人のオトモダチ、誰も見つけてくれなかった』


 ノイズ混じりに聞こえてきた音。耳障りな音は奇妙なテンポを刻みながら、言葉を続けていた。


(童謡?)


 どこか聞き覚えのあるような童謡。だが、内容はまるっきり違う。


『あなたたちが、鬼。だれが最後のひとりを見つけてくれるの?』


 床に転がる壊れたラジオがノイズ混じりに放つ。テーブルに並ぶ十体の人形がガタガタと震え出して、バラバラに散った。わーきゃーと子供が遊びに興じているような歓喜の声。人形は、下手くそに隠れる。テーブルの下、暖炉の中、チクタク時計の裏、部屋の隅と隠れられそうなところに隠れている。


 谷嵜先生はうんざりした顔をするため、「俺が集めます」と率先して動き出す。

 人形九体は容易に見つけたが、最後の一体を見つけることが出来なかった。


「なんだか、これ浅草さんに似てますね」


 一体を除いて最後に見つけた人形は、長い髪を模してキラキラは瞳をさせた人形。どことなく浅草に似ていると暁が言うと谷嵜先生は「実際それは、浅草だ」と素っ気なく言えば暁から素っ頓狂な声が漏れた。


「現実にいた奴らがゾーン内にいないのも、姿かたちを改変されているからだ」

「じゃあ、ジョン君も?」

「見つけられていない最後の一体がジョンだろうね」


 谷嵜先生は心底面倒くさいと表情を出して髪を掻いた。これがもしも赤の他人であるなら別に見つける義務などないが、それが活動員ならば、話は変わって来る。


「まったく建物が吸魂鬼だと見抜けないとは今どきの吸魂鬼狩りは節穴も良いところですね」

「擬態するとは想定されていないからな。吸魂鬼狩りが失踪していない所を見ると相手も慎重になってんだろ。ただま、普通に考えれば、ご親切に似たような見た目で出て来るわけがない。ゾーン内では全てを疑え。良い教訓になったな」

「はい!」


 元気よく返事をするが根本が解決していない。愚痴を言うのは、後にした方がよさそうだ。彼の人形を見つけなければ事は終わらない。


「大部屋の外に隠れた?」

「この部屋だけで完結させているはずだ。でなければ、俺たちは、この建物に足を踏み入れた時には、人形になってる。まあ、だからと言って人形を外に出したらもとに戻ると断言もできんが」


 暖炉の中にまだ混ざっているのかと暁は火かき棒を持ち人形を探す。


「ジョン君。いるなら出てきてください。かくれんぼなんてしている暇ないんですよ。俺たちは調査をしに来ているんですから」


 そんな事を言いながら火かき棒を握り暖炉付近にはいないだろうと大部屋を見回す。自分たちが通う部室の八部屋分ほどの広さを持つ大部屋。大人数が食事をする部屋であるのは容易に想像できた。谷嵜先生を見ると東側にある扉に近づいてノブを捻っている。内側からも開かないようで、完全に密室。階段ごと破壊した後も他人の声も気配もしていない。

 この部屋に入って数分、体感として四分ほどで何かが起こった。悲鳴は聞こえてこない。


「いくら探してもジョン君が見つかりません……先生?」


 一通り暁が探せる範囲を限りなく探し尽くしたが最後の一体が見つからない。彼がそれほどまでにかくれんぼが上手だったのかと揶揄出来てしまうほどには影も形も見当たらないのだからお手上げだと谷嵜先生に報告する。


 そこで気づいた。谷嵜先生がいないと言うことに。


 一切の音もなく谷嵜先生が消えた。唯一の出入り口を通るなら瓦礫の音が聞こえるはずだ。物音一つしない大部屋の中で無音で部屋を立ち去るなんて芸当忍びじゃあるまい出来るわけがない。それに東側の扉を調べていたのだから一度はすれ違うはずだ。


「まさか、俺ひとりでどうにかしろって事じゃないですよね!?」


 悲痛な叫びは大部屋に吸い込まれて誰に聞かれることもなく掻き消えた。


(考えろ。考えるんだ暁隠。条件があるはずだ。人が失踪する事件には、何かギミックがあり、トリガーが引かれる瞬間が存在する。ジョン君、浅草さんが人形となった。きっとこの建物に侵入した人たちも一様にだ。そして、谷嵜先生は人形にならずに姿を忽然と消した)


 人が消えた条件で言えば、大部屋にいたこと以外にはない。

 大部屋に何かしらの仕掛けがあり、谷嵜先生はその仕掛けを見つけたと考えるべきだろう。


(谷嵜先生はこの部屋で完結すると言っていましたが、それは人形に変えられた際のこと、もしも人形になった後に部屋を出ていったとしたら? 部屋に長居することで何か消えるとか変化する事象が……)


 暁は熟考したのち、九体の人形を全て抱きかかえて大部屋を出ていく。


「ジョン君! いるなら出てきてください! 谷嵜先生がいなくなったので一緒に探してください! いえ、俺の前に出て来なくて結構なので! 谷嵜先生を見つけてください!!」


 人形はひとりでに動き出したならば、人形に自我があると仮定する。その自我が支配されているか、されていないか。それによって彼の人形が暁の言葉に従ってくれるか否かが決まる。


(二人だって規則違反になるのに、俺一人なんて冗談じゃない)


 ゾーン内調査は原則三人以上でなければならない。その規則を調査中に破ってしまう現状は暁にとって耐えがたいものだ。

 調査中に同行者の数が減った場合は、速やかに帰還が決められているが、いまここで引き返したら咎められるのは暁自身である。理不尽なほどに新形からプロの格闘家も驚愕するほどの拳が飛んでくるに違いない。

 規則違反してでも調査を続けるか、死ぬほどの地獄の痛みを味わうか。二者択一が過ぎると暁は顔面蒼白にして「ふざけるな」と地を這う声で呟いた。


「どっちも嫌に決まっているでしょう」


 暁は六角結晶を生み出して、その中に人形たちを入れる。その中の一つだけ、浅草の人形がグラグラと揺れている。言葉は話せない。動きでそこにいると証明していた。自分の意思を告げようとしている。浅草が動ける。つまり、彼も、意思がある可能性が高い。


「……まだギリギリ二人ですね」


 空想は使えずとも此処に、確かにいるのだ。浅草だって足手まといになるために活動員になったわけではない。暁は浅草の人形を持ち上げて抱える。


「まずはジョン君を探します。彼の空想で先生を見つけて貰います」


 返事をするように、浅草人形がひとつ揺れる。その近くを六角結晶が浮遊して付いてくる。一階は双方で見終えている。次は二階となるが、谷嵜先生が二階にいるとは思えない。谷嵜先生がいなくとも彼は隠れているかもしれないと破壊してしまった階段を見上げて「もっと後先考えてください」と誰に言うでもなく呟いた。

 浅草人形が自分の意思で暁の肩に移り、登りやすいように両手を解放した。

 大部屋に入るためにわざわざ破壊したのが祟ってしまった。こんな苦労するならば、もっと穏便な方法があったはずだと暁は歯を食いしばった階段をよじ登る。

 踊り場、中間までやって来る。あまり床を刺激すると崩れて大部屋に落ちてしまうため慎重に二階に上がる。


「俺に身体を使えって……ほんと、人使い荒い人しかいないんだから」


 文句も言いたくなる。吸魂鬼の体内で後輩と顧問を探さなければならないのだから、気が気ではない。いつ消化されてしまうか。そもそも吸魂鬼消化器官があるのか。二階に到着して肩を上下させている所為で浅草人形がふらふらと落ちてしまわないか不安そうに揺れていた。


「す、すいません。少し休ませてください」


 二階に上がり切った。旧校舎の三階に上がるのとはわけが違う。崩れてしまうかもしれない階段をあがるなんて神経をすり減らしてしまう。

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