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第41話 Who are me

 家に帰ってきてリビングで買ってきた知育菓子を開封。

 少量の水で作れることや、本格的な道具が縮小されて同封されており、いまもなお進化を続ける知育菓子に感心する彼だったが、もしかして子供だけでは作る事ができないのではと説明書きを眺めながら複雑な顔をする。


『これ、スポンジ用。こっちがクリーム』

「あ、絞り袋もあるんだ」


 説明書きを読みながら彼は不格好な手つきで小さなケーキを作るために奮闘する。

 レンジで温めることで膨らみ本格的なスポンジケーキになる。

 手乗りのスポンジケーキに、クリームが入った絞り袋でクリームを付けて、その上にイチゴを模したラムネを乗せる。形が崩れないように冷蔵で冷やす。


 男子高校生が作るにはシュールな絵面で、本人たちは真剣だ。


 クリームとスポンジがしっかり固まるまで少し待っている間、彼は晩御飯を食べるためにキッチンに立つ。どうせなら、羽人の分の軽食を作る。

 遠慮していたが、散歩の疲れもあってか匂いが羽人の鼻を掠めて空腹を知らせる虫が鳴いた。お互いに空腹で、遠慮なんて必要ない。知育菓子のお礼だと言って彼は軽食を簡単に作り上げていく。


 買ってきたロールパンでサンドを作る。ソーセージとレタス、ハムとポテトサラダを挟む。テーブルに並べて二人で食べる。


『ナナのご飯を取っちゃってごめんね』

「大丈夫! 羽人君とこうしてご飯食べるの僕好きだから」


 学校の昼休み。学食か弁当持参のどちらかであり、羽人はいつも学食だった。彼は弁当を持参していた。時間が無い時は学食なのだが、どちらにしても羽人は彼と食事をする。時々剣道も便乗して三人で楽しく食べるのが好きで、一般的に普通と呼ばれた場面が彼は好きだった。特に少し前から普通にこだわりを持ち始めている。


 腹が満たされると眠気が襲って来るが、寝てしまえば勉強する時間が減ってしまう。


「羽人君、珈琲は飲める? ミルクと砂糖もあるけど……」

『砂糖を六杯、ミルクを四杯いれないと飲めない』

「甘党なんだね」

『甘党で猫舌。ラーメンは十五分から三十分待たないと食べられない』

「伸びない?」

『柔らかい麺が好き』

「なるほど」


 猫舌の堅麺派じゃなくてよかった。と言えば羽人も同意した。

 アイスコーヒーを作り羽人に差し出すとお礼を言って受け取る。


 ほっと息を吐いた。アイスコーヒーは、羽人の口に合ったようで目を伏せて口を緩めていた。


「そうだ。もう固まってるかも、ケーキ持ってくるね」


 知育菓子で出来た小さなケーキ。不格好でお世辞にも綺麗とは言えないが、パッケージと似たグミのような甘い塊が二つ。


「いただきます」


 手を合わせて二人は、ケーキを口にする。

 知育菓子に興味を持つと羽人は、他にもお弁当だったり、お寿司だったり、たこ焼きだったりとありとあらゆる種類を出している。

 食玩と同じで商品の代わりが速い為、一度逃してしまうとなかなか入手できない。知育菓子は奥が深い。

 彼は、羽人が食玩を買っていたのを知っている為、目的の食玩は手に入ったのか尋ねれば、ミルフィーユケーキのストラップを出される。黄色い生地の上に生クリームとカスタードクリームが均等に乗って、イチゴやキウイフルーツ、マンゴーとフルーツが乗って、とても美味しそうで可愛らしい。


『コレ、欲しかったんだ。最後のひとつ』


 そう言って目を細めて嬉しそうに微笑んだ。コレクションのうちの一つ。

 空いた空間を埋めることが出来る。羽人が無邪気に楽しむ姿に、彼も知育菓子や食玩に興味が湧いた。

 子供向けと思っていたが成長した自分たちも楽しめることに気づき尚且つ友だちの新たな一面と興味深いものに嬉しくなる。


 その後、彼らは、二人で教科書を眺めていた。わからないところを解るために意見を言い合い。互いに問題を作り、出し合う。

 日が昇り、羽人は一旦家に帰ることになった。また学校でと見送った。


(まさか羽人君に会えるとは思ってなかったけど、気分転換にはなったかな)


 まだテストの日は続いているが、この一日で彼は満ち足りた気持ちだった。昼のテストも乗り越えられる。



 ――――



 放課後、彼は眠気を振り払いながら帰宅するために昇降口に近づくと新形を見かけた。

 新形は、自身の靴箱の中を見て、不愉快だと表情を歪めていた。いったいどうしたのか彼は近づき声をかけようとすると「十虎ぁ~」と女子生徒が新形を呼んだ。

 そう言えば、十虎という名前だった。と彼は新形の名前をあまり聞き馴染みが無く一瞬理解が遅れてしまった。


「またラブレター? いまどき、靴箱にって古いよね~」

「ほんと、私には谷嵜先生だけだって言っても冗談だと思ってる人多すぎなの」

「谷嵜先生って、いま一年持ってるんでしょう? 会いに行くの大変だよね~」

「全然、先生に会いに行くのに苦とかないよ。会えることで、疲れも吹き飛ぶしね」


 どこに行っても谷嵜先生への愛は変わらないのかと彼は、苦笑する。


「それで? その手紙はどうするの?」

「勝手に人の靴箱あけて手紙入れるとか、キモい」

「でも、知らない生徒ってわけじゃないんでしょう?」

「一応名簿はもらって顔と名前は一致してるけど、直接面と向かって告白しない人は相手にしない。それが酷いとか言う人もいるけど、なら生徒会の仕事とか勉強とか出来るのって話じゃない? なによりタイミングが最悪。テスト期間中に告るってほんとに空気読めないよ?」

「あー、確かに! その手紙の内容ってあれでしょう? 独りよがりだったり!」

「正解。『テストが終わってからでいいので返事を』ってなんで、テスト終わりの時間を知りもしない相手に費やさないといけないっての? この手紙の主に会いに行く時間があるなら、谷嵜先生に会いに行く!」

「ぶれないね~」

「だって愛してるもん」


 言葉通りラブレターを書いた人物が何者なのかも興味がないようで裏面を見ることなくゴミ箱に捨てた後「勉強したいからじゃーね」と別れを告げる。彼は慌てて後を追いかける。校門を抜けてすぐに「新形さん!」と呼ぶと歩みを止めて振り返る。


「ミスター。どうかした?」

「テスト期間中にすいません。その、部活の件でお願いがあります」

「あー、先生から聞いてるよ。白昼夢でしょう?」

「はい」

「先生のお願いだし、良いかなとも思ったけど……。どうせなら課題とか設けたいなぁ」

「か、課題」

「うん。夏休みまでに、谷嵜先生の写真を持ってくること!」

「え……」

「それが出来たら、夏休みに白昼夢のこと、教えてあげてもいい」


 それはかなり無理難題なのではないだろうかと彼は冷や汗を流す。

 もしも出来なければ、それ以上は教えてもらえなくなる。ゾーンで吸魂鬼の調査をするだけになる。白昼夢を知る事が出来れば、ゾーン内に入らずに空想を使える。安全圏で多くの人を助ける事が出来る。


「頑張ります!」

「頑張れ! 応援してる! わりと全力で」

「谷嵜先生の写真、欲しいだけですよね?」

「えへっ!」


 新形は自身の魅力を全開に使いながらかわい子ぶる。魅せ方をわかってる人の行動はなかなかに読めない。


「でも、……適合率が高いって親近感湧いちゃうなぁ」

「適合率って、ゾーンと現実を見極めることが出来るってことですよね? 高いと凄いんですか? 隠君は、低いらしいですが出来てはいたような」


「暁は、現実的だからね~」と答えになってない返答を得る。暁は現実的だからと言って適合率が上下したりしないだろう。


「適合率は天性なものらしいから、どうする事も出来ない。だから少しだけその感覚を暁に貸してあげた」


 カエルの吸魂鬼がしたように新形も暁に白昼夢を付与していた。本来ならばそう易々と扱えるものではない。それこそ適合率が高いことで出来る。


 駅まで送ってくれるようで少し前を歩く新形に彼は小走りで追いかける。


「無意識領域において、自覚する人は少ないよ。百人中一人自覚するかしないかだね」

「そんなに少ない物なんですか?」


 無意識だったことを自覚する人は結構いるイメージだったと言えば「んー」と新形は考える素振りをして言う。


「適合率が高いと幽体離脱しちゃいがち?」

「幽体離脱?」

「何かに夢中になり過ぎて、戻って来られなくなる。ゾーンから抜け出せない人の典型的な例だね」

「何かに夢中……。もしかして、白昼夢って、谷嵜先生の愛で戻って来られなくなった。副産物?」


 谷嵜先生に夢中で、ボケーっとしてしまった末なのかと呟くとぐるんっと新形は彼に向かった。

 それが一瞬だけ恐怖を与えて彼は肩を震わせた。


「ミスター」

「は、はい! な、なんか、すいません」

「謝らないでいいよ。一つ訊きたいことがあるんだけど」

「はい、なんでしょう」

「私の谷嵜先生への愛は、ちゃんと君たちにも伝わってる?」

「え? えーっと、それってどう言う」

「君たちから見ても、私はちゃんと谷嵜先生が好きなんだって伝わる? 私イコール谷嵜先生みたいな式が構築されているのかな?」

「えっと、はい。入学式早々に僕たちC組に宣告するくらいには、好きの度量は他とは違うってわかりますよ。僕の場合、会った初日から先生の自宅にゾーン越えしようとしていましたし」


 容姿端麗、才色兼備、文武両道。

 文句なしの見た目をしていて、性格は在学校の教師に惚れている残念な生徒会長。

 部活での新形の行動も見ている為、彼女の行動を本気と捉えない人の方が不思議に思ってしまうのは感覚麻痺だろう。


「報われるように僕は応援してるつもりですよ」


 社会的とか倫理的とか、常識的とかそう言った世間の目を抜きにして、彼自身好意は大切にするべきだと考えていた。過剰な愛は重たく支えきれないが、新形を見ていると過剰と言ってもしっかり節度は持っている。

 確かに愛しているからこそ、迷惑はかけられないと言った雰囲気を感じる。実際、テスト期間中は谷嵜先生に会いに来ることはないし、一年生がいる廊下に新形が現れる事も少ない。やる事をある程度でも熟して谷嵜先生に会いに行っているのだ。

 それを否定しようものなら、愛などなくなってしまえばいい。


 新形は目を開いて「ほぉ」と呟いた。


「良い後輩だ。けど、」

「わっ」


 つんっと新形は彼の鼻先を突いた。


「懐柔にはまだ一歩足りないね」

「だ、だから懐柔なんてしてません」


(ラブレターを貰って、愛を疑われたのが気に入らなかったんだろうな)


 新形はラブレターを押し付けられて機嫌が悪かったが、彼の一言で盲目なのはラブレターを送りつけてきた相手なのだと知る事が出来たことに満足げだ。


「谷嵜先生は、優しいけど怖いから気を付けてね。まあ言わなくても、もうわかるか! そこが好きなんだけどね」


 駅に到着すると「それじゃあテスト結果楽しみにしてる。それと先生の写真も楽しみにしてるから」と別れを告げられる。

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