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第35話 Who are me

 もしもすべてを失っているなら、水を操る空想など想像しないはずだ。自在に操る事が出来るのも、かつて浅草が水を愛していたに他ならない。


 努力が実を結ぶのは、本当にごく僅かで、目に見えた壁を感じる時は、どれだけ努力を積んだところで意味がない。

 ゼロをイチには出来ないが、取り戻してイチにすることは出来る。


 だから、彼は決めた。


「僕、頑張ります。まだ空想も使いこなせてないし、今だって先輩たちや友だちに迷惑ばかりで足手まといだけど、それでもゾーンから、吸魂鬼から通行料を返してもらいます。それまで、待っててください。僕、諦めませんから」


 取り返す方法もまだハッキリとはしていないが、もしかすると、どこかの吸魂鬼が通行料を持っている可能性がある。その吸魂鬼に言って返してもらえれば、それで万事うまく行く。もっともそれは彼が希望する未来であり、何事もそんな都合よく行くわけがないとはわかっている為、その時は先輩方に頼るしかない。


「たく……後輩に任せるなんて冗談じゃないな」

「だけど、先輩。ゾーンには入ったことないんですよね?」

「! 知ってたのか」

「誰かに訊いたわけじゃなくて、何となくそうなんじゃないかなって……」


 ゾーンに侵入していたら、他人の通行料など気にしている暇はない気がした。彼も同じように名前を取られただけで、こんなに気が動転しているのだから、燈火も同じだろうと予想していた。


「そう。俺は、ゾーンには入っていない。どんな場所かは柳から聞いてる。ゾーンに入る覚悟なんて俺にはない。柳が俺を避けるようにゾーンに逃げたんだと思った。そんな事ないってわかってんのにな」


 情けないと自分自身を責めてもどうにもならず、ならば現実で夢を忘れた浅草に思い出せと訴え続けることにした。一人でも、たった一人でも、浅草の夢を忘れずにいたら、浅草の夢が完全に消えることはない。本心から浅草が夢を辞めたいと、諦めたいと言うまでは燈火は言い続けると決意したのだ。


「任せてください! 僕が頑張って通行料を取り戻して見せますから! 吸血鬼部を信じて待っててください!」


 胸を張った。さすがに彼一人で通行料を取り戻すことは出来ないとわかっている為、半信半疑。けれどその言葉は力強く決意に満ちていた。


「浅草先輩の居場所を守っててください」

「たく……ほんと情けないな。後輩に励まされんの」

「先に喧嘩を仕掛けてきたのは、燈火先輩ですよ?」

「違いない」


 燈火は嘲笑した。一つ年下の後輩と違い自分の不甲斐なさ。それでも、彼に預ければと淡い期待が浮上する。今まで見えなかった微かな光が見えた気がした。


「俺の負けだ」

「え?」

「応援、してやるよ。だから、諦めるなよ」

「……っ!? はい!!」


 力強く頷いた彼は満足げに満面の笑みを浮かべた。



 二人は観覧席に戻れば、水泳部が勝利していたが勝ち上がってきた野球部に負けてしまった。互いに運動部で陸上と海上では畑違いと言うことだ。

 トーナメント表を見れば、シードを獲得している休憩部。謎部活と言うことで注目を集めているが、運動部に当たれば負けは見えている。

 彼のスマホで新形からチェインが届いていた。作戦会議をするから控室に集まるように『休憩部』のグループチェインで招集が掛かる。

 燈火にその事を言えば「俺が応援してるんだから、しくじるなよ?」と激励を送られて彼は控室に急いだ。



 休憩部の控室に向かえば、既に参加する部員たちが揃っていた。


「全力! 特急!」

「電車ですよ、それ」

「良い事、ジョン、綿毛。抜かされていなければ挽回できるから! 寧ろ二回連続ラッキーカードを引けば、余裕だから!」

「そんな豪運に見えますか?」

「貴男は三回も吸魂鬼に当たっているんでしょう。悪運と言ってもいい気がするわね?」


 参加選手の控室で新形が嬉々と絶対勝利を掲げている。彼が吸魂鬼と遭遇していることラッキーと捉えるものはこの場にはいないだろう。


 彼は、こっそり浅草を盗み見る。

 いつも通りの様子は、これからも普通に言葉を話すことはないのだろうと納得する。燈火が諦めないから、しかたなく話しているのか。それともわざと厳しく言うことで燈火に諦めて欲しいかのどちらかだ。どちらにしても浅草の優しさを垣間見る。


「寧ろそこで悪運を使ったことで、いまの幸運レベルは最高潮!」

「ういー!」

「元気がいいですね」


 暁がうんざりした顔をする。暁は綿毛と違って運動が好きではない。どうして好き好んで疲れなければならないのか。それこそ、通行料を取られる前は、家と学校の往復で特別なことはして来なかった。サポート系の空想を所有する家系である以上、肉体的労働を基本としない。寧ろ頭脳を鍛えることに精を出していたと言ってもいい。

 そんな中、存在を取られて、旧校舎に住み込み。用務員の仕事をするとなれば、かなりの力仕事が増えたことだろう。


「隠君は、勝敗に拘ってないんだね」

「勝てるに越したことはないですが、無謀なことはしない主義です。それに体育祭で優勝しなくとも困る事もないですしね」


 どれだけ努力しても、暁が生み出す費用は全て学校や谷嵜先生が支払うことになる。此処で部費だとか何とか手に入れた所で、苦労するのは学校側で勝っても負けても同じなのだ。勿論、学校行事としては楽しんでいるが金銭が絡んでくると前向きになれないのはしょうがないところである。


 対戦相手は野球部を退けたバスケ部だった。


「スパイの情報によるとラッキーカードは確認されてない。引いてないか、元から佐藤先生はラッキーカードを作っていないか。借り物の内容は、人だったり物だったり様々。最悪なのは校長を連れて来いってもの」

「校長って……。カモノ校長ですよね?」

「まさか、カモノハシを連れて来いなんて無理難題を引いたんじゃ……」

「Exactly!」

「それによって野球部が負けた結果ですね」


 優勝候補の野球部が負けた要因であるカードが存在する。吸血鬼部だけが知る校長。カモノハシが三つの谷高校を統治しているなんて知る由もない。

 仮にそのカードを引いたとしても絶対に校長室に突撃してはいけない。


「妥協は?」

「カモノハシのぬいぐるみを用意してます! それと、よくあるタイプのが幾つか。眼鏡とか、教科書とかね。その為に! この控室には、幾つか候補を用意しておきました!」


 新形はロッカーを開き中身をテーブルに広げる。

 眼鏡や教科書、ネックストラップ付のネームタグ、色とりどりの靴、十種類のお面、ガラケー、安物のカツラ、今週の雑誌、多種多様なストラップ、コンビニのレジにあるトレイ、クマのぬいぐるみ、辞書、麻縄、風景パズル、(谷嵜先生に向けた)ラブレター、凧、ジャックオランタンなどなど幅広く、季節外れなものまで選り取り見取りだ。


「いつの間に用意してきたんですか」

「昨日のうちにね」

「生徒会長なのに」

「生徒会長だから自由な時間が多いんだよ。さて! ミスタージョン!」

「は、はい!」

「第一走者として、君にはこれらを覚えて良いカードを引いてもらいたい。勿論、完全なる運ゲーであることに変わりないけど、君の運を期待しているよ! 何としてもバスケ部に勝利する! 休憩部の根性を見せてやれって話よ!」

「根性と言うほど、何か決意するようなこともないでしょう。たかが体育祭です」

「たかがで体育祭で、シミュレーションを何度もして来た人には思えないね」

「隠君、シミュレーションしてたの?」

「してません」


 即否定するが、その耳は若干赤くなっている。

 バスケ部に勝ては無事に一位となる。借り物競争だと言うが、控室にあるものを持ってくると言うのはレギュレーション違反にならないのか心配を胸に抱きながら、張り切っている部員たちの勢いを殺しては申し訳ないと彼は何も言わない。


「さて! 谷嵜先生の期待を裏切らない為に! 我が休憩部は、一位になるのだ!!」

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