表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/142

第32話 Who are me

「痛ー。なにするんですかー」


 ゾーン内、カエルの吸魂鬼はクルクルと目玉を回して昏倒する。隙を逃さないように暁は結界でカエルの吸魂鬼を包囲する。


「まさか、体育祭に潜り込むなんて、何を考えているんですか」

「なにを考えていると思いますかー?」

「なにも考えていないでしょうね」

「正解でーす。でも実は結構いろいろ考えたりするんですよー。たとえばー、吸血鬼の居場所とか」


 カエルの吸魂鬼は新形を見る。平然と立つ新形。

 浅草からの伝言を聞いて、彼を探してた。彼のことだ、どれだけ自身の緊急時でも応援は欠かさない。となれば、一年の出場通路に向かうはずだと駆けつけた。


「ダメですよー。お気に入りを独り占めしたらー。独占法に違反ですよー」

「覚えたての言葉をこれ見よがしに使わないの。それに、吸血鬼は独占してない。てか、うちの後輩にいつまでちょっかいかけるつもり? もうあんたたちの手からは離れてると思うけど」

「本当にそうですかー? まだ通行料が何なのかわかっていないじゃないですかー」

「わからないのは、お前らの所為だけどね~」

「確かにー。本当にあんたって嫌な奴ですねー。人の所為にしちゃう辺りサイテーの底辺ですよー」


 結界の中でも、いつも通りのカエルの吸魂鬼。命の危機など感じていないだろう。

 飄々とした態度で新形と言葉を交わす。命乞いをされてしまえば、こちらも動揺してしまうかもしれないが、その素振りがないのは都合がいい。


「どうしますか? このまま放置ってわけにはいかないでしょう?」

「……不戦勝は、格好悪いからね。さて、どうしようか」


(ほんと、面倒な時期に出てきちゃって……)


 カエルの吸魂鬼を放置することはできない。その気になれば、観覧席の民間人が襲われてしまう。三つの谷高校の体育祭で廃人もしくは死者を出したとなれば、大事件だ。それこそ、罪のない学生、もしくは生き残った保護者たちが連続怪死事件の容疑者になってしまう。


『全力投球! 僕らが期待の一年生!』


 不意に聞こえてきた応援の声。小学生のような稚拙な声。中学生のようなノリの言葉。スタジアムの中心で応援団の演舞。一年生最後の応援。


『僕たちの後ろには仲間がいる! 乗り越える壁はいま目前! 始めよう!! 次に繋げろ!』


「すっごい……。アホ」

「でも、俺は嫌いじゃないですよ」

「だろうね」

「わー、良いじゃないですかー。こういう青臭いの好きな人いるでしょー」

「あんたは黙って消えなさいよ」

「閉じ込められているので、無理でーす。解放してくださーい」


 彼は懸命に自分のクラスを応援する。きっと明日は、敵対していた一年集団を応援するのだろう。同じ一年の応援団で、横並びとなり声を張り上げる。

 湧き上がる歓声。掛け声が彼の声を掻き消そうとするがそれすら負けない程の声を上げる。


「部長。時間です」

「はいよー」


 輝かしい表と違う。新形は、結界に閉じ込められているカエルの吸魂鬼を見る。相手はニマリと笑っているように見える。新形の右腕は、熊のような毛むくじゃらのものに変化する。


「後輩にちょっかいはもうやめておきな。あの子は、純粋なんだ。君らの戯言も信じちゃうような良い子を翻弄しないの」


 結界が腕を通す。カエルの頭部を乱暴に掴む。少しでも力を入れることで呆気なくも潰れるだろう。

 すぐ横で事を見守っている暁は、腕時計で時間を逐一確認している。記録係として多くの記録を取らなければならないのだ。こんなところで時間を費やしている暇などない。


「部長、早く片付けてしまいましょう。特に自我の強い吸魂鬼は生かしておくに値しない」

「あんたは誰にでもそう言うこというでしょう?」

「吸魂鬼なんてみんな片付けてしまった方がこの世の為ですよ。特にこの個体は、三つの谷駅での事件の主犯と考えられます。彼の通行料を持っている可能性もある」

「取り戻す一つの方法。通行料を接収した相手を完全に消し去るだっけ?」

「ふふ~ん。殺せるといいですねー。あんたたちは、まだボクらを殺せてないですもんねー」


 言い切ると同時にぐちゃりと肉塊が飛ぶ。熊の腕が赤に染まる。腕を引くと結界との境で人の腕に戻る。赤く染まった手を新形は見つめる。

 その赤が、まやかしであると二人は即座に気がつく。


「逃げましたか」

「逃げ足だけは速い。鬱陶しいね」

「どうしますか?」

「ゾーン内で調査は私がするよ。暁は現実で体育祭を滞りなく進行させて。んでもってカモノ校長にもこの件を伝えておくように」

「わかりました。気を付けて」

「そっちもね~」


 片手を上げて暁を現実に戻す。生徒会長の仕事は暫くない。プログラム上でも新形の出番はまだ先だ。

 今までゾーン内で小規模の被害しか及ぼさなかったがまさか三つの谷高校に手を伸ばしてくるとはどう言うことなのか。


(この前まで、ハウスにちょっかいかけてたんじゃないのかなぁ。ほんと忌々しいねぇ)


 ぺっぺっと手にこびりついた赤を落とすために振っていると「隙ありーってやつですねー」と抑揚のない声が背後から聞こえた。


「っ!?」


 新形の心臓部が貫かれていた。突如襲う息苦しさ。口いっぱいに広がる錆びの味。

 視界が混沌とする。何があったのか考えるのに数秒有する。


「ダメじゃないですかー……あれ?」

「待ってたよ。カエル」

「げろっ!?」

「私の変身を甘く見ないでよ? アメーバにだってなれるんだからね」

「……へー」


 ドロリと溶ける。スライムのようにドロドロと溶けてカエルの吸魂鬼から逃れる。

 カエルの吸魂鬼の手に感じていた物体の感触は消えて目の前からも消える。足元に出来る水溜まりは移動してカエルの吸魂鬼から距離を取る。


「私の心臓を掴もうって? 残念。先約済み」

「ほんと、ヤな奴ですねー」


 どろっと得体のしれない物体に変身する新形にカエルの吸魂鬼はぎょろりと目を丸くする。


「あのさ。一応、私女の子なんだよ? これから体育祭で一キロ走らないといけないの。結構多忙だから手短にね」

「……。痛みとかって感じてないんですかー?」

「痛いに決まってるじゃん。痛くないと思ってる?」


 どれだけ形を変えられても、隙を突かれたのは事実で、心臓から少しずれた位置が確実に痛みを主張している。生憎と新形は痛みを気にしている余裕などないのだ。何よりも予定が後に詰まっている。腕を失った時のように気を失っている暇などない。もう何度も吸魂鬼と対峙して、また身体の一部を取られたところで痛くはあるが痒くはないだろう。


「痛覚遮断でもしてるんですかー。さっすが、人間やめてますねー。キモいですー」

「バカ言わないでくれる? 嫌いな人間を餌にしてる奴らのほうがキモいっての」


 互いにベクトルの低い言い合いをする。

 ゾーン内では空想で自分の身体を作り変えることが出来る。新形の変身空想で貫かれた部分は詰められ不意打ちでも何とか軌道修正が出来るが、正しく本来の姿ではなければ、現実に戻った際に取り返しのつかないことになる。


(危ない危ない。心臓をむしり取られずに済んでよかった)


 まだ相手を倒せていない。殺せていない。これでは、新形は本当に死んでしまう。

 吸魂鬼が諦めて消滅するまで、奪われたものは取り返せないのだ。通行料も取り戻すことも出来ないまま、死んでしまえば部長として後輩たちに見せる顔はない。


「じゃあ、そのまま痛みを感じててくださーい」


 カエルの長い舌が新形を拘束するが新形は蛇に変わり拘束から逃れる。


「蛇に睨まれてみる?」

「うげ~。シッシッ来んなー」


 手を振って厄介払いをするが当然そんなの通用しない。

 スタジアムで応援団のプログラムを終えて、各競技が開催される。開始音のピストルが度々聞こえる。観覧席から応援の声。


 大蛇が仄暗い通路を這う。


「げろ……わー。カエルって不便ですねー。こういう感じですかー」


 蛇に睨まれた蛙。そのままだと身体が震えて動けない。吸魂鬼は性質までも模倣するようで蛇を前にカエルの吸魂鬼は指先一つも動かせない。


「はあ……めんどーですねー。なーらっ」


 ぱんっと手を打つ。するとカエルの吸魂鬼は姿かたちを変えた。

 カエルの頭部がぐちゃりと形状を変える。ふわりと垂れる深緑色。光が宿らない虚ろな瞳。


「こんなんでどーですかねー?」


 青年が立っていた。明確に人間。吸魂鬼が人間の頭部を持っている。

 新形は息を呑んだ。目を疑った。カエルの吸魂鬼は、人間へとなったのだ。

 深緑色の髪に、翡翠色の虚ろな瞳。純粋無垢な青年の姿へと変わった。


「これで、どっちが人間かわからなくなりましたねー」

「プライド捨てて、人間になりますって?」

「そーですよー。頭部の切り替えだけで人間って同情してくれますからねー」


 人間は殺せないでしょう? とカエルの吸魂鬼だった青年は笑っていた。明確に表情を相手に見せている。今までどんな表情をしていても、視ることができなかったものが今まさに目の前にある。

 人間は同族に害をなすことを嫌う。そう言う点では吸魂鬼と性質は似ているだろう。違うことを嫌悪して、除外しようとする。故に同じであることで相手は警戒心は薄れさせる。

 スタジアムの喧騒。呼吸音、衝撃を受けた心臓の鼓動。新形の眼と耳から伝わり広がる情報の量が尋常ではない。痛みが身体を支配してこれ以上は、下手な空想では太刀打ちできないと判断できた。

 人間に模倣することは珍しいことではないはずだった。人間に紛れて人間を喰らう個体は数知れず。右に左にと吸魂鬼で溢れている。

 対峙している最中に人間になるなど何を考えているのか。


「ダイスロール!」


 不意に聞こえた男の声。カエルの吸魂鬼の頭にサイコロがぶつかると歪んでいた造形は青年の頭部に戻る。「痛ッ……」と表情を歪めるカエルの吸魂鬼は、サイコロが飛んできた方向を見る。

 金髪の男が鋭い瞳をさせてこちらを睨みつけている。佐藤先生が駆けつけてくれたのだ。佐藤先生は、自身の空想であるサイコロでカエルの吸魂鬼を攻撃した。


「新手ですかー。ほんと、今年になってお仲間作り過ぎですよー」


 さすがに新手が出て来るのは分が悪いのか、カエルの吸魂鬼は大人しく撤退するために姿を消そうとするが「参加者は退場させねえぜ!」と佐藤先生はサイコロをぶつけたことで相手を佐藤先生の空想内に閉じ込めた。


「部長、奴が見せてるのは幻覚だ。本物の人間になっちゃいねえよ」


 カエルの吸魂鬼が身体の制限をかけられているのを確認して、新形に駆け寄り傷の具合を見る。完全に心臓を貫かれている。生きているのが奇跡だ。此処がゾーンで無ければ完全に絶命しているだろう。


(んとに、逞しいったらねえな)


 さすが部長と言ったところかと佐藤先生は感心するが、余り褒められたことではない。ゾーン内での戦闘で行方不明になる者は非常に多い。体育祭の最中に学校内で生徒の遺体が発見されたとなれば、カモノ校長が黙っちゃいないだろう。

 心臓部を掴まれていた所為で身体に熱が籠る。発熱しているかのように身体が思うように動かない新形を佐藤先生は支える。新形の脳内が落ち着きを取り戻して、その所為で心臓に穴が開いていることを徐々に気づき始めている。


「その姿は本物か。奇数は優、偶数は劣。ダイスロール!」


 サイコロが転がる。出目は「3」であり奇数。カエルの吸魂鬼の姿は人の顔から徐々に本来の見慣れたカエルの頭部へ戻っていく。


「危機的状況において、相手に幻覚を見せるのはお手の物か」

「嫌だな~。そうだったらいいなぁっていう願望じゃないですかー。あんたたちがやっていることと何一つ変わらないと思いますよー? 空想でしか生きられない。空想でしか相手を図れない人間どもに教育してあげたんですよー。ほらー、もっと楽しみましょう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ