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第27話 Who are me

 体育祭を目指して学校が賑わう。自分が参加する種目を注視して、走り込みをする生徒もいれば、運動部に一時的に弟子入りする生徒もいた。有酸素運動をする生徒が後を絶たない。

 彼も例外なく休憩部の部員として足でも鍛えればいいのだが、一時間もしないで走り込みは断念した。


「ナナぁ~! 最中と同じ部活なら教えてくれよぉ~水臭いぜ!!」


 新形が既に休憩部として参加表明を出してしまったようで、掲示板には見慣れない部活があるとして賑わっていた。そして、全部活制覇を狙っていた剣道は自分の知らない部活に幼馴染と同級生が参加していることに驚愕した。


『休憩部ってなにするの?』

「え、えーっと」


 羽人も気になっていたのか彼に近づき尋ねて来る。


「休憩部。休憩する部活?」

「休憩する部活、なるほどなぁ」

『……?』


(ごめん、本当にごめん。本当にそうだよね。正しい反応だよ)


 なるほどと言って頷いている剣道は放っておいて、分からないと首を傾げる羽人の反応に彼は尤もだと頭の中で必死に謝罪する。

 そんな中、彼らの会話が耳に届いた綿毛がこちらにやってきて言う。


「休憩部は、休憩の意義を議論する部活であり、意味もなく時間を費やす時間ではないわよ」

「最中が入ってる事に驚いてるんだぜ? 帰宅部じゃなかったのかよ」

「茶化されたくなかったから黙ってた」


 休憩する事で仕事の作業効率が上がるか、一気に仕事をして早く退勤するかに置いてのディベートが日々繰り広げられている。と綿毛は言うが彼は一度もそんなことをしたことがない。口出ししてボロを出すより黙ってやり過ごそうと風景へと徹した。


『面白い部活だね?』

「でも、議論は盛り上がりそうだな!! 俺は、休憩は必要だと思うぜ! ロクはどう思う?」

『僕は、全部終わらせて早く帰りたいな。夏休みの宿題もその日に終わらせるよ』

「まずは先に遊び倒そうぜ! んでもって、後半に全部やっちまうのが一番だろ? 楽しかった思い出を抱きながら宿題をする。これぞ! 夏休みの生き様だぜ!」


 羽人と剣道は夏休みの過ごし方を語っているが、まったくもって夏休みなど関係ない部活動であることを綿毛と彼は人知れず思うのだった。


「それで、貴男はどちらが良い?」

「え? どちらがって?」

「第一走者になるか、第二走者になるか」

「綿毛さん。結構、アレ前向きなんだね」


 消極的ではないにしても三日目は全て任意で参加する部活が揃わなければ中止があり得る。今の時代、積極的に部活対抗戦に参加する学生だって少ないだろうと思っていたため、新形の「走者はそっちで決めておいてね」の言葉をすっかり忘れていた彼は綿毛の言葉で記憶の奥底から引っ張らだされてしまった。


「身体を動かすのは、嫌いではないの。それに、もしも私がしくじれば、あの喧しい部長になにを言われるか」

「もう何も言ってこないけど」

「言いそうな雰囲気なの。だから、これを機に是が非でも認めさせる」


 もう実家のしがらみから脱した綿毛だが、それを信じる者など彼以外にはいない。

 今は吸血鬼部の綿毛最中として、第一でも第二でも優れた記録を出すしかない。


「じゃあ、僕が第一になるよ。僕がどれだけ遅れても綿毛さんが挽回してくれるって信じてる」

「……不服だけど、まあ確かに……一理ある。でも! そんな手を抜かなくていい。その、えっと……そう! 貴男が手を抜いているとバレてしまえば、貴男の立場が悪くなる」

「僕、体育祭は昔から好きじゃないから出来れば手を抜いて疲れたくないんだけど」

「……そう」

「? もしかして、綿毛さんも運動得意じゃない?」

「ま、まさか! さっきの話きいてなかったの? 私は動くのは好きなの」

「好きでも、できるのとは違う気が」


 好き嫌いで言えば、好きなのだろう。しかし好きだから出来るわけじゃない。

 音楽が好きな人が音楽を作れるわけがないようにだ。


「走るのは得意じゃない。でも、動くのは好きなの……早く走れなくてよくバカにされていた」


 恥ずかし気に目を伏せる綿毛に「そ、それなら!」と彼は一つの提案をする。


「一緒に今からでも走る練習しよう!」

「また、そんな突拍子もないことを……」

「やらないより、やった方が良いと思うよ。僕も頑張るから、一緒に頑張ろう」



 思い立ったが吉日。彼は、体育祭の練習の為と旧校舎を一周することを提案。

 旧校舎を仕切る範囲は、歩いて約十分で一周できる。

 走るのが得意じゃなくとも、慣れていくだろう。


「一か月、頑張ろう! おー!!」

「お、おー……」



 そうして、その日から旧校舎の外周が決まった。

 放課後、体育着に着替えて昇降口で準備運動をしていると佐藤先生が旧校舎にやって来る。昇降口前で準備運動をしている彼と綿毛を見て不思議そうな顔をする。


「へいへい! ガイズ、なにしてんだァ?」

「佐藤先生。部長がすごいやる気だから、僕たちも頑張ろうかなって。今から旧校舎を走って来るんです」

「ワォ!? 本格的じゃねえの。んなに優勝してェ?」

「優勝って言うか。ゾーン内で走る事だって多いと思うので、頑張りたいなって」

「ふぅん。偉いなァ」


 ぽんっと佐藤先生は、二人の頭を撫でる。

 子ども扱いが嫌なのか綿毛はすぐに手を払う。


「んじゃあオレが記録を図ってやるぜェ!!」


 ストップウォッチを持ってくるから待ってろォ!! と走り出した。


「あの人、本当に元気ね」

「そうだね」


 準備運動を終えた頃に佐藤先生も何故かジャージに着替えてその手にはホイッスルとタイマーが握られている。


「よぉし!! 準備出来たなァ! じゃあよーい!!」


 二人は走る姿勢に入ると意気揚々と佐藤先生は、「スタァートォ!」とホイッスルの音と共にタイマーを開始させた。


 ダッと地面を蹴り二人は旧校舎を周回を始める。早くて七分から八分。遅くて十分から十二分ほどで彼らはまた昇降口に戻って来るだろうと佐藤先生はタイマーを片手に二人の一年生が戻って来るのを待った。



「十分二十三秒。……で、二十五分四秒」


 肩を上下させて呼吸を必死にさせている綿毛と休憩をとっていた彼。口で言うのは簡単だが、実際に体験するとなかなかの距離だと感じた。


「ジョン・ドゥ若人は平均! んでもって、綿毛若人はァ! 十五分のオーバー!」

「言われなくとも」


 呼吸を整えるのに必死の綿毛は、彼にペットボトルの水を差し出されて「ありがとう」と言い水を一気に飲む。


「走っても走っても……。貴男はどんどん遠くなっていく」

「え?」

「別に止まってほしいわけじゃなくて……追いつけない未熟さを痛感する」

「そんな大袈裟だよ! 走るのに慣れてないなら、これからだって」

「今までどれだけ甘やかされていたのか」


 甘やかされている所為で運動もろくにできない。これから、ゾーン内で歩き回ったり走り回ったりするのに、追いつけない所為で足手まとい。


(私、こんなに弱かったんだと痛感してしまう)


 ゾーン内では、何が起こるかなんて予想できない。だからこそ、運動神経が求められる場面は数多くあるだろう。

 綿毛は自分でわかっているつもりではいた。初めて吸血鬼部としてゾーン内に侵入した日、新形と浅草が懸命に自分たちを護ってくれていたことを知っている。腕を失ってまで泣き言一つ言わずに吸魂鬼の相手をする姿に圧倒されないわけがないのだ。


 本人は言えないが、ゾーン内で吸魂鬼と対峙していた新形の格好がよかったのだ。

 新形が部長である片鱗を見た。暁が副部長の座で落ち着いている理由がわかってしまった。

 女性でありながら、否、女性故に痛みに強く前に出るのだろう。そして、暁がその動きをサポートするのが見ていなくとも理解できた。


「まだ時間は大丈夫だったりする?」

「え、うん。僕は平気」

「オレもまだまだ待っててやるぜ!」

「もう暫く付き合って」


 そう言って綿毛は走り出した。その後を彼は慌てて追いかける。

 タイマーはカウントを始めて、また十分待つのだろうと佐藤先生は、意気込む若人の背中を見つめるのであった。



 一年生の熱意を三階の窓から眺めていた者がいた。三年の新形十虎だ。


「お前の無茶ぶりを叶えようとしてくれる奴らだな」

「谷嵜先生! なになに! 声かけてくれたの!! 嬉しい!」


 部活動がないのに自然と旧校舎に足が向くのは当然だろう。そして、彼らが来る前に新形は既に校舎にいた。佐藤先生の話し声が聞こえて、窓の外を見ると借り物競争の為に体力作りをしている後輩たち。


「去年、負けて悔しかったから! 今年こそ優勝して、谷嵜先生に褒めてもらうんだぁ」

「そう。でも、褒めるのはお前じゃないよ」

「えー! なんで!? どうして!?」

「お前は努力してないから」

「してるよ~! 毎日谷嵜先生に愛を囁いて振り向いてもらえるように努力してるのに!」

「体育祭の努力は?」

「愛の力で一位になるもん。そりゃあ、ちょっとのハンデはあるだろうけど、絶対に負けないよ? 負けるとかありえない」

「卑怯な手を使うからか?」

「卑怯じゃないよ。これも一種の戦略。吸血鬼部故の優秀な策略だね」

「策略ね」

「そう言う先生はどうなの? 努力してるの?」

「さあね」

「あー! 大人のヨユー。そう言うのダメだと思うんだよね! 子供には聞き出す癖に大人は、そうやってはぐらかすんだからぁ!」


 ブーブーと文句を垂れたあと「でもさ」と新形は谷嵜先生を改めてみる。


「同じことをし続けることが努力だと勘違いしてる人は、いつまでも成長しないんだよ。何もしないで見てる人の方が観察眼が冴えわたって、良いものが出来上がるときもある」


 にぃと新形は笑って窓から飛び降りた後から「おい!!」と焦った声が聞こえたが無事に着地できたことに安堵する。

 突然頭上から女子生徒が降ってきて驚いた佐藤先生は「なにごと!?」と震える。


「追加カウントよろしくぅ。サト先!」


 その場で数回ジャンプしてウォーミングアップを軽くして走り出した。

 瞬く間のうちに新形は視えなくなるのを「はっやぁ~……」と佐藤先生は唖然とする。


「バカだからな、アレ」

「でも、お気に入りなんしょ?」


 三階の窓から腕を縁に乗せて走り出した新形を見る谷嵜先生に佐藤先生は尋ねると「どうかな」と曖昧に答えた。

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