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第26話 Who are me

 試験日、その手にあるペンは止まることなかった。正解率は兎も角として、スラスラと解き続ける事が出来た。


 そして、その一週間後に出たテスト結果は、上の下。何とも言えない結果となり彼は幽霊部員になってしまうのか気が気じゃなかった。


 テスト期間も終えて、綿毛と共に順位報告のため部室に行けば、部室を掃除している暁がいた。彼は心配を口にすると楽し気に笑っていた。


「実は、こう言った定期的に行われるテストで部活動の変動ありませんよ」

「は?」

「えっ!? で、でも! 隠君が言ったんだよ!? 順位がよくなかったら幽霊部員だって!」

「確かに言いました。けど、それを定期試験で頻繁にやるなんて手間がかかるでしょう。だから期末試験の順位で幽霊部員であるか活動部員であるかを決めるんです。学業を疎かにしている人がゾーン内で行動できるとは思っていない。常に平行であるべきだと言うのが、谷嵜先生の意思です」

「……。なに? 狸かなんか?」

「わ、綿毛さん」


 まんまと騙されたことに綿毛は若干腹を立たせていた。間違っていないからこそ、感じる苛立ちだ。


「それによって実感したんじゃないんですか? 吸血鬼部に気を入れ過ぎて勉強が疎かになってしまっていたことに」

「確かに、勉強が出来てなかった気がするけど……。嘘はよくない」

「期末試験では幽霊部員確定となっていたのも事実。安心していたら痛い目を見る。一概に嘘と断言出来ることでもないですよ。ジョン君」

「うぅ」


 あんなに頑張ったのにとぼやくと「努力する事に意味があるんだぜ! ルーキー」と声が聞こえた。その声の方を向くと扉に寄りかかり決めポーズをしている佐藤先生がいた。そして、一緒に来たのか谷嵜先生が部室に入って来る。騒がしい佐藤先生を無視してソファで横になり寝に入る。


「定期テストが終われば、次はみんな大好き体育祭だァ!!! 盛り上がっていけェ!!」

「うっ、苦手です」

「私、欠席する」

「俺は体育祭の準備と記録なので、種目は一つ参加のみといつも決めています」

「ハァ!? お前らホントに高校生かよ!?」


「後ろ向きな連中しかねえとか信じられねえ」と佐藤先生は絶望に表情を歪める。体育祭となれば、若人が沸き上がる最高のイベントではないのかと叫び散らす。応援団から長距離走での熱の上がり、クラス対抗戦、学年対抗戦、障害物競争に借り物競争。ほぼなんでもござれのカオスフェスティバルに率先的に参加しないなど今の若者の後ろ向きさに目を見開いた。


「体育祭で喜ぶのって、中学生までだと思ってる」

「いつも最下位で、クラスのみんなに迷惑かけちゃうし」

「出来なくても将来困る事もないので」


 綿毛、彼、暁の準備でマイナス意見が飛び交う。体育祭に何されたんだと言いたくなるほどに三人の周りに浮かぶ空気はどんよりと暗い。


「Oh……」


 佐藤先生はその空気に飲まれてしまいそうになっていた。


「あんたたち! 体育祭は、部活対抗戦をあるのを忘れちゃダメよ!!」

「にょーん」


 ばーんっ! と開いていたはずの扉が開け放たれる。一旦閉めてまた開いたという手間をしてでも扉を叩きつけたかったのか、現れた新形と浅草。

 浅草は「朝礼!」と挨拶をして鞄から保存袋を取り出した。その中には、小さく四角に切られた紙切れ。保存袋に手を突っ込み紙切れを掴み勢いよく空中に抛った。ひらひらと紙吹雪が舞う。紙吹雪が髪に落ちるままにバッと顔を上げて嬉々と右手を前に突き出して「宣言する!」と新形は自信満々に言う。


(新形さん、無事に腕も動くようになったんだ)

(さっき掃除したばかりなのに……)


 テスト期間を挟んでいたため、新形の右腕がどこまで回復したのか知らない彼は、無事に動いている事に安堵する。その横で部室の掃除を終わらせた暁が額に青筋を立てた。


「われら、吸血鬼部。改め休憩部は! 体育祭で一位を取る!!」

「グフフっ!」




 吸血鬼部は、正式な部活動ではない。言うなれば裏部活動だ。

 その為、学校行事において部活動が任意参加の場合でも、裏部活動は参加できない。そう「裏」部活動は参加できないだけで、「表」の部活動は任意なのだ。

 吸血鬼部の表の顔は、休憩部。帰宅部でもボランティア部でもない。この部活は、ただ休憩するだけのまったくもって意味のない部活動であり、入部願書の部活動リストにも載っていない。


 くわぁっと欠伸をする谷嵜先生はソファの上で新形たちの賑やかな声をBGMに寝ている。新形は「休憩部が今年の体育祭を掻っ攫う」と宣言している。


「休憩部って、完全に運動部じゃないですよね? 運動部は絶対参加の行事で横から僕たちが参加したって……」

「弱音を吐くのは体育祭が終わってからにしてくれる? 暁、去年やったから覚えてるでしょう? 説明しなさい!」


 無茶ぶりをする新形に深いため息を吐いて、暁は説明を始める。


「うちの高校で行われる体育祭は、他の高校と違って、小中学校がやるような種目も含まれています。開催期間は三日間。一日目は、学級対抗戦。それらは、小学校で見慣れた種目で競い合い。二日目に学年対抗戦で、昨日の敵は今日の友と言うばかりに協力戦。これはポイント制であり、上級生ほど目標ポイントが高く下級生は比較的目標ポイントが緩和されています。相手を蹴落としてのし上がるのが学年対抗戦です。三日目に部活動対抗戦が行われます。部活動対抗戦で優れた成績を残した部活動には、その部活で欲しい備品や、部費が支給されます。申請すると予算内であれば、どんなものでも購入できます。勿論、部活動に関係ない個人の趣味趣向品は却下され、法的に許されている範囲ではありますがある程度は容認されます」


 休憩部も一位になれば、ベッドなどを買ってもらえるかもしれない。もっと寝心地の良いベッドを与えて貰えば、谷嵜先生の寝るところをもっと豪華に出来ると新形は企んでいた。


「去年からうちでも始めることになったんですが、なに分、運動部相手に勝ち目はなかったので、初戦敗退。運任せでもチームワークがモノを言いますね」

「運任せ?」

「はい。体育祭と言うことだけあり、運動部が有利なります。文化部には勝ち目がないのは当然なので、決定的なまでに運の借り物リレー競争で優劣を競います」

「去年、先輩がたはいったい何を引いたんですか」

「……。訊かないでください」


 暁は遠くを見つめていた。もう思い出すことも嫌だと表情が引き攣っている。


「最終走者は、部長。新形さんに俺がバトンを渡したんです」


 走り出した新形が借りる物が書かれたカードを掴み手にとったら『イケメン』と書かれていた。新形にそれを持たせたら持ってくるものなど決まっている。


「部室で寝ていた谷嵜先生を引っ張って、ゴールに一直線。満場一致、却下で負けました」


 失礼だと思うべきなのか、新形ならやり兼ねないと思うべきなのか。どちらにしても教師を連れて来るのはレギュレーション違反で、物は言いようだ。

 学校生活をしていた新形が常に「谷嵜先生好き!」と聞いていたら、彼女にとってのイケメンの範囲は谷嵜先生となるが、生憎と一般開放されている体育祭行事、さすがに生徒会長ともあろう生徒が教師を連れてきて「イケメン! 好き! はいおっけー!」とはさすがにならなかった。

 確かに谷嵜先生は身なりを整えれば、堀が深い顔立ちをしている。イケメンと言っても問題ないだろうが、それはよく顔を視なければわからない。

 そして、よく見ても目つきの悪さや髭などの所為ですぐに断言は難しい。


「酷いと思うんだよね。谷嵜先生ほど素敵な男性はいないってのに……!」

「新形さんにしかわからない魅力ってやつですよ」


 不服そうに頬を膨らませる。全てを理解していなくていいから、少しくらい話し相手になってくれてもいいじゃないかと新形は同志を求める。


「というか、よく先生旧校舎から本校舎のグラウンドまで走りましたね」

「それは、新形さんが脅したんですよ」

「脅した?」

「まさか「先生、一緒に来てくれないなら婚姻届けに勝手にサインして、証人立てて、既婚にしちゃいますよ!」とか言ったわけ?」


 まさかないだろうと綿毛が言えば「似たようなものです」と疲れた表情をして、何を言ったか教えてあげてほしいと新形を見れば、暁とは違い平然とした表情をさせて、


「一緒に来てくれなかったら、今日、全校生徒と保護者の前で結婚式を挙げるって言った」


 はっきりと言えば黙って聞いていた佐藤先生が吹き出した。腹部を痙攣させながら哄笑する。


「黒美ちゃん! シャイかよォ~!!」

「それで、よく動きましたね。先生」

「さすがに嫌だったんでしょうね……」

「……そうだと、思います」


 運動部に優勢がある体育祭。借り物競争。参加人数は五人。去年は、部長と副部長、そして幽霊部員である浅草と吉野で四人。ではあと一人は誰なのか彼は首を傾げて尋ねる。


「欠員は、ボランティア部から引っ張って来るんですよ。他の幽霊部員は他の部活だったり新形さんの圧に負けて腹痛と不参加を表明してきました」

「え、それって許されるんですか?」

「ボランティア部の本懐。人の役に立つこと、一人を借りて、参加する。体育祭では吸血鬼部の事は口外禁止。普通に休憩部は、遊んでる部活って認識で顧問を見つけなかったら、入部も出来ない」

「……。顧問って」


 彼の言葉に、誰もが一人に視線を向ける。一切言葉を発していない谷嵜先生だ。

 すぅすぅと寝ている谷嵜先生。日常的に怖い顔付きをしている谷嵜先生に声を掛けるなんて至難の業だろう。担任であっても近寄りがたいというのに、覚悟をしてまで入部したい生徒もいないだろう。そもそも入部するくらいならば、帰宅部に徹していたら良い。


「だけど! 今年は去年と違う点は! 活動部員がプラス二人いるってことよ!!」


 本題に戻るとばかりに新形は嬉々と発言する。


「第一走者は、綿毛かジョン。第二走者は、綿毛かジョンのどちらか走らなかった方で、第三走者が柳!」

「ういッ!」

「第四走者が俺で、最終走者が新形さんと」

「そう言うこと! 絶対に勝つの! 休憩部は、どこの部活よりも部活動に熱心であり、優秀な生徒が入部していると知らしめる! そして、部費や備品を買ってもらう!」


 一日目二日目は捨てても良い、重要なのは三日目の部活対抗戦。

 運が絡んでくる借り物競争で、どれだけ連続で都合の良いお題を取ることが出来るかだ。


「任せとけェ! なんて言っても今年のお題を考えるのはこのオレ! ギャンブルに関しちゃ右にも左にもださせねえぜ!!」


「この人に任せて平気なのだろうか」と部員全員の考えていることがこの時初めて一致した。


「お前ら、あんま舐めた結果出してみろ。全員揃って幽霊部員、もしくは退部させる」


 寝ていたはずの谷嵜先生が起き上がり鋭い眼光で五人を見て言う。

 凍り付いたその場は、いま遊びではいられない状況であることを思い知らせた。

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