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第25話 Who are me

 テストの準備期間に突入して部活も軒並み活動停止。テスト勉強に精を出す。

 彼も例外なく優秀校である三つの谷高校のテストで良い点を取ろうと躍起になる。

 自称平和主義を貫いているのなら、幽霊部員でも何も問題ないのだが、こうして関わっていくと自分にもできることがあればと浅草の気持ちが理解できてしまうのだ。

 空想持ちとなった今もまた何かを成し遂げられると信じて疑わない。


 その何かの為にも、まずは、勉強が疎かになってはいけないと谷嵜先生は佐藤先生が副顧問として据えられた日からテスト期間が終了するまでは各々学業を優先するように命じられて数日、彼は羽人と共に彼の家で勉強をする約束していた。

 友人を家に招くことが初めてな彼は、部屋が散らかっていないか、室内は熱くないか寒すぎないかと緊張していた。客人をもてなす準備は出来ている。あとは羽人が来るのを待つだけなのだが、落ち着かない。

 客人が退屈しないようにと言っても勉強会なのだから退屈するしないは関係ないはずなのだが、座って待っていることも出来ずに部屋の中をうろうろと彷徨う。

 空気の入れ替えとベランダの戸を開いて風を入れる。


 受験の日も頭が沸騰するほど勉強して、吸魂鬼の事件に巻き込まれている。正直、正当な理由で入学したとは思えない為、今度こそ彼は成績を残したいと意気込むが、高校の勉強はレベルが格段と上がる。

 本来なら部活に入る気がなかった彼にとって吸血鬼部の活動と並行するなんて至難の業で、常に部活動と学業を並行して成り立たせている人たちを尊敬する。


 グルグル回る思考を落ち着かせていると聞き慣れた訪問を知らせるチェイムが鳴る。彼は慌ただしく玄関に駆ける。「はーい!」と返事をして扉を開ける。


「おはよう!! ナナ!!」

「わっ!?」


 聞こえることのない声に彼は驚愕する。視界が赤でいっぱいになる。何事かと混乱する思考を強引に正常化させる。そこには、剣道が嬉々と現れていた。


「け、剣道君!? どうして」


 ひょこっと剣道の後ろから顔をのぞかせる羽人。此処に来るまでに剣道と遭遇したのだと気づく。


「勉強会だって聞いたから俺たちも入れてくれよ」

「う、うん。いいよ…………ん? 俺たち?」


 言葉が少しおかしいと彼は首を傾げて、扉を少し開いた――……。


「わ、綿毛さん!?」


 不服そうな表情をさせた綿毛がいた。ゆったりとしたシャツ、ワイドパンツ、サッチェルバッグを持つ綿毛が新鮮で、一瞬誰かわからなかった。


(女の子って服装で変わっちゃうんだ)


「……剣道に引っ張られてきただけで、私自身は不本意だから」

「だ、だよね」

「ですが、貴男の順位が落ちてしまうと情報を得る手立てがあの癖の強い先輩方しかいないので」


 究極なまでの消去法で新形や暁に話を聞くよりも彼が情報を得て、綿毛に通す方が精神衛生上よろしいと思ったのだろう。


「……。それに、貴男に伝えておかなければならない事が出来たから」


 不服そうな表情から、どこか悲し気に目を伏せた。彼は首を傾げて「とりあえず入ってよ。掃除したけど、まだ汚いけど」と三人を部屋に入れた。

 伝えたいことは、部活の事だろう。その事を剣道と羽人には言えない。知れ渡って友だちを危険に晒すことはできない。



 彼は、リビングに案内して、麦茶を出して勉強会を開始する。

 剣道は英語が無理だと言って羽人に教わっている。綿毛はどの教科も平均点であり、ある程度は教えられると数学を三人に教えている。

 ノートに書かれたテスト範囲を見直すが全く理解できないところを綿毛に訊く。言葉で説明してくれたり式を解いて解説までしてくれた。

 綿毛が作り出した、復習の十問で、羽人は五問、剣道は三問、彼は七問正解する。それだけでは、クラス上位は目指せないだろうと言われてしまい奮闘を繰り返す。


「あ、みんな。お腹空いてない? 僕、軽食買って来るよ」

「わりーよ! 押しかけたのは俺たちだから、俺たちがなんか買って来るって!」


 彼が立ち上がると剣道も一緒に立つ。しかし、「貴男はこちらを頑張りなさい」と綿毛に肩を掴まれて座らせられる。


「私が彼と行く。貴男たちは、先ほど作った問題をもう一度解きなさい」


 綿毛は彼の腕を掴んで「行きますよ」と有無を言わさずに玄関に向かった。

「あ、お茶とか好きに飲んでね!!」と彼は伝えて家を後にする。




 家を出て暫く、五分ほどで到着するのコンビニがすごく遠く感じていた。

 彼のすぐ横を歩く綿毛に、なにを言われるのか気が気ではない。同じ空間で呼吸すら怒られてしまうのではと緊張が走る。


「……貴男は、知らないのよね」

「は、はひっ!?」

「……」

「ご、ごめん……えっと、知らないってなにが?」

「ハウスやそのサブのことを」


 突然声を掛けられておかしな声が出てしまった彼は羞恥で顔を真っ赤にさせる。


「え、えーっと。うん。詳しくは知らない。気を悪くしないでほしいんだけど、僕が吸血鬼部で聞いた話は、ゾーンを自分の庭のように扱ってる人たちで、外の人たちを毛嫌いしてる。身内でも少しでも違反したら、追い出されちゃって、他人のように扱う」

「……。間違っていないのかな」


 彼は言っている意味が分からず、黙り込んだ。


「以前は、ハウスのやっていることは間違いはないと思っていたのだけど、……どうしてか、最近は、そうは思わなくなってきた」


 綿毛は静かに語る。規定を破りゾーンに一人で侵入した。その直後、綿毛は息苦しさに襲われて意識を手放した。その時に通行料が取られていたのだと感じたが、目に見えるものじゃない。何を失ったのか分からない。それから暫くして気づいた。


「私の通行料は、ハウスへの信頼なんでしょうね。でなければ、なぜあれほどに妄信していたのかわからない」


 ハウスのしていることに間違いはない。今までそうやって生きてきた。疑いなく、それでいいのだと思い続けてきたが、ゾーンを通過した後、目を覚まして、ハウスから破門を受けて、家族が路頭に迷った。家族は綿毛を非難したが、綿毛自身は、何も間違っていないと思うようになっていた。なぜ、外部との接触を避けているのか。わからない。協力することもまた吸魂鬼を全滅させる一つのきっかけになる。


「貴男に忠告したとき、私は谷嵜先生には気を付けろと言ったわね」 

「え、うん」

「その時は、確かに谷嵜黒美と言う男はハウスから重要警戒人物として名が挙がっていたの。だから、私は貴男を吸血鬼部から遠ざける為に発言した。何も間違っていないと思っていたから……。だけど、今思えば、通行料を取り戻すために活動している者たちに何を疑うことがあるのか分からない」

「それって……僕たちを信じてくれるってこと?」

「……今更都合の良いことと言われてるのが関の山。貴男には知ってほしい。私の通行料は、別に失って恐れるようなことはない。受け入れてしまえば、それで終えてしまう。あの信頼を取り戻すことはどちらにしても不可能で、突き放されてしまえば、見放されてしまえば、ハウスは再び私を、綿毛家を受け入れたりしないでしょうね」


 吸血鬼部に居られなくなっても別に困らない。家族との仲も劣悪となり、それは仕方ないことだ。なぜなら、決められた規則を破ったのは綿毛自身なのだから、甘んじて受け入れる。

『ハウスへの信頼』という通行料を取られた所為で、どこにもいられない。ふわふわと取り止めもなく彷徨い死ぬ。吸魂鬼に魂を吸われでもして、この世から消えるだろう。きっとその話を暁が聞いたら激怒するだろう。


「あのね。僕にだけ言わなくても良いんだよ」

「……?」

「吸血鬼部のみんな、優しいから、許してくれるし、正式に部員として接してくれるよ。僕も隠君と喧嘩しちゃったけど、今はすごく仲良しだから、一人で抱え込まなくていいんだよ。僕、綿毛さんの味方になりたい。ううん、違う。友だちになりたい」


 吸血鬼部の同期として、友だちになり助け合いたい。


「それに、ハウスへの信頼が通行料なら、綿毛さんの大切なものだったんじゃないかな。ずっと信じていたことを取られちゃうのは、不安になるって僕は思うよ。それを取り返すために一緒に頑張ろう」

「……それは、貴男たちにとって不都合なことでしょう? 吸血鬼部を訝しむ我々の通行料を取り戻すなんてどうかしているとは思わないの」

「組織の話は、僕にはわからないんだ。ただそれが大切だって言うなら、喧嘩している相手でも、その人の大切なものを蔑ろになんてしたくない」


 大切にしてきた思想が、ある日突然無くなるのは、辛い。心にぽっかり穴が開いたような虚無になる。名前が無くなっても困るのに、考えていたことが消えるなんて考えられない。


「取り戻して、やっぱり僕たちが間違っているって言うなら、そう言って? 綿毛さんの考えを僕は知りたい。それまでは、吸血鬼部で過ごしてよ。先生も、先輩たちだって許してくれるはずだよ」


 ね? と彼は笑いかけた。絶望ばかりしていられない。前を向かなければ、取り返せるものも無くなってしまう。


 味方などいないと綿毛は思っていた。しかし、目の前にいる垢抜けない少年は、世間知らずのようにお人好しで、救いようがないと言える。


「そうだ。谷嵜先生が通行料を肩代わりしたって言うの、綿毛さん知ってる?」

「なにを支払ったかはわからないけれど、私を現実に戻す際に何かを引き換えにしたのは、知っています」

「それって何度も出来るものなの?」

「そもそも通行料を肩代わりなんて、本来あり得ないことなのに、どうやったのか知りたいほど」

「まだ知らない事ばかりだね。これから知っていこう!」


 なんて呑気なのだろうと綿毛は、呆れ果てる。危機感などないのは、一般人がこちら側に来たら皆そうなのだろうかと綿毛は、接し方に困る。




 その後、二人はコンビニでお菓子と飲み物、軽食を買い帰宅した。

 帰宅すると剣道と羽人は、頭をパンクさせていた。綿毛はまた一から二人に勉強を教える。その間に彼は四人分の食事を作り勉強会を再開する。

 綿毛の教えもあいまってテスト範囲は一日で半分は覚えられたのではないだろうか。時々、綿毛に怒られる剣道は、逃げるように彼が作った軽食を口にする。



 そして、夜の八時となり、解散となった。


「飯までご馳走になっちまって悪い! すっげーうまかった!」

『ありがとう』

「ご馳走様でした」

「また来てね」


 彼は友だちと夜まで一緒に居られて満足だった。勉強も進み。テストは期待できるのではと学校に行く楽しみが増えた。

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