第24話 Who are me
翌日、部活時間に旧校舎に向かうと佐藤が「待ってたぜ! 期待のルーキー!」とハイテンションで昇降口で待機していた。谷嵜先生と違って佐藤は、生徒を待ってくれるタイプなのか。「部室で待ってな」と伝えて、昇降口で残りの活動部員を待っていた。
部室では、勉強をしている暁が「こんにちは、ジョン君」と顔をあげて挨拶をしてくれる。暁は、谷嵜先生のお陰で高校に通えている為、学力も上位をキープしなければならない。谷嵜先生の期待に応えられないようでは何のために旧校舎に住み着いて、用務員をしているのか分からなくなる。ただの幽霊部員に据えられてしまえば、暁は絶望してまた癇癪を起こすだろう。
誰よりも努力しなければならない立場で、テストも上位を維持は絶対だろう。同学年の生徒たちは全員がライバルであり、敵対する者たちで殺気だっている。
もっとも谷嵜先生が「テスト上位じゃなきゃ面倒を見ない」と言ったわけではないだろう。
兎も角勉強の邪魔してはいけないと彼も今日の授業を復習する。
新形が部室にやって来ると腕が固定されて首から吊るされていた。彼は悲痛な表情をさせる。自分のことではないが、自分の事のように痛みを感じてしまう。
無意識に彼は右腕を擦っていた。
「共感的痛覚。エンパスの気質があるみたいですね」
人の感覚を共感してしまう。怪我をした場面を見ると自分事ではないのに痛く感じてしまう現象に彼は「痛いのは嫌じゃないですか」と表情は歪められたままだ。
「それって痛いだけ?」
「いえ、痛みだけではなく、直感的に相手の思っていること、考えていること、感じていること、身体的なことまで、自分のことのように感じる。一種の超能力的なものですよ」
「なにそれ。じゃあ、私の愛が谷嵜先生に伝わるかもしれないってこと? 最高」
「いえ、そう言うわけじゃなくて……その逆で、先生の思っていることが貴方も思ってしまうという感じです」
「じゃあ、谷嵜先生がエンパスとかになれば、私の愛を常に感じられるってこと? 最高じゃん」
どちらにしても最高だと新形は都合の良い方向にもっていく。いま、彼が新形の腕をみて痛がっているのがわからないのだろうか。
「みょーん」
新形の妄想に付き合わされていると可笑しな挨拶と共に現れたのは浅草だった。右手をひょいと上げて「朝礼」と昼過ぎているのに、朝の挨拶をする浅草に三人も挨拶を返す。浅草の言葉を何となくだが理解してきたため、戸惑うことも減ってきた。
「先生は?」
「見ての通りまだ来ていません。昇降口に佐藤先生がいましたけどね」
「ああ、あの人ね」
「……? 新形さんは、佐藤さんのことが嫌いなんですか?」
新形がどこか不服そうに唇を尖がらせている。左手で椅子を引いて座る仕草までも大雑把と言うか、大袈裟に不機嫌さを醸し出している。
「嫌いっていうか。苦手なのよ」
「苦手」
「だって! アイツ! 私に対してマウント取って来るんだよ!」
「マウント」
オウム返しを繰り返す彼に「簡潔に言えば、谷嵜先生の旧友なので気に入らないんですよ」と暁に教えてもらう。
「佐藤先生と谷嵜先生はかつての同級生で、今もなお、見ての通り交流があります。即ち谷嵜先生愛を公言している新形さんにとっては宿敵となります」
「それだけなら、そうなんだって相手にしないよ! でもアイツ、私に向かってわざわざ「お前くらいの頃、黒美はなァ!」って私の知らない谷嵜先生の過去を暴露してくるの!! なんなのアイツ! 処刑! 死刑! 公開処刑!!」
「わぉ」
「ぶ、物騒の域超えて殺伐としてますね」
さすがの浅草も震えたふりをして彼の背後に隠れる。
怒りに身を任せて殺人者一歩手前の発言をする新形を止められるものなど、この場にはいない。谷嵜先生の愛は、老若男女問わず問答無用なのだろう。
どうして新形が部長なのか未だに分からない。これならば、癇癪さえ起こさなければ落ち着きのある暁でもよかったのではないだろうか。綿毛の件でも、本人に当たることなく平然と次の日を過ごせている。
「オイオイ。いつから吸血鬼部は処刑場になったんだよ! 黒美ちゃんようっ!!」
「知らねえよ」
面倒くさそうに髪を掻く谷嵜先生と複雑な表情をさせて顔面蒼白の佐藤がいた。
「谷嵜先生! おはようございます! 今日も変わらずかっこよくて、同じ空間で生きてることが嬉しい限りです! 先生が生きてるだけで、私も生きられます」
「そう。それはよかったね」
あっさりそれだけを言って自身がいつも使っているソファに向かった。
それから綿毛が教室の掃除当番で遅れてやって来た。全員が揃ったのを確認して谷嵜先生は口を開いた。
「昨日の調査は、ご苦労様。連日吸魂鬼の遭遇は俺としても本意じゃない。お前らを危険な目に遭わせていることに申し訳ないと思ってる。すまなかった」
「平気ですよ。寧ろこれで済んでよかったと教訓にします」
「特訓練!」
「怖かったです。すごく……でも、取り戻せるってわかって安心してます」
三者三様の言葉が谷嵜先生に向けられる。
吸魂鬼を相手にして生きて戻ってきた三度の奇跡。綿毛に関しては今回が初である上に、新形と浅草の活躍のお陰で危機的状況と認識できていない。
「新入りガイズは兎も角、二年以上はもう連中とやり合ってんだろォ?」
「NotBattle」
「ありゃ、ちげーの?」
「確かに浅草さんを含めて上級生は、多く調査してきましたが今期に入って、遭遇の頻度が格段に上がりました」
佐藤の疑問に暁が答える。
去年までの遭遇率は二か月に一度、一年で六回ほどで、それよりも少ない。だが今期に入って調査する度に遭遇している。確実に吸魂鬼の間でなにか変化があった。
「そう。だからお前を呼んだ」
「悲しいねェ。飲みの誘いじゃなくて殺伐としたお誘ってワケよ」
「……。谷嵜先生、からの……お誘い……! 先生! 私とデートしましょう!」
「しない。佐藤は今後、吸血鬼部の副顧問をする。カモノ校長にも確認済みだ」
「それって、谷嵜先生と同じようにですか?」
「ああ。そう捉えてもらって構わない」
「つーワケで! 部長スゥン! オレ、一応目上の人よ? 敬意示してちょ?」
「……絶対にイヤ」
「つれないねェ~」
ツンツンっと新形の頬を突く佐藤を一瞥する。
きっと佐藤は教師としてではなく本当に副顧問として学校を往来することだろう。一切関わらずに三年過ごす教師もいる為、本校舎ですれ違って知らなければ生徒たちに声をかけられることもない。
「副顧問って、必要なんですか? 問題なかったように思うんですが……」
暁が尋ねる。部室に来てから「佐藤先生」と呼んでいたが副顧問であることは容認しきれていなかった。少なくとも三年は谷嵜先生だけで吸血鬼部は活動できていた。今になって新たに顧問を据えるのは、批判の声があるのは当然だ。不確定要素が増えては、事が収束するのに時間がかかる。
その疑問を答えたのは、佐藤だった。
「黒美ちゃんだけじゃあ、五人の空想を鍛えるのは厳しいだろォ? だから、オレがいるってワケよ!」
発現したばかりの彼や、まだ発現すらしていない綿毛。空想は使えるが、もっと何かに使えないかと考える三人。
特訓らしいことはできないだろう。けれど、掌握する術は身に付くはずだと佐藤は嬉々という。
「それに吸魂鬼が関わって来ると必然的にハウスの連中も黙ってないだろう。ゾーン内で好き放題している俺たちに良い顔をしないように、これからも何かと衝突する機会がある。今回も綿毛の件でいい顔はされなかったからな」
「あんま目立って顧問の存在を知られるのは得策じゃねえだろォ? もしも知られて不在続きだったらオマエらの目的が破綻しちまう。そこでオレの出番ってワケよ!」
両手の親指を自身の胸に突き付けて胸を張る。
「つまり囮」
「ノーット!! デコイ!!」
ぼそりと新形が呟くとオーバーリアクションで否定される。
「もしも他の組織と衝突するようなことがあり、俺が他のくだらない件で対処できないようなことがあれば、問題だ」
「そうですね。こちらが活動できなければ、通行料を取り戻す術が遠退いてしまう」
(なんだか、大ごとになってる気がする)
ただの部活動だと思っていたわけではない。人知れず活動する部活動。吸血鬼部。目的は通行料を取り戻すことだ。それを阻止しようとする人たちもまた人知れず暗躍している。
「喧嘩だけは、したくないですね」
だから、彼はせめて平和主義であろうと言葉を口にした。
「隠君は佐藤先生のこと知ってたんですよね? それに、新形さんも」
佐藤が仮であれ教師になっていることは理解したが、今まではどうだったのかと彼は気になり口にする。
「佐藤先生は、度々臨時教諭として来てくれていましたよ。それが今回、正式に副顧問として据えられる感じですね」
近々中間試験ですからね。その準備で谷嵜先生はテスト課題作成で忙しくなります。と暁は説明してくれるがテスト期間ならば、部活動は休みなのではないだろうかと彼は不思議に思う。
「どこかのおバカちゃんがゾーン内に入って、取り返しのつかないことになりたくないだろォ?」
「つまり監視ってわけね」
佐藤の言葉に綿毛が言うと「んな堅苦しいもんじゃねえよ!?」と両手を振った。
「前例がいくつもある状態では先生へ信頼は得られない。大人らしい行動を心掛けることが一番の近道です。部長ではないですが、谷嵜先生の迷惑にならないように過ごすことですね」
「そうだよ。谷嵜先生は忙しんだから、迷惑なんてかけたら私がギタギタにしてあげる。それに君らテストだけじゃないんだよ。学生の本分は」
テストを終えれば、その一か月後には体育祭があることを告げられる。三つの谷高校も普通の学校同様に行事イベントがあるのは当然の事だが、行事が近づくと実感が湧いてくる。
彼は三つの谷高校の体育祭はいったい何をするのか今から楽しみで興奮を隠しきれないでいた。そんなわくわくを打ち砕くように暁が言う。
「ああ、ちなみに吸血鬼部はテストや行事などで学年順位が上位でなければゾーンの調査にも空想使用も禁止されて、問答無用で幽霊部員にされるのでお気を付けて」
「え」
「は」
「うぃ~」
こうして、彼らの猛勉強の日々が開始されたのである。




