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第136話Who are me

 暁家の男兄弟。暁現、暁学、暁隠。 

 優秀な結界術の家系であり、ハウスの吸魂鬼狩りとしても名を馳せていた。

 まだ空想を発現もしていなければ、ゾーンに触れてもいない暁が嫉妬するほど優れた二人。


 結界を暴力に使う現と、結界を創造に使う学。

 規則を重んじて、大胆で慎重。


 つい数時間前まで自分たちが弟の通行料であることを知った。そして、その間、暁家というハウスの一家が消失していたことも気づいている。両親は実家にいるだろう。通行料が返却される前例がない今、自分たちが生きているのか死んでいるかもわかっていないが重要なのは、民間人が危険に晒されていることだ。他のハウスの者たちは何をしているのか。三つの谷には吸魂鬼狩りの気配がほとんどない。

 全員殺されてしまったのか、それとも逃げ去ったのか。


 どちらにしても、野良の吸魂鬼狩りが孤軍奮闘している姿を視れば、どれだけプライド高いハウスだとしても、協力は惜しまない。


 三つの谷の中央に到着すると禍々しい闇と神々しく輝きを放つ光が見えた。


「あ? どっちだ?」


 結界で跳んできた現は、どちらが吸魂鬼なのか分からなかった。闇を空想する吸魂鬼狩りもいないわけではないからだ。後から追いかけてきた学が「現兄さん」と呼ぶ。


「味方は、白い方です。あそこを見てください」


 結界の上に立つ学が指さすのは、意識を失って倒れている暁の姿だった。

 成長した姿に「泣けてくるな」と冗談を口にした。


「弟よ。二番目の弟を任せたぜ。俺は、あの……あー、白いの援護でもするぜ」

「任されました」


 現はそう言って白いの――五十澤と天理へと向かった。

 もう決着はついている。互いに力が暴走して、制御を失っているのだ。


「さて、僕は隠君を回収しましょうかね」


 暁に近づくために学は結界で道を作る。地上に下りて暁に近づく。まだ息はある死んではいないようで安心しているとすぐ傍で黒い影が動いた。


「おや、貴方は……。ふふっまだ生きていたんですね。まあ他の方々も生きてはいるようですからね。貴方も生きていて不思議なことはない」

「……どうして此処にいる。お前らは」


 谷嵜先生は、暁を地上に連れて行った後に天理に蹂躙されていた。暫く意識を失っていたが、五十澤と天理の気配で意識を取り戻した。

 その結果、目の前にいるのが、本来いるはずのない。暁の二人の兄。


「ええ、通行料にされていました。けれど、誰かが僕たちを解放してくれたようですよ。嘆きの川で誰かが、吸魂鬼やゾーンに奪取されてしまった物や者たちを解放してくれました。なにをしたんですか?」

「俺は何もしていないよ」

「でしょうね。貴方は、用意しただけで実行したのは他の誰かです。今、向こうで隠君と同年代ほどの少年が吸魂鬼と戦っているようですが、あれはなんですか? あれも、貴方が用意した駒ですか?」

「俺の生徒だ」


 谷嵜先生が起き上がる。天理に瀕死状態まで追い詰められたが何とか生き延びる事が出来たようだ。吸血鬼だということを知っていても、谷嵜先生を完全には殺さなかったのは、生徒たちを蹂躙した後に確実に殺すつもりだったのだろうと容易に想像できる。


「現兄さんが相手にしていますから、すぐに終わると思いますよ」

「……無駄だ。アイツは天理。吸魂鬼の始祖だ」

「始祖。なるほど、ならばなおの事、我々が貰わなければならない個体と言うことですね」


 暁が生きていると分かれば、学は谷嵜先生を診る。怪我は酷いが命を奪うほどの傷はない。吸血鬼ならば、時間経過で治る程度のものだ。

 もっとも谷嵜先生は暁以上に虐げられていただろう。いま起き上がれるのも吸血鬼としての治癒能力のお陰だ。


 始祖を捕えたとなれば、暁家の名は永久に残り続けるだろう。しかし谷嵜先生は「無理な話だな」と否定した。


「どう言う意味ですか」

「始祖が死ねば、ゾーンは消滅する。吸魂鬼が生きる空間に吸魂鬼がいなければ、お前たちの思っているようにはいかないよ」


 ゾーンの支配。それがハウスの目論見だった。他のハウスが暗躍していたことだろう。生憎と現在に至るまで思うように出来ていない。吸魂鬼を完全に消し去ったとしてもゾーンが残り続けることはない。仮面の吸魂鬼がゾーンを維持し続けていた。そして、仮面の吸魂鬼がほとんど消え、始祖である天理の物へとなったことで、ゾーンの支配権は完全に天理に移行しただろう。天理が消えれば、ゾーンも消えて、通行料も人々に返還される。


「……なるほど、そこまでもうわかっているんですか。まったく上にどう報告するべきでしょうね」


 学は谷嵜先生と眠っている暁に結界を張る。完全なる結界。暁が張るものよりも強固で揺るぎないものが張られる。


「いま、天理と戦ってる奴は、暁の後輩で、友人だ。護ってやってくれ」

「まさか、貴方の口からそのような言葉が聞けるとは思いませんでしたが、隠君の友人ならば、蔑ろにできませんね」


 谷嵜先生の頼みだからではなく、弟の初めての友人が死んでしまうのは忍びないと学は立ち上がり結界を創造する。


「なにやら頑張ってくれていたようですからね。隠君は」


 聞こえてないし、見えていない。けれど、確かに感じていた。忘れないでいてくれたことを現も学も気づいている。大切な家族だと思い続けてくれた。可愛い弟を目いっぱい甘やかしても罰は当たらない。


「現兄さん、手伝います」


 現は五十澤を担いで結界で攻防戦を繰り返す。現の性格上、誰かを護りながらなんて性に合わないだろう。学は自身に結界を張り現に近づいた。


「隠は平気なのか?」

「ええ、生きています」


 暁の安否を確かめてすぐに現は余裕な表情をさらに濃くした。

 学に五十澤を預ける最中、学はさらに言葉を続けた。


「僕たちは、貴方の弟ですよ? 簡単に死ぬわけないじゃないですか」


 現の空想に負けない程の空想を生み出す。現と言う頂点を目指す。重責すら感じない威風堂々とした立ち振る舞いは、長兄に相応しい。

 そして、今まで通行料として封じられていた為か、その力は衰えることなく諸悪に向かう。


「狂瀾怒濤! 天地神明!」


 意気揚々と拳を地面に突き立てると地面は隆起する。白い結界の柱が立ち天理を打ち上げた。


「っ……ハウス風情が、調子に乗る!」

「へっ! 矮小の相手をしていたんだろ。俺が相手なら、実力差は互角だろうが! 退屈させるんじゃねえよ」


 傲岸不遜な態度は通行料にされた後も変わらない。寧ろ時間を停止させて未来に跳んできたようなものだ。はた迷惑な男に天理は辟易する。


「何のために、貴様らを封じたと思っている」

「おっと、意図的だったか? それは悪いことしたか? けど、お前が俺たちを通行料にしなくとも俺の弟どもが家族を通行料にしていたぜ」


 暁を選ばなくとも、誰かが通行料として暁家を潰していたはずだと言うが天理はその言葉を真に受けない。なぜならば、現も学もゾーンに触れている。意図してゾーンに入り、通行料を奪われているが、それは暁家ではない。二人は薄情にも暁家を唯一だとは考えていなかったことになる。


 学は、現の背後で五十澤に結界を張り、物陰に横たえる。

 その話を聞いていた学は滑稽だと冷笑する。


「わかっていませんね。奪われると分かっているのに、馬鹿正直に差し出す者がどこにいますか?」

「そう。俺たちゃあ訓練を積んでんだ。通行料対策って奴だな」


 ゾーンに入る前に、長くて五年、短くて半年の間に気持ちを一度リセットする。そして、家からも手酷い圧力を受けるのだ。家族を家族としては扱われず存在しないものとする。そして、家族への絆を無かったことにして、心の拠り所を見つける。


「勘違いしているようですね。僕たちが外部と接触しないのは、外部を巻き込まない為ですよ。外部を巻き込まず、なおかつゾーンを掌握する事で被害を最小限にする。勘違いされ続ければ、誰も近づいてこない。野良の吸魂鬼狩りが現れてしまったのは我々にとっても予想外でしたが、仕方ないことです。規則を破れば回収する。規則を重視していれば、被害も減り駒とする。ハウスはそうしてこの世の秩序を守っている」


 だからこそ、暁は勘違いした。その冷たさを感じた。合理的で残酷的。けれど、仕方ないと誰もが口にするのだ。知っているものは、口を閉ざして、知らないものは、聞くことが出来ない。


 それがハウスとサブハウスの在り方である。ゾーンを知る者たちが隠し通す秘密。

 多くを護るために、多くを拒絶する。

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