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第110話 Who are me

 蛇ヶ原と暁が体育館に到着すると、そこではボールの頭部を持つ吸魂鬼やスコアボードの頭部を持つ吸魂鬼がいた。数は、三人。ボールの吸魂鬼が一体、スコアボードの吸魂鬼が二体だ。

 半信半疑だった暁は確かに現実にいることに異常性が強すぎる事に気づいた。


「あら、そっちから来てくれるなんて嬉しいわ」

「ッ!?」


 体育館の入り口で突っ立いていた二人のすぐ傍のベンチで場違いな服装をした吸魂鬼がいた。

 黄色い仮面に星のマーク。蛇ヶ原の脳裏にその情景が蘇る。


『はじめまして、可愛らしい僕ちゃん』

『あなたの欲しいものはナァニ?』

『僕ちゃん、見つけた』


 体育館には余りにも似合わないピエロの衣装。仮面がこちらを見ている。その手からは、赤いスポンジボールを出しては消してを繰り返す。


「久しぶりね、僕ちゃん。あの時は、邪魔が入っちゃって楽しめなかったのが心残りだったの。会えて本当にうれしいわ~」

「っ……」

「でも、もうあの吸魂鬼狩りはいない。あたしたちだけ」

「此処に一人いるって気づいていないんですか? その目の穴をもっと広げて差し上げますよ」


 仮面の吸魂鬼デジルは、蛇ヶ原にしか興味がないと声を投げかけているのを暁は心外だと割り込み言う。デジルは完璧に蛇ヶ原の魂を狙っているが、そんな事はさせないと暁は、吸魂鬼がいるのならば、こちらも空想が使えるはずだと結界を生み出そうと試みる。暁の予想通り結界が生まれて、結界を広げデジルから自分たちを護る。


「この世とあの世でも繋げようと言うんですか」

「嘆きの川」

「……!」

「うちのお仲間が、見つけてくれたみたいなの。随分と過ごしやすくなったみたいよ」


 吸魂鬼側も嘆きの川は認知済み。寧ろ吸血鬼部が遅いのだろう。


「その様ですね。でも、土俵はどちらも同じであることを忘れていませんか」

「ふふっ。それもそうね。なぁら、あなたの欲しいものは、ナァニ? なんでも与えてあげるわ。その代わり、あなたの魂を頂くわ!」


 戦闘態勢を取っていると「待ちなさい、ツボミたち」と静止の声が聞こえた。声のする方を見ると宮城先生が現れた。その手には、斧が握られているが、バスケ部は気づいてない様子で「宮城先生、おつかれっす!」と軽い挨拶をしている。


「宮城先生ッ!?」

「なんやそのごっついの」

「コレ? 私の空想よ?」


 平然と言うため、呆気にとられるが宮城先生が空想を使えるなんて聞いていない。この三年、三つの谷高校に在校していたがそんな気配を出していなかっただろうと責め立てたい気持ちにかられる。

 寧ろ教師は全員吸魂鬼狩りだったりするのだろうかと疑い始めてしまう。

 宮城先生は生徒二人の前に出てデジルに斧を向ける。


「ツボミたちは、校長室に向かいなさい。この異常事態には校長も気づいているわ」

「で、でも」

「これでも、吸魂鬼狩りの一人よ。もし、なにか手伝いをしたいって言うなら、応援してくれたらいいのよ! そして、咲き誇りなさい!」


 そう言って「とっとと行くの!」と渇を入れられて二人は校長室に向かうしかなくなった。後ろ髪を引かれる思いのまま足が方向転換する。



 体育館から離れて、二人は足並み揃えて廊下を駆ける。


「この俺が、校則違反なんて……」

「んなこと言うとる場合ちゃうやろ!?」


 まだ言っているのかと蛇ヶ原は呆れる。

 校長室へと足を向ける。暁を知る生徒は、珍しく走っていることに驚きの表情を見せているがそんな事を気に留める余裕も二人には残っていない。


 校長室前に来て、上下で呼吸をする暁。日頃用務員の仕事をしているはずなのに体力が付かないのはどう言うことなのか疑問が尽きない。ノックをすると「入ッテオイデ」とカモノ校長の声で侵入を許される。校長室に入れば、そこには浅草、綿毛、大楽、そして吉野が揃っていた。


「ミンナ揃ッタネ。事情ハ把握シテイルト思ッテ話ヲ進メルヨ」


 カモノ校長が深刻そうな声色で言う。


「現実世界ガ、ゾーンニ近ヅイテル」

「校長、ゾーンがこちらに侵入しているのではなくですか?」


 暁が挙手をして尋ねるとカモノ校長は首を横に振って否定する。


「嘆キノ川ハ知ッテイルネ? 今、多クノ吸魂鬼、ソシテ吸魂鬼狩リガ血眼ニナッテ探シテイル特殊ナ川。ソレハ現実世界ニアルト言ワレテイルンダヨ。今マデ嘆きノ川ハ認知スラサレテイナカッタノニ、今ニナッテ気ヅキ探シ出ソウトシテイル。ソレニ呼応シテ、嘆キノ川モコチラ側ニ現レヨウトシテイル。ソノ影響デ、ゾーンヘトコチラ側カラ近ヅイテイル」

「ゾーンに関わりのある方たちは、世間の異変に気付いています。だけど、他の関わりのない方たちは、吸魂鬼はおろか異変にも気づいていません」

「ウン、ソレハネ。僕タチ被害者ガ、ゾーンニ触レ過ギテシマッタンダヨ」

「触れ過ぎて、確かにゾーンの調査や吸魂鬼狩りとして私たちは活動していますが、吉野先輩は幽霊部員として活動に参加していませんでしたよ?」


 綿毛が疑問を口にする。

 活動部員や吸魂鬼狩りならば、ゾーンに触れ過ぎて空気に当てられるのはよくある話だが、吉野はゾーンに入ったのは一度きりで後は争いごとを極限まで回避して普通の生活を送っている。それなのに、変化に気づけたのはどう言うことなのか疑問が浮上する。


「一度デモ触レテシマエバ、手遅レダト考エルベキダネ。君タチハ一様ニ支払ッテイルヨネ? ゾーンニ触レル為ノ通行料ヲ」


 通行料を支払った者たちがその違和感に気づける。

 支払っていない者たちは、変わらない現実世界で暮らしている。意図せずゾーン内と言うことだ。


「蛇ヶ原君が、体育館で吸魂鬼を遭遇したとの報告を受けて行きました。実際三体の吸魂鬼と仮面の吸魂鬼一体を確認しました。仮面の吸魂鬼は俺たちに会いに来たような物言いをしていました」


 宮城先生が足止めしてくれていることを告げると「君タチヲ探シテキテホシイト頼ンダンダヨ」とカモノ校長は言う。無事に伝言を伝えてくれていたようで安心しているが、暁たちは、宮城先生が無事かどうかが分かっていない為、不安が募るばかりだ。


「宮城君ハ無事ダヨ。アレデモ基本的ナ個体ハ一人デ五体ヲ退ク力ハアル」

「プロじゃ~ん」


 大楽が声を上げる。

 一度に五体かどうかはわからないが、連続で倒したとなるなら相当の手練れである。生徒で吸魂鬼と立ち向かうよりも手慣れた人が相手した方が時間を稼ぐには十分だ。


「体育館ノ件ハ、宮城君ニ任セテ、君タチニハ、シテモライタイコトガアルンダヨ。表ニ佐藤君ガ車ヲ用意シテルカラ、ソレニ乗ッテ中央部ニ行ッテ嘆キノ川ノ出現ヲ阻止シテホシインダヨ」

「阻止。それはどうしたら」

「今現在、谷嵜君ト新形君。ソシテ、ジョン君ガ単独行動ヲシテ嘆キノ川ヲ出現サセヨウトシテイルンダヨ。二組ヲソレゾレ止メテ欲シインダヨネ」

「出現したら何がアカンのや?」

「ボクノ予想ダケド。嘆キノ川ガ完全ニ出現シテシマッタラ、現実世界ハ、ゾーント融合シテシマウカモシレナイ。モチロン、コレハボクノ憶測ダカラ出現シテモ大事ニハナラナイカモシレナイケド、秩序ハ崩壊シテシマウ気ガスル」


 前例がない分、憶測でしか物事は進まない。

 二組を止める方法はあるのだろうか。互いにどこにいるかわかっていない。もっとも谷嵜先生たちの居場所は佐藤先生が知っているだろう。


「なら、私が部長を止めます」

「おぉ、ういうい!」


 綿毛と浅草が谷嵜先生と新形を止める為に出るという。


「自分、ナナさんを止めるわ」

「俺も行く~。見てるだけで良さそうだし、働かなくて済みそうだし~」


 蛇ヶ原と大楽が彼を止めると言う。大楽に関しては平和主義の彼を選べば下手な戦いもなく、平穏無事で終わるだろうと考えていた。もっとも大楽は覚えていないのか、彼は今吸魂鬼と共にいる。もしも吸魂鬼が彼を引き渡すことをしなければ、強引な手を使うのだが、誰も何も言わずに流した。


 幽霊部員の吉野は、万が一を考えて事を終えるまでカモノ校長と共に待機。

 暁、浅草、綿毛の吸血鬼部の三人が谷嵜先生と新形を止める。蛇ヶ原、大楽、そして人数合わせで佐藤先生が彼を止めることに決まった。


 嘆きの川は、名称からして危険だ。それを現実に出現させてしまうことが、どれだけ世間を揺るがせるものなのかは考えるまでもないのだろう。誰が見つけて、誰が名付けて、誰が決めたのか。

 カモノ校長なりに考察を繰り返した、肯定否定を繰り返して導き出した。

 現に嘆きの川を見つけて、関わろうとしている者たちが増えた所為か現実世界とゾーンの均衡が崩れている。


「Hey! ガイズ! 待ってたぜ」


 正門前で佐藤先生が待っていた。話し合いの内容を暁が佐藤先生に告げて了解する。


「ジョン君の場所はわかっているんですか?」

「いいや? けどよ、谷嵜んとこ行くんなら、結果会えるんじゃねえの?」


 谷嵜先生と新形、そして彼の二組の目的は同じ。つまり、嘆きの川の位置も特定し終えているはずだ。ならば、谷嵜先生が佐藤先生に告げている位置に向かえば都合よく出会えるのではと思い至る。


 全員が佐藤先生が運転するワゴン車に乗り込んで谷嵜先生のもとへ向かう。


「宮城先生、大丈夫やろうか」


 車に乗り込んだはいいものの、蛇ヶ原にとって体育館にいた吸魂鬼は因縁の相手である。通行料を奪っていった。自分の母親を通行料として持って行った。因縁の相手、デジルが蛇ヶ原を襲いの来たのか、それともたまたまなのかは分からないが、危険である事に間違いはない。過去のトラウマが浮上する。夏の恐怖を身体が確かに覚えている。


「宮城先生は、俺よりも古参だぜ? ノープロブレム!」

「問題なのは、仮面の吸魂鬼だってことだよね~」

「というか、三つの谷に吸魂鬼狩り集まり過ぎじゃないかしら」

「三つの谷の由来って知ってるかァ?」


 佐藤先生が出してきた問いに暁が「確か」と頭の中で思い出しながら答える。


「かつては、大きな谷によって町が三分割されていた。そして、土地の地盤安定の為に、大量の土を集めて、固めたとか。その際に土地は一つになって別れていた痕跡は残されていない。けれど、その名残として土地の名が三つの谷と呼ばれている」

「Excellent! さすが、成績優秀な副部長君じゃねえの!」


 ちゃんと高校周囲を勉強していると褒めるが、「自分の行動範囲くらい知らないでどうするんですか」というが、黙って聞いていた四人は「別に知らないけど……」と三者三様で心の内で呟いた。


「……でだ。嘆きの川ってのが、その三つの谷の中心、三つの街を繋いだエリアにあるわけよ」

「は?」

「そんな近くにあるんか」

「わー、灯台下暗し~」


 今になって突然、嘆きの川のことを知らされて、吸魂鬼が溢れている。


「急激に増えたのも、嘆きの川の影響だったわけですか。去年や一昨年はほぼ出現していなかったと言ってもいい。俺と新形さんだけで事足りていましたし、浅草さんが活動部員になる事もなかったんです」


 吸魂鬼の急増の要因が、浮上し続ける嘆きの川が原因であるのなら納得もいく。


「陰謀論とか考えたくないけどさ~。それってナナの所為だったりないのー」

「ジョン君は平和主義者ですよ。争いをするために俺たちの前に出て来るわけないでしょう」

「それに、羽人がいなくなって一番ショックを受けていたのもナナでしょう」


 彼の事は誰もが知っている。喧嘩なんてしない。争いごとも嫌う平和主義者。

 そんな彼が吸魂鬼と均衡を崩すなんてことは決してしないだろう。

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