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第107話 Who are me

 吸血鬼部にて。


「なにか知っているんですよね」


 吸血鬼部から、三人が消えて、一週間が経過した。

 

 吸血鬼部では、暁が常に不機嫌だった。もっとも暁が上機嫌の方が珍しい。

 綿毛も彼から何も聞かされていない為、複雑な表情をしていた。


 問い詰めたのは、佐藤先生だった。グラータの攻撃からも解放されて、身体の麻痺から抜け出した佐藤先生に暁は詰め寄った。何も知らないと言わずに口ごもる為、何かは知っている。その何かを知りたいのだと暁は佐藤先生を睨みつける。本来ならば、優れた人に楯突こうなどしない暁だが、友人が消えた。部長が消えた。その所為で正常な判断が付かない。

 もしも彼だけならば、この環境を嫌い逃げ出した。立ち去ったのかと考えるが、新形までも失踪してしまうことが異常と考えた。谷嵜先生がいないからこそ、新形が追いかけたと考えても良い。


「教えてください」

「言ってもどうにもならねえよォ」

「佐藤先生、わたくしたちも問題を大事にしたくはありません。どうか、真実を教えてくださいませんか」

「っ!? 浅草さん」


 今まで適当な言葉で話をしていた浅草が静かな声で言った。その様子に暁は驚く。


「部長殿へ、状況を報告しても一切応答がないのは不自然です。いったい私たちの知らない所で何が起ころうとしているのでしょうか」

「……」

「答えないと仰るのでしたら、この手は使いたくありませんでしたが、佐藤先生が経営しているお店へと使いの者を向かわせていただきます」

「は? 使い?」


 どう言う事なのか、三人はわからず首を傾げると暁はハッと我に返りスマホを取り出した。


『浅草柳 水泳』と検索してヒットする数十万件の検索結果。その中にある比較的新しい記事に浅草のプロフィールが記載されていた。


『浅草柳 16歳。父親は、浅草製薬会社社長』と長々と説明文が書かれている。当時のニュースのため、信頼性は浅いがもしそれが本当ならば、浅草は金持ちの令嬢と言うことになる。


「浅草さん、佐藤先生を社会的に潰すつもりですか?」

「部長殿、ジョン殿、谷嵜先生と天秤にかけるまでもありません。今まで苦楽を共にしてきたというのに、言伝一つないなんて裏切られたと考えてもおかしくはありません。ですが、部長殿のことです。きっとなにか深いお考えがあるのでしょうと私は信じております。その事を訊きたいのです。知らなくていいと言われても、吸血鬼部の依頼で人が一人お亡くなりになっています。その件で私たちに失望なされたのなら、しかたないと受け入れましょう。けれど、そうでないのでしたら、釈明していただきたいのです。どうして何も言わずに去ってしまったのか」

「柳先輩がそんなに話すの初めて見た」


 唖然とする綿毛が呟いた。佐藤先生は、自分の人生を棒に振ってまで谷嵜先生たちの動向を隠すことが出来るのかと試している。


「知ってもどうしようもねえんだって、お前らじゃあ無理だった。諦めろよォ」

「無理だった。それはどう言う意味ですか? 谷嵜先生は俺たちで何をしようとしていたんですか」


 佐藤先生は深いため息を吐いた。

 どれだけ言っても子どもって言うのは探求心に捕われるものだ。そして、佐藤先生もこの件に関しては、許容できない部分は多く。自分では止められないとあきらめていた。もしも目の前の若者たちが止められるのなら、協力してやるのもやぶさかではないと口を開いた。


「谷嵜は、部長を使って、嘆きの川を見つけ出そうしてんだよ。んでもって、嘆きの川に奪われた通行料があると考えてんだ」

「……嘆きの川」

「一度しくじれば、戻ってこられねえ。だが、それによってその先を知る事が出来る」

「まるでおとぎ話のようですね。新形さんならその川を見つける事が出来ると?」

「部長が、吸血鬼になりゃあな」

「は?」


 三人は驚愕する。吸血鬼になれば、嘆きの川を見つけられる。


「それ……待ってください、新形さんが、吸血鬼ってどう言う。あの人は」

「まだ人間だ。まだ……けど、谷嵜の準備ができ次第、吸血鬼として生まれ変わる。今までは準備期間だったんだけどなァ。ジョンが増えたり、綿毛が増えたりで、吸血鬼になる候補は増えていた。だが、新形の準備が出来ちまったからこの部活はもう必要なくなった」

「私たちは、ただ吸血鬼になる候補として選ばれただけ?」

「いいや。ちゃんと迷い子を捜す事も谷嵜の役目の一つだ。あいつはもう犠牲者を出さない為に調査はしてた。それに関しては嘘偽りねえよ。ただ何も言わなかったそれだけだ」


 吸血鬼に成り得る存在を集めては、活動部員にしていた。そんな事は一度も言わなかった。ただ吸魂鬼に一矢報いるだけの組織だとばかり思っていた。何かの勘違いだ。


「新形さんにとっての準備と言うのは?」

「心の準備だよ。一歩前に出られなかったみたいだけど、なにかあったんだろうなァ。先日の事件でだいぶ、部長も憔悴してたみたいだし」


 新形は焦っていた。疲れて焦って、追いつこうとしたがダメだった。


「お前ら、どうして部長が、あの空想なのか知らねえだろォ?」

「……色んな生き物になりたいからじゃないんですか」


 小動物になり谷嵜先生に可愛がって欲しいとかそう言った欲望なのではと言えば「騙されてんだよ」と佐藤先生は呟いた。


「部長は、吸血鬼になろうといた。空想を使って吸血鬼になる予行練習だ」

「そんな、そんな事一度も!」

「言えると思うか? ハウス出身のお前に」

「ッ……」

「それに、誰も部長の話を真面目に聞こうとしたことなかっただろ」

「なにを……」

「あいつの通行料を訊いたことねえだろ。自分のことで手一杯な奴らの代わりにアイツは、吸血鬼になって嘆きの川で、お前らの通行料を取り戻すなんて口が裂けても言えるわけねえよ。だから、殉教を選んだ」


 暁は言葉を失った。通行料を取り戻す術を既に掌握していた。そして、その準備をし続けていた。自分たちがただ手を拱いてただ徒に時間を使っている間に既に終えていた。


「彼は……ジョン君は?」

「それは知らねえな。何も聞かされてねえよ」


 彼の居場所が分からないゲートを開くことが出来ないのだから、ゾーン内にはいないだろう。では、何処にいるのか。谷嵜先生たちについて行ったのだろうか。だとしたら佐藤先生に話が来るだろう。


「……たぶんさぁ~。ナナ、吸魂鬼と行ったんじゃない?」


 突如として聞こえた声、部室の扉を見るとそこには、大楽がいた。

 ギターを抱えながらいつもの様に抑揚のない声色で言う。


「バニティとか言う吸魂鬼と話してたし、たぶん。そう言うことなんじゃない? 嘆きの川の話もしてたし~」

「モグラの貴方がどうして此処に? パペッティアを死んだ事を咎めにでも来たんですか?」

「えー、その逆だよ~。感謝しに来たんだよね~」

「感謝?」

「うん、だってあいつ煩かったし。事あるごとに縛って来るしでうざかったんだ。ありがとー、殺してくれて」

「狂ってる」


 死んだ事を喜ぶなんてどうかしていると綿毛は不愉快だと表情を歪めると「厳しいなぁ~最中はぁ~」と馴れ馴れしく呼ぶ。


「モグラさ、パペッティアが死んでから、状況変わって機能しなくなったんだよね。吸魂鬼の動きも活発化してるのに監理人がいなくなった所為で、元も取れなかった。挙句にまだ妹を探そうとかしてるし、バカみたいだよね~」

「そう言う貴男はどうなのよ。何が目的でここに来たわけ? ただお礼を言いに来たわけじゃないんでしょう?」

「俺も吸血鬼部に入れて欲しいなぁって、こっちの方が裏側の変化とか詳しそうだし!」


 大楽は嬉々と部室に一歩踏み入れると大楽のことをモグラとして話を少しばかり聞いていた暁が怪訝な表情をして口を開いた。


「仕事をしていない貴方が、俺たちと一緒にいるなんてどう言う風の吹き回しですか」

「仕事はしないけど、何もしないわけじゃないよぉ。許してよ~」


 大楽が何を考えているか分からない。だが、空想を持っていることは周知している。モグラの構成員として活動もしている。吸血鬼部に入る資格は持ち合わせてる。


「今は部長も顧問もいない、副顧問ならそこにいるけど、信頼はできない。副部長としての判断を私は尊重する」


 綿毛が言うと浅草も頷いた。


「仕事はしっかりやってください。大楽君」

「はぁい」

「佐藤先生、今後は俺が指揮を執ります。良いですね?」

「好きにしろよォ」


 佐藤先生の役目は生徒たちを死なせないことだ。それ以上は吸血鬼部で好きにしたらいい。下手に口出ししても、こちらが不利になる。浅草が財力を振りかざすのを若干恐れている。



「これより吸血鬼部は、嘆きの川を見つけて、同胞たちを迎えに行きます。必要であれば、空想の使用は許可します。必ず二人から三人以上で行動すること」

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