8.教室での戦闘
二人は玄関から校内へと侵入し、聖燐は再び木刀を激しく振り回しながら祐を追いかけた。廊下の備品を破壊しながら、どんどん迫ってくる。
「お前、まだ学校壊す気か!」
「うるせぇ! それより待て、そして勝負だ!」
「ホントしつけぇよ!」
うんざりしながらもとにかく走り続けた。祐の目的地は廉がいる四階の教室。
とにかく、聖燐から距離を取ろうと隠れながら教室へと向かった。
「待て待て待て!!」
祐が上の階に向かって登って行くと、やっと自分の教室の階に到着した。廊下には誰もおらずに、殆どの生徒がHR近くで、教室に入っていた。
「やっと到着したか……それにあいつは何とか撒いたか」
この階に到着してない聖燐を確認した祐の心は安心したと同時に一気にテンションが上がり、今にも舞い上がりそうな気分になった。
「よし、やっと撒いたか!」
教室のドアをかけようとした時──
背後からの殺気と気配、もちろんそれは聖燐だった。
「お前……って奴は」
「覚悟!」
「クッソ!」
奇襲攻撃をかわし、天燐の一撃で壊れたドア。だが、興奮状態の聖燐がいて、もし教室に入ったら被害が出る可能性がある。
更に今ここから別の場所に移動したら、勉強の時間が無くなる為、ここで叩きのめすことにした。
「狙う理由も教えてくれない癖に戦うかボケッ!」
「うるさい!」
その廊下でのやり取りは廉や他のクラスの生徒たちにも聞こえていた。だが、誰もこの二人の喧嘩に関わりたくないため、聞こえないフリや無視を決め込んでいた。
だが、教室にいる廉は二人が誰かに怪我をさせないか、少しばかり心配していた。
「廉さん、妹さんのほうは──」
「いいのよ、別に。いつもの事だから」
二人は睨み合った。そして聖燐が口を開いた。
「さぁ、まだまだやりあおうぜ」
「ちっ、今度こそ終わらせやる!!」
観念して戦闘体勢に入った祐。だが──
「あっ!」
と窓の外を指した。
それに正燐が反応して外を見た。その瞬間に真っ先に突っ込んで、不意打ちで腹に膝の一撃を食らわせた。
「ぐはっ!ひ、卑怯な……」
腹を抑える聖燐にデコピンを食らわせて、ゆっくりと崩れるように倒れた。
「これで気は済んだだろ」
やっと戦いが終わり、一息をつき教室に入ろうとした瞬間、聖燐に足を強く掴まれて倒された。
そして力強く引っ張られて、外側の壁に思いっきり叩きつけられた。
「ちっ……!」
「とおぉぉぉりゃ!!」
叩きつけられた祐に、更に振りかざした木刀が脳天に直撃して、頭から血が流れた。そして聖燐が更に殴り掛かった。だが、祐はその拳を受け止めて、掴み込んだ。
「何度も何度も、お前しつこいんだよ……」
「やる気になったか……!?」
か細いドスの効いた声を上げると、祐の瞳孔が再び細くなった。聖燐の拳を掴む手が徐々に強まってきて、聖燐は痛み耐え切れず、その場に跪いた。
「ぐわっ、何だ!? また、力が強く……」
「うぉぉぉぉら!!」
空いたもう片方の手で、思いっきり聖燐の横腹を殴り飛ばした。
聖燐の身体に今まで感じたことのない衝撃が走り、そのまま真っ直ぐ廉がいる教室の窓を突き破り、机になぎ倒しながら転がり倒れた。
「まだやるか、おぉ!?」
怒りが収まらないまま窓から教室へと侵入した。
その瞬間、祐は悍ましいほどの寒気を感じ、その方向へと目を向けると、廉が身体を震わせていた。
廉は祐の声を聴くなり顔を下げて、表情が全く読めなかった。一つだけ分かるのは、その震えが怒りを表しているのだけは分かった。
静かな教室に、廉は小さく一言呟いた。
「祐……貴方、周りの人たちがどんな顔をしているか分かっているの?」
「あぁ?」
周りの生徒たちを見ると、全員怖がっている様子だった。
それに教室はガラス片が飛び散っており、机もバラバラに散らばっていた。だが、本人は特に気にする様子を全然見せてなかった。そんな祐に廉は厳しく追及した。
「貴方は……本当にバカね」
「バカだと?」
「えぇ、バカよ」
お互いに空気が悪くなり、廉は祐を睨みつけた。怒りを感じさせる厳しく鋭い目に、周りの生徒たちはいつも見た事もない顔に怖がっていた。
「あのな廉姉、学校を壊しまくったのは悪いとは思うが、聖燐のせいだぜ。怒るならあいつに言えよ」
「……たしかにその子も悪いけど、元はと言えば昔から喧嘩をし続けた貴方も問題よ。関係ないクラスの人たちにまで、怪我をさせて……」
「え?」
廉は割られたガラス付近にいた生徒一人が、ガラスの破片が頰に掠って血が流れていた。流石に怪我人がいると分かると状況は変わって、祐もこの重大さを知り、静まり返った。
「誰か保健室に連れて行って……」
廉が心配そうに言うと、別の生徒が怪我をしている生徒を連れて保険室へと向かった。そして生徒が運ばれて行くのを見届けると、再び祐を睨みつけた。
「祐の自分勝手な行動のせいよ。ここは貴方たち二人の世界じゃない。二人でやるなら外でやりなさい!」
事の重大さを知った祐の目はようやく元に戻った。
「でも──」
言い訳をしようとする祐に言葉を挟みながら廉は怒り続けた。
「此の期に及んでまだ言い訳する気? それでも高校生なの!? もっと自分の事を自覚しなさい!! 理解しなさい!!」
すると祐は顔を下げて、怒りに身を任せて反論した。
「……あのお姉さんなら、廉姉みたいにうるさくガミガミと言わずに、優しく言ってくれる筈だ。あの人なら──」
「貴方はまだそうやってあのお姉さんを名前を出す! あの人はもういないのよ。いつまでもいない人の名を呼び続けるのはやめなさい。子供よ貴方は、大人になれない子供よ!」
「くっ!」
「カッとなり、周りが見えなくなる。それが貴方のダメなところなの!」
その言葉に祐はカッとなり、廉の胸ぐらを掴み上げて、軽々と持ち上げた。廉は余裕の顔をするが、祐は周りを見失って完全に我を忘れかけて、瞳孔がまたも細くなっていた。
「お姉さんの事を言うな! あの人は俺の……恩人だ!!」
「でも、周りに見なさい! 祐が憧れたあの人は、こんな周りを静まり返らせるような力任せな事を教えてくれたの!?」
廉が言っている事は正しかった。周りの生徒は皆、はっきり言って引き気味であり、聖燐も力でねじ伏せた。
「……力任せだと」
自分が無意識に力を発揮していた。
さっきも自分の意識とは無関係に意識が奪われ、力が入ってしまった。
その事を考えると自分でも怖くなってきた。そして祐は思い出した。別の日にお姉さんに言われた事を。