最終回.手を取り、共に一歩を
全員が二人を見つめた。
あの激戦を制した事に驚いているが、それよりもあれほどにも荒くれていた恵魔がおとなしい少女のように優しい目になった事にも驚いていた。
「お前達!」
兵士一人が近づき、その人物は祐が注射針を眼前で掴み取って助けた兵士だった。
一度敬礼をすると、声を上げた。
「乱を沈めた事には感謝する!だが、規則として貴様ともう一人の奴、二人は捕縛させてもらう」
兵士は緊張しながら言うが、祐は冷静に答えた。
「あぁ、構わねえよ。もとよりそのつもりだ。だが、少しだけ時間をくれ」
「……分かった。猶予を与える。だが、そいつは我々に渡せ」
「手荒に扱うなよ」
祐は廉と目を合わせて、互いに頷いて恵魔を兵士達に渡し、恵魔は何処かへと連れて行かれた。
そして祐は望江の元へと駆け寄った。
「すまんな望江。こんな事に巻き込んじまって」
「いやいや、私だって自分からここに来たんだ。これくらいは覚悟の上さ。それに地獄の果てで追い続けるのは慣れっこだしね」
「サンキューな本当に」
次に聖燐の元へと向くと聖燐は祐の肩を小突いてきた。
「決着ついたような」
「あぁ、無事にな。長かったけど、無事に終わった。それにどうやら、俺もここに長くご厄介になるから、よろしく頼むな」
「あぁ、こっちこそな!」
二人は拳をぶつけ合い、互いに押し合った。
もうあの時の睨み合いはない。一人の友人として喜び合った。
「祐、ここからはいつもの日々よりもキツいわよ。私の小言にイラついていては生きて行けないわよ」
「へっ、乗り越えてやるさ。ここまでいっぱい乗り越えて来たんだからな!」
ここに複数の決着がついた。
悲しみや怒り、困惑など様々な思いが交差する中、彼女らの戦いは取り敢えずの終着を迎えたのであった。
*
恵魔の騒動から一週間が経った。
恵魔は一時的に精神面の問題もあり、隔離施設での治療となった。
祐と望江は前例のない事であった為か、処罰が決定するまでは獄門学園での問題を起こした生徒らが収容される地獄門牢に閉じ込められた。
因みに祐と望江は知らないが、芽衣も同じ牢にいる。
ジメジメとして、光も当たらない。暗く、何処からか水漏れしているのかポタ……ポタと水滴が落ちる音が数秒間隔で聞こえてくる。
ここにいる者は壁から連なっている鎖に両手を縛られ、汚いトイレとベットに届く範囲でしか動けない。祐はやる事がないので壁の破片を檻の鉄柱に投げ、ぶつかり跳ね返って地面にバウンドしてキャッチし続けた。
そのぶつかる音が地獄門牢内に永遠と響き渡っていた。
「うるさいよ。君の石をキンコンカンとぶつける音が耳障りだよ。僕のきっちり六時間の睡眠の妨害する気かい」
と右隣からご立腹な女子の声が聞こえてきた。
壁一つ挟んでいる中で、祐は答えた。
「すまねぇな。俺はジッとしてられないタチでね。こんな場所ジメジメしてやる事もない場所じゃあ、これくらいか、飯の時間しか楽しみがないんでな」
「だからと言って人の睡眠を妨害する事を正当化する気かい?」
「でも、俺の左隣の望江って奴はグッスリ寝てるぜ」
祐の隣にいる望江はグッスリ寝ていた。
そう指摘すると、次の瞬間に祐の部屋の壁に激しい衝撃と共に壁が足で貫かれた。
「個人差と言うのが分からんのかね」
「おっふ、凄えじゃんか!」
空いた穴から隣の奴の顔を覗くと、穴の奥から赤く右目を光らせている女子の姿。それは普通の目ではなく、機械で出来た義眼であった。
それに足もロボットのように機械で出来ており、伸びている足はゆっくりと身体へと戻っていった。
祐は凄え奴がいると、思わず笑ってしまった。
「おいおいその眼なんだよ。お前、ロボットか?」
「ここにいる意味が君には分かるだろう?こうなるから、僕はここにいるんだよ」
「へっ、こんな馬鹿がいるなんて、まだまだ面白い奴がいっぱいいるんだな!楽しめそうだ!」
「きみも相当馬鹿だね。僕を見て、嬉しそうにするなんてね。君、名は?」
「俺は万丈祐。お前は?」
「僕の名は──」
*
その頃、廉達は今回の騒動でお咎めはなく、通常通りの日々を送っていた。
だが、祐が来た事により廉はとある事に闘志を燃やしていた。
廉は聖燐らにグローブを投げ渡した。
「もっと野球を上手くなりたいって?」
「えぇ。祐がここに来たからには野球でも一歩前にいたいのよ」
廉の目からはやる気に満ちたパワーを感じ、聖燐らはそのオーラに圧倒されていた。
「姉妹揃って負けず嫌いだな全く」
「貴方も負けたくはないでしょ?祐にドヤ顔されたくないでしょう?」
「そりゃあ決まってんだろう。同じく負けたくはないね」
聖燐と廉はハイタッチを交わして、準備をしている灯達の元へと駆けていく。
「よっし!ならアタシも厳しく教えていくぜ!」
「どんと来い!って言えばいいかしら?」
「あぁ!」
「祐、見てなさい。貴方に野球でも勝ってみせるから!」
廉は以前のような固苦しい表情は消え、祐のように柔らかい表情が増えていった。
共にいる仲間達と過ごした日々、そして祐との和解をした事による心の余裕のお陰であろう。
「祐に負けるもんですか!」
その言葉に呼応するように地下の祐も天井を見つめてつぶやいた。
「俺だって廉姉には負けんぞ!追いついてやるさ。地の底からでもな!」
あの人だって見てくれている筈だ。
俺ら姉妹、そして恵魔がここから立ち上がる姿を。
そして再びあの土地を踏み締めた時、俺達の新たな旅立ちが始まる。




