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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
最終章 二人の姉妹
65/66

65.手を繋ぐ者達

 

 聖燐達の戦いは無事に終わった。

 だが、残された祐と廉、そして恵魔の戦いも終焉を迎えようとしていた。


「さぁ!私の手を掴んで!あなたを支えてみせるから!」


 手を伸ばし、恵魔を心の闇から救い出そうとする廉。

 今度は逆に恵魔から見た廉が姉と同じ姿に見えていた。


「姉貴……」


 恵魔の記憶が頭の中でよぎった。

 姉から言われた言葉を……


 そういえばあの時に、こんな話をしていたな。

 小学生低学年の頃、学校で男子生徒達が喧嘩で取っ組み合いを目の前で見た俺は、喧嘩している姿が怖くなり、一時期不登校になった。

 両親も先公も俺を責めずに、共に慰めてくれたが暴力的な事が苦手だった俺は、思い出すだけで怖かった。


「ただいま恵魔」

「おかえり、お姉ちゃん」


 姉は毎日のように帰ってきては、学校での出来事を話してくれた。


「今日ね──」


 学校の話や、友達の話とか多く語ってくれた。

 当時は毎日楽しく聞いていたが、今思うと学校は楽しい事や学ぶ事がいっぱいあるから、俺に行ってほしいと言う気持ちで伝えてくれたのだろうの思う。


「ねぇ、恵魔」

「ん?」

「今度ね。会って欲しい子がいるんだ」

「会って欲しい子?」


 姉貴はそう言って話してくれた。


「別の学校の子だけど、その子はちょっとだけおとなしい子で、友達も少なかった。でも、その子は勇気を持って一歩進んだら、友達が増えたって行って前より笑顔が増えたのよ」


 そいつは俺と同じだったが、自力で友達を増やした事に羨ましかった。


「でも、私……」

「恵魔」


 その時の姉貴の顔は珍しく、真面目な表情にビクッとした。


「臆病になるなと言わない。でも、心の中に思いを抱え込んじゃダメ。抱え込むよりも、勇気をもって思いっきり吐き出した方が、楽なのよ」

「……」


 その言葉は同時に俺に当てはまった。

 本当は学校に行きたい。友達を作りたい。学校でいっぱい学んで、いっぱい色んな体験をしたい。

 運動会も遠足も、友達と一緒に楽しみたい。


「……行きたい。学校に行きたいよ。でも、怖いの……」


 そう言うと姉貴は頭を撫でてくれた。


「その言葉を待ってたわ」

「仲良くなれるかな、私」

「恵魔なら仲良くなれるわ。いつも持っている人形を持って行けば、その子と仲良くなれるわ」

「その子も人形さんを持っているの?」

「えぇ。家族のように大事にして、とても優しい子だから──」


 あの日の決断は間違ってないと今も思っている。

 だが、その後に姉は事故で死んで、その約束は果たされなかった。

 やはりあの時、姉貴が合わせようとしていたのは──


 再び意識を取り戻すと、目の前には祐と廉がいた。


「お前ら……」


 二人が共に手を差し伸ばしていた。


「私……いや私達は貴方の味方よ」

「そうだ!俺だって変われたんだから、変われるさ。俺と共に行こうぜ。だからこそ、この手を」

「掴んで欲しい。新しい一歩を踏み出す勇気を自分の心で!」


 頭の中だと混乱が止まらなかった。

 自分は本当に変われるのか?でも、姉貴が連れてこようとしていた奴らなら、信じれるのか?


「本当に俺は変われるのか……お前らは姉貴のように俺を導いてくれるのか……」

「えぇ、貴方が変わる気があるなら、私達が導かなくても貴方自身が導くルートへと向かっていくものよ」


 恵魔の目からは涙が流れ始めた。

 あの時の姉の優しさや、温もりを再び感じていた。

 誰かを嫌いたい訳じゃない。彼女には誰かが差し伸ばしてくれる温もりが欲しかった。

 だが、そのゴールが見つからず、ただひたすらに迷い続けて、ゴールを探す一歩が踏み出せなかった。


「……俺にまだ温もりを感じれる時は来るのか。姉貴……お姉ちゃんのような優しさを……」

「あぁ、あの人の意思は俺達が継ぐ。だからこそ、信じて」


 恵魔は二人から感じる姉の温もりを信じて、優しげな表情になって両手を伸ばして二人の手を掴み取った。


「俺達は友達になれるさ」

「困ったら手を取り合って解決するのよ。ずっと悩んでないで、進まないとダメよ」


 恵魔は祐と廉の手を握りしめて立ち上がらせた。

 二人とも握りしめた恵魔の手から感じた。殺気が消え去り、普通の女の子のような柔らかく暖かな感触であった。

 その最中、二人はあるビジョンを見た。


 それは昔いつも遊んでいた公園だった。

 先程見た幼き恵魔が一人、ベンチに座って人形の手を動かしながら誰かを待っていた。

 そこにあの人が誰かを後ろに連れて公園に来た。


『お姉ちゃん!』

『恵魔、連れてきたわよ』


 あの人の後ろに隠れていたのは恵魔と同じ歳の女の子で、同じく人形を大事そうに抱いており、恵魔の人形を見るなり、笑顔で走り寄って来た。


『貴方が恵魔ちゃん?』

『うん』


 恵魔は目を合わせられないが、祐は優しく話してくれた。


『私は祐!よろしくね恵魔ちゃん!」


 幼き祐は恵魔の手を握りしめてギュッと握手を交わした。


『恵魔ちゃんも人形持っているの!』

『私の大事な家族。ゆ、祐ちゃんのは?』

『……私はリリーって言って、大事な友達!これを持っていると勇気を出せるようになるんだ。リリーはあのお姉ちゃんのように勇気があるの!』


 祐が指したのは恵魔の姉であった。


『私のお姉ちゃん?』

『うん!お姉ちゃんは私に勇気を持つ事が大事って教えてくれたんだ。だからリリーはあのお姉ちゃんだと思えば、なんて言えば分からないけど、とにかくがんばれるんだ!』

『そうなんだ……がんばれるんだ』


 恵魔が何かを感じていると、祐は恵魔の手をギュッと握りしめて来た。


『遊ぼ!』

『うん』


 祐は恵魔を引っ張って公園を連れ回して遊んだ。

 すると、最初は戸惑っていた恵魔も徐々に自然と笑顔が出て来て彼女も満足そうに二人の姿を眺めていた。

 恵魔にとって不登校になって以来、初めて外で同い年の子と遊んだ。

 そして夕方となり──


『祐ちゃん、恵魔!もうそろそろ帰る時間よ!』

『え?もうそんな時間?』


 二人が公園の時計を見ると5時を超えていた。

 本人達はまだ1時間も遊んでいない感覚なのに、何時間も時が経っていた。

 特に恵魔は初めてこんなに楽しく遊び、まだ足りないと思って、人形をギュッと抱きしめて少し名残惜しそうにしていた。

 すると祐が言った。


『次来るとは私のお姉ちゃんも連れてくるね。皆んな揃えばもっと楽しいよ!』

『お姉ちゃん?次も遊んでくれるの?』

『うん!恵魔ちゃんといると楽しいもん!』


 そう言って祐はリリーの手を伸ばして、恵魔の人形の手を引っ付けあった。


『手を繋ぎ続ければ、ずっと友達でいられるよ。離れなくて良いんだから』

『……うん!』

『だから、私はリリーを恵魔ちゃんのお姉ちゃんと思うから、恵魔ちゃんはその人形を私だと思って大切にしてあげてね!』

『うん!分かった!』


 恵魔は自分の手でしっかりと祐の手を握りしめて、二人は笑顔で笑い合った。

 存在しない記憶。

 巡り会わなかった二人の姿を見て、祐は語った。


「……俺達は本来こうなる未来だったのか」

「そうかもだけど、これは私達が見ているビジョンの一つであり、本筋がこのような道を辿るかは分からないものよ」

「……だよな」

「でも、ここから本筋へと戻すのは可能よ。だからこそ、私達が──」


 ビジョンを見終わると、祐は目の前にいる現在の恵魔をギュッと抱きしめた。


「今度こそ遊ぼう」

「俺は、私は……お前達と遊べるの?」

「遊べるさ。俺達は今からでも友達になれるさ」


 恵魔にも感じていた。

 その暖かな身体が姉と同じで心地よさが感じられる。


「ありがとう……あの時の暖かさを思い出す」


 祐の目を見て、暗く闇に包まれた恵魔の目から光が宿った。

 そして安心した顔になり、崩れる様に祐の胸に倒れ込んだ。


「あの人の代わりに今度は俺達が導くんだ」

「えぇ、この子を、私達が正しい道にね……」


 廉と共に恵魔を支えて、祐が背中に抱えて廉が支えて歩み始めた。



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