64.仮面の裏側
二人はひょっとこの前に立ち塞がり、拳を構えた。
「おい!アイツらの元にはいかせんぞ!」
「くっ……邪魔だよお前ら。あの力を持つあの方なら、全てを変えられるかもしれんのだ」
ひょっとこは落ちそうな仮面を抑えながら二人を睨みつける。
言っている事が分からない望江は聖燐に聞く。
「何の事言ってるんだい?アイツ」
「分からんが、恵魔に心酔してるってだけでやばそうだけどな」
そして二人が身構えていると、ひょっとこはもう一枚トランプを取り出して、両手を持ち合わせて二人に攻撃を仕掛けて来た。
「来るぞ!」
「おう!」
望江は懐から警棒を取り出し、思いっきり振りかぶると約1メートル近くまで伸ばして応戦する。
聖燐が蹴り、ひょっとこがジャンプして避け、空高くから二人にトランプを投げ飛ばすが、望江が警棒で弾き、トランプは地面に突き刺さった。
「トランプが突き刺さった!?」
「アイツのトランプは鋭利な刃物だ。絶対に切られるなよ!」
「どんな奴がここに居るんだよ!全く!」
「でも、さっきの祐の一撃のお陰でだいぶんと速度が鈍ってやがる。アタシらでも勝機はある!」
ひょっとこは更に無数のトランプを取り出して両手に10枚以上も持ち合わせた。
「おいおい!アレを投げるつもりじゃないだろうさね?」
「い〜や。ありゃ投げてくるな」
二人の心配をよそにひょっとこはトランプを一気に投げて来た。
無数に飛んでくるトランプは真っ直ぐと二人へと飛んで行き、両手を広げると左右に分かれて上空で二人を囲んだ。
「一人でもお前らに負ける訳がない!」
ひょっとこが両腕を閉じようとした時、聖燐はニヤリと笑った。
「へへ、お前らって何人の事だ?」
「何っ!?」
ひょっとこが背後から灯が現れて、拳を振り下ろした。
「貴様!」
「お前には借りがあるからな。アタシも参戦させてもらうぞ」
ひょっとこはトランプで灯を切り裂こうと手を振り上げようとした。
その時、腕に何がぶつかり、手からトランプが弾け飛ばされた。
「くっ……」
手にぶつけられたのは望江の警棒であり、望江はドヤ顔をしていた。
「けっ!やらせるかよ!」
「すまんな新参者!」
灯が再び攻撃を仕掛けるとひょっとこは飛び上がって、着地しようとすると聖燐に掴まれて地面に叩きつけられた。
「お前には雑魚の集まりかもだが、アタシらはアタシらで覚悟持って生きてるんでな。今ならダチの為なら腕だって失う覚悟がある!」
「ならその覚悟見せてもらう!」
強引に足を振り払い、三人から距離を取るひょっとこ。
懐からトランプを投げ飛ばし、聖燐らを襲う。
灯と望江が身構えるも、二人の前に聖燐が立ち、全てのトランプ攻撃を自分の身体で受け止めた。
「全部受け止めただと!?」
「言ったろ!覚悟張ってアタシは突っ張っているって!その覚悟は命を賭けるほどに!」
身体中にトランプが深く突き刺さり、制服の下から手足を伝って血が垂れ落ちた。
「聖燐!」
「こんなもん。あの馬鹿姉妹の痛みに比べれば!」
聖燐は刺さったトランプを1枚1枚取り除き、全て抜き取りと無傷なアピールをしながら地面に投げ捨てた。
「へっ!これがアタシの覚悟よ。本当はめちゃくちゃ痛いけど、こんなの祐の拳骨に比べたら屁でもないぜ」
目の横を掠った影響で、片目が開けられないながらも聖燐は手を招き、逆に挑発を繰り出す。
「おい!お前もこれくらいの覚悟は出来てるんだろ!それとも武器が効かなかったら、もう降参する気かオラ!」
血が垂れ落ちながらも迫る聖燐にひょっとこは動揺から手に隠し持っていたトランプを全て地面に落とした。
「お前だって大和撫子の血が流れたんだろ。根性見せてみろや!」
「くっ……」
「掛かってこい!」
ひょっとこが地面に落ちた2枚のトランプを拾い上げて投げ、1枚は避けたがもう一枚はもう片方の目の横を擦り、両目の視界が塞がれた。
「目が封じられた!聖燐!」
望江が声を上げるも聖燐は静かだった。
そして──
「ンなのアタシには分かってんだよ!」
「!?」
ひょっとこが背後から襲い掛かると同時に聖燐は勢いよく回し蹴りを放ち、ひょっとこの顔面に直撃した。
「おっっっらぁ!!」
聖燐は蹴りをめり込ませたままひょっとこは弾き飛ばされ、地面に叩きつけた。
その衝撃でメキメキとお面にヒビが入り、バキッと割れた。
「な、何故……」
「アタシは鼻が効く方なんでね。お前の血の生臭い匂いは丸わかりなのよ!」
そのままぶっ倒れて、今度こそ気絶した。
「大丈夫かい!」
望江がすぐに聖燐に駆け寄り、身体の手当てを始めた。
「こんくらい大丈夫だい」
「だからって簡単に腕を失ってもいいって言うなよ!」
「アタシは人を見る目があるから言うが、祐もお前さんだってそうだろうさ」
「え?」
「アタシには分かるさ。お前や祐もここに来るまでに命を捨てる覚悟を見せた顔をしているってね」
麗花の為に命を張った望江と助ける為に飛び降りた祐。
そのことを聖燐は顔を見ただけで理解していた。
「まぁ、あんた言葉通り、こうゆう世界にいるんだから、命を賭け続けないとやってられないのさ」
「ごもっともだね」
その頃、灯は走ってひょっとこの元へと向かうとその姿に驚いた。
「コイツは!?」
聖燐は望江に支えられながらひょっとこの元へとむかった。
「芽衣……やはりお前だったか。匂いが近いと思った訳だ」
「何処に行っているかと思ったらこんな事を……」
ひょっとこの正体は芽衣であった。
唖然としている二人に望江が聞く。
「仲間か?」
「仲間……まぁそんなところだな。話は後で聞くから、今はじっくりと寝てな。今起きている目の前の事を終えたからな」




