63.迷いの中で……俺達は
「自分との境遇の差に腹が立っていた。自分は家庭が崩壊して、自暴自棄になって身も心も壊れかけていた。なのに、何故姉妹お前らは幸せに生きているんだ。そんな疑問が身体をよぎったのさ」
「そんなもん、一方的に俺らを妬んでいるだけじゃあないのかよ!」
「あぁ、そうさ!幸せなのが行けないのさ。俺が幸せじゃないのに、目の前の奴らが幸せなのが耐えられんのだ!」
だからこそ、恵魔は暴れて廉に襲い掛かった。
自分が生きている意味が分からないからこそ、自分自身に問いたかったのかもしれない。
お前らは姉妹で楽しいのかと。
「俺は学安に捕獲されて、獄門学園に来た。そして俺は驚いた。ここにいる奴らは俺と同じ死んだ目をしている。だが、その闘志は消えておらず、己の存亡をかけて日夜死闘を繰り広げていた」
学安に捕獲された恵魔は獄門学園で、怒りをただぶつける為に戦い続けて勝利し、ここの頂点となった。
だが、その心の奥には自分を押さえ込んだ怒りが沸々と溜まって行った。
そして、ここのてっぺんに立ち、一人茫然と空を眺めた恵魔。
何をすれば満足なのか、何をすれば自分の心が満たされるのか当の本人には全く分からなかった。
そのうち恵魔は考える様になった。
「自分の中で思った。俺は捨てられた。両親にも姉にも。俺は孤独だと。あの時、姉貴が死ななかったら俺は今も幸せだったかもしれないんだ!」
「お前は自分の不幸を他人のせいにする気か!」
「何!?」
「俺だって自分の辛さを廉姉にぶつけちまったから、こんな事に巻き込まれた!こうやって二人がまた会えたのは、互いに諦めなかった。絶対にまた会えるって思った。そして俺は絶対に謝るって思っていたから巡り会えたんだ!不幸になった自分に手を差し伸ばしてくれる人々に会い、僅かでも自分を変えるきっかけをくれたから、俺は謝ることが出来たんだ!」
祐の言葉に恵魔は手を払いのけながら荒れ狂った。
「ウルセェ!姉貴は残された俺の事よりも廉、お前の命を選んだんだよ! だからこそ、立ち直れなかった俺は一人孤独になり、家族は崩壊した!俺の様な奴よりもお前を選んだんだよ!俺は捨てられたに決まってるんだよ!」
その言葉に廉が反論した。
「自分だけがという気持ちがあるから、一人になる事を何故分からないの!私達姉妹も同じように辛かった。それでも、私達は共につなが
その瞬間、三人とも目が開いて獄門学園に戻り、地面にぶっ倒れた。
「戻った?」
「そ、そのようね」
二人が焦りを見せていると、聖燐が声をかけた、
「大丈夫か二人とも!」
「大丈夫だが、今何が……」
「何がって……お前達身体をぶつけ合った瞬間吹き飛んだからびっくりしたぜ!」
「あ、あぁ」
皆んなの反応を見るとどうやら今のは一瞬の出来事だったのか?
やはりあれは、三人の精神世界の共鳴だったとでも言うのか?
恵魔も困惑しており、片目を抑えながら二人に問いかけた。
「貴様らぁ……俺に何を見せた。何を喋らせた!何故喋った!」
「やはりお前も同じだったか。俺達のようみに苦しみ、悩み抜いていた」
「何故だ。俺はあの空間で何故あんなにもベラベラと」
「お前の心の中では救いを求めているからだろう。それがお前の望みなはずだ!」
恵魔は自分の顔を押さえつけて涙を流しながら叫んだ。
「俺はただ温もりが欲しかっただけなんだ。姉貴と遊んで、笑って、一緒に寝て……普通の幸せが欲しかっただけなのに……お前がぁぁぁ!」
「あのお姉さんは、お前を見捨てる為に廉姉を庇った訳じゃねぇ!! 小さな命を助ける為に、飛び込んだ。数日前に女の子が轢かれそうになった時、廉姉は迷わずに突っ込んで行った。俺には無理だと思って諦めた。でも廉姉はその女の子助けた!」
「それが何だ!」
「俺なんかとは違う覚悟がある。命を張れる大いなる覚悟だ!廉姉にはあの人の心が宿っているんだ!そして一歩踏み出す勇気が人の心を動かせる意味を持っているんだ!」
そこに聖燐が恵魔の後ろから現れた。
「アタシだって小さなすれ違いから激しい憎悪へと変わったが、一言言ったらスッキリしたんだ。心が解放されて、気分が良かった」
更に横から望江も現れて、話に混ざりこんだ。
「何かに縛られて自分の呪縛から抜け出せないなら、誰かを頼るんだ。そこから答えが導き出されるはずだ。私がそうであったように」
そして祐が真剣な表情で恵魔に言った。
「お姉さんは言った。この手はみんなで手を繋いで生きていく為だと、今も拒否し続けているお前にも分かるはずだ!! お姉さんが示したかった事を!!」
「俺は絶対に抜けられない闇にいるんだ!! もう二度と戻って来ないあの日を今も待っている俺の事を何が分かるって言うんだ!!」
「俺だって一緒だぁぁぁ!!」
祐は空高く声をあげた。
廉とともに恵魔の元にゆっくりと歩いていく。
「俺だってお姉さんがいたから自分がいるし、自分に自信が持てた。お姉さんが亡くなった時、もう戻れないと何度も思った。でも、俺は感謝している」
「何……?」
「俺に勇気をくれた」
「私に優しさをくれた」
手を振り払い、全てを拒否する恵魔。そんな中で、頭の中に少しずつ記憶が蘇って来た。
優しく遊んだくれた姉、優しく話してくれた姉の姿が思い浮かんだ。
「辞めろ、俺にこれ以上の地獄を!」
頭の中で混乱が始まり、頭を片手で抑えて辺り構わず手を振り回す恵魔。
聖燐たちが危険を察知して、距離を置く中、祐と廉は共に恵魔への向かった。
「昔の俺と同じだ……何かを忘れたくて、暴れる自分を……」
「そうね。でも、今は違う。私も祐も成長したんだから」
一歩一歩近づくと、息を荒げた汗を掻いている恵魔がこちらを睨みつけていた。
「もう、終わりにしようぜ」
「貴方は一人ではない。私達が共に苦しみを分かち合えるんだから」
恵魔は廉をお姉さんの幻影に見立てて、爪を立て飛びかかった。
祐が止めに入ろうとするが、廉が首を横に張って自ら攻撃を受け止めた。
「廉姉!」
「だ、大丈夫よ、これくらい」
恵魔の爪が深く突き刺さり、手に刺さり血が吹き出てきた。
「うっ……」
「俺はもう戻れないんだよ!! あの頃に!」
祐は痛みを堪えた。流れ出る血は滝のように地面に落ちていく。だが、祐は逆に掴む手を強く握り、爪はどんどん深く刺さった。
「戻れる訳がないんだ!あの頃の楽しい日々なんて!」
「だったらはこの手で貴方の手を幾らでも繋いであげる!だから──」
廉が攻撃を受け止めながら、説得している時、聖燐は何かを察知した。
廉と恵魔の二人の後ろでぶっ倒れていたはずの、ひょっとこが立ち上がって、懐からトランプを取り出した。
「あ、あの野郎!こんな時に復活しやがって!」
「ここで邪魔させる訳にはいかないよ!」
聖燐と望江は互いに頷き、ひょっとこの元へと駆け走った。




