58.開眼の快感
「その力、俺の肌に感じるぜ!三人の開眼した野郎どもが激突するんならよぉ!最高の会合ってやつだな!」
興奮を抑えられない恵魔は身体を震わせ、髪が逆立ち始めた。
その時、目の前から祐の姿が消えた。
そして背後から祐の眼光を感じ、背後に裏拳を放った。
「!?」
拳が空振り?背後に元々いなかった?
いや、背後にいたはず。確実に気配とオーラをこの身体で感じ取った。
「ぬっ!?」
「そこ!」
目の前より祐が姿を現し、攻撃を仕掛けて来た。
「なるほどぉ!」
恵魔は咄嗟に前に蹴りを放つも、またもや祐の姿が残像のように消え去った。
「何!?」
その瞬間、背後より突然に激しい衝撃が加わり、恵魔は数メートル飛ばされた。
地面に手をついて、うまく着地すると、そこには祐が足を伸ばして蹴りを放った後だった。
「ほぉ、スピード重視の開眼のようだな。焦って見えなかったぜぇ」
「強がるのも今のうち。パワーアップしたのはスピードだげじゃあねぇぞ!」
そう言った祐は指でクイクイっとこっちに来るように挑発を繰り出した。
「一撃来いや!この防御も試してみてぇのよぉ!」
「ふん、その挑発乗った!」
恵魔は助走をつけて走り出し、大きく飛び上がって真上から祐の顔面を殴り込み地面に叩きつけた。
重みのある一撃に祐は顔面から地面にぶがめり込んでしまった。
「少しは痛いか?」
「あいたたた……頭殴られるのはやっぱしいてぇや」
頭を抑えながら立ち上がる祐。
頭から血を流しているが、その顔から笑みが溢れており、拳を握りしめていた。
「一発には一発だぜ!」
「逆に来な。思いっきし受けてやらぁ!」
「お前がやったくらい全力で!」
拳を引き、力いっぱいに拳を振りかぶって恵魔の頬を殴り込んだ。
大振りな一撃は身体中に大きな衝撃を与えて、その場で耐えた恵魔だが、祐が更に拳を押し込んで殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
背中からぶっ倒れて口から血を吐く恵魔。
目の前が一瞬だけボヤけて、祐の姿が複数に見えてしまった。
「やけに一撃が良いじゃんか……少しは効いたぜ」
「お前の防御は俺よりも低いようだな」
「そのよう、俺の計算ミスだ。ここまで開眼の力が影響するとはな」
廉は祐のパワーアップした姿に驚愕していた。
「あの時の祐よりもパワーが跳ね上がっている。自我のコントロールで最大限にパワーの引き出しが可能になっている」
手を開き、呼吸を整え始める祐。
恵魔はそれが気合砲である事を理解しており、避ける素振りを見せずに立ち尽くした。
「ふん、その技か」
「それはどうかな?」
そう言って祐は手を突き出して気合砲を撃ち放った。
恵魔は身体に当たる直前に、右手を突き出して衝撃波を体内で受け止め、左手へと衝撃波を転移させる。
だが、体内を転移していた衝撃波が突如、膨らむように体内にて大きな衝撃を撃ち放ち、一瞬だけ恵魔の背中が大きく膨らんだ。
「ぐはっ!」
その場に倒れ込む恵魔。
周りの連中も、何が起きたのか分からず、聖燐は声をあげた。
「祐!何をしたんだ!」
「廉姉の技に少しだけ改良を加えたのさ」
「改良?」
「二段撃ちだ。一撃目の気合砲を放った時、気の放出を八割に抑えて、残りの二割分の気合砲を瞬時に放つ。敵が一撃を喰らいダメージを受けた直後に二撃目が隙の出来た腹部に直撃する。アイツの場合は廉姉にやったように体内から別の箇所に放出する技だから、一撃目の衝撃波が体内通っている時に二撃目が来た為に防ぐ手段がなく、体内で衝撃が発生したのさ」
「さっきの廉の技をもうそこまで……」
祐は首を振り空を見上げた。
「昔、廉姉が読んでたからさ。俺もそれを読めば廉姉みたいに少しは頭が良くなるかなって思ってさ。勉強はてんでだったけど、どうゆう事かこっち系の事には身体がよく浸透するんだよ。これも相性って事なのかな」
廉もその見事な一撃に唖然として、そして完璧に使いこなしている事に驚きを隠せなかった。
「祐……」
「だってさ、頭も良い、運動も出来る、人気もある、そんな廉姉に近づくには廉姉の後を追うことしか出来なかった」
祐から見たら廉は一番近くの存在であり、一番離れた存在でもあった。
だからこそ、近づきたかった。必死に後を追いかけた。
「さっきも言ったが姉の真似っこするのが特権……だが、それではただの後追いだ。そんなな事をしても俺自身の成長とは違うと、ようやく気づけた」
拳を見つめて、空高く振り上げた。
「今度は俺独自の技だ。廉姉の後を追った所で前に立つことが出来ない。一人に前に立ってこそ、一人前なのさ」
制服の上着を脱ぎ捨て、シャツの裾を捲り、指を開いたまま手を後ろに引いた。
その様子は落ち着いており、呼吸も乱れず、安定したリズムを築き上げている。
廉から見ても安定したオーラに身体から放出されている気の流れも全てが安定しており、自分よりも完璧に使いこなしていると。
「はぁ!」
五本の指を軽く曲げた状態で手を突き出した。
放たれた衝撃波を恵魔の両肩、両膝、胴体に気合砲が同時に直撃し、背後の壁にも五つの小さく丸い凹みが出来ていた。
「五か所同時の攻撃!その名も五破撃凛!」」
吹き飛ばされた恵魔は何とか手を地に付けて立ち上がるも、身体を貫通する痛みが襲い、その場に膝をついた。
「ぐっ……」
「勉強はダメでもこっちなら、覚えが早いようでね」
「へ、へぇ……こんなトンチキな技まで撃てるとはねぇ」
「危険な技なのは自分自身が一番理解している。だからむやみやたらに撃ちたくはなかったんだ」
その言葉に聖燐が声を上げた。
「って事はアタシは手加減されてたのか?」
「ダチを怪我させたくない俺なりの配慮って奴だよ」
「そんな配慮要らねえよ!」
聖燐は頬を赤らめて怒った風に言うが、何処か嬉しそうでもあった。
祐は再び恵魔へと顔を戻し、説明を始めた。
「自分で進化しなくちゃ行けない。でも、進化は一人では出来ない。周りから得たものを取り入れて人は進化していく。俺は聖燐が居たから強くなっていこうと思った。廉姉がいたから後ろを追って真似した。だから、独自の進化を見つけ出した」
そう話していると恵魔は不意打ちに目へと指で突いてきた。
祐はゆらりと風に煽られる草のように身体をゆらゆらと揺れ,まるで草に攻撃したかのように突いた手の風の抵抗を受けて、流れるように攻撃を交わした。
「何!?」
「アイツはバランス感覚や空間認知能力が他人よりも高い。だからこそ、こうやって攻撃を避けれる」
聖燐の特徴である空間認知能力の高さ。
今まさにその能力がまるで乗り移ったかのように、繰り出される恵魔の連撃を避け続けた。
「次は新たなダチの技!」
攻撃を避けて背後へと回った。
今度は両手をぶらりと下げ、ゆらゆらと手を揺らし始めて瞬時に攻撃を繰り出した。
恵魔は咄嗟に回避行動を取った。目の前から突かれた一撃を目視して避けた。
だが、次の瞬間、祐の手がぐにゃりと動きを変えて横腹側へと手が伸びて、パチンッ!と叩かれ、身体に染み渡る痛さが響き渡る。
「ぐわっ!」
「あの技、私の鞭と同じ挙動を!?あの動きを腕で再現したの!?」
更に何発も打ち放ち、避けようとする位置とは真逆の方向より手が飛んできて身体全体に打撃を打ち込んでいく。
身体に響く一撃一撃に恵魔の体力は大幅に削られていく。
「これは鞭打ちを人間が行う技、鞭打って言われてるらしいぜ。防御を貫通し、体内より相手にダメージを与える強力な一撃だ」




