56.二つの眼の色
「次のフェイズだ」
恵魔が自分の片目に何秒間か手を当て、手を離すと目の色が変わっていた。
先ほどは普通の黒く鋭い眼球だったが、青白く変色していた。
「……目の色が変わった」
「俺は特異体質だって昔言われたなぁ。状況に応じて目を変えられ、性質が全て異なってくるって」
「……どうゆう事?」
「こうゆう事だ!」
恵魔は手のひらに力を込め始めた。
廉はまた攻撃を仕掛けてくると感じて、いつでも動けるように構えた。
そして離れた場所いる廉に向かって、手を開いたまま真っ直ぐと突いた。
「まさか──」
廉が気づいた時にはもう遅かった。
身体に巨大な岩が衝突したような衝撃が襲い、強風が吹き荒れたように後方吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
自分の技を使われた。いや、あれは真似をいたとでも言うのか。
廉は混乱していると祐の呼ぶ声が聞こえてくる。
「廉姉!起きろ!」
「……大丈夫。少し打ちどころが悪かっただけ」
自分の腹部を見ると、丸い穴の形に服が破けていた。
「本当に精度が悪いわね……気合砲は体を突き抜けて内部よりダメージを与える技で、貴方のはただ痛い技よ」
「お前さんとの違って、俺のは正面衝突しちまったようだな」
「何で技を知っていたの?これも本で覚えたの?」
「いやいや、貴様の技をインプットさせてもらったんだよ。この目になるとよぉ。相手の動きを目に焼き付け、コピー出来るんだよ。お前が技を撃つ瞬間に、コピーさせてもらった」
「くっ……」
「コピーの精度が少し低かったかな?咄嗟にしたもんで、中途半端になっちまったよ」
恵魔は先ほど祐が地面に落とした鞭を拾い上げて、勢いよく地面に何度も叩いた。
地面が抉れ、一撃一撃が鈍い音を出していた。
「初めて触ったが、まあこんなもん……かな!」
そう言い恵魔は廉に向けて、鞭を放った。
直線上に飛んでくる鞭の先端は、その速度からまるで消えるように姿を消した。
「消えた⁉︎」
見えなくなる鞭に廉はその軌道を読み解く事が困難であり、後方へと下がろうにも後ろは壁。
逃げる事が出来ない。それに直撃したら、どうなるかも分からない。
廉は隙を見せる事になるが、この状況を確実に避けれるのは一つ。その場で高く飛び上がった。
飛び上がった直後、自分が立っていた位置の壁が鞭の先端が深く突き刺さった。
あのまま立っていたら心臓部分が貫かれていたであろう。
「祐の友達の武器を短時間で──」
「これくらいは簡単な事さね。武器はあんま好きじゃないから、もういいけど」
そう言って鞭を投げ捨てた恵魔。
「やはり己の手が一番馴染むから拳が良いね」
そうして恵魔は再び祐に向かって攻撃を仕掛けた。
直線上に突くジャブをしゃがみ込んで避け、足を払うように足蹴を放つ。
恵魔は後方に引き、隙の出来た廉へと爪を突いた。
「ここ!」
咄嗟に身体を傾けて爪が肩を掠めながらも、呼吸を整えて恵魔の胴体に潜り込んで気合砲を撃ち放った。
ドゴンッ!と空気を破裂させるような音が響いた。
「ニッ……」
だが、恵魔は笑っていた。
直撃したはずの気合砲だが、恵魔がダメージを受けた様子がない。
「ふぅ、はぁぁぁぁ!!」
腹に力を込め、歯を食いしばり、大量の汗を掻を流した。
そして右腕を徐々に震わせ、手のひらが震え始めて、その拳を地面に殴り込んだ。
「ぬあぁ!」
殴り込んだ瞬間、地面に大きなクレーターが発生し、その衝撃で廉は再び吹き飛ばされて灯にキャッチされた。
「大丈夫祐。いや廉!」
「だ、大丈夫……でも、今何をしたの彼女……」
恵魔は白い息を吐きながら、震えた右腕を無理やり押さえ込んだ。
「いやはや、あれを2度喰らうのは痛くたまんねぇからよぉ。対策をうったのさ」
「対策……」
「お前さんの気合砲ってのは衝撃波を体内を通して体外に貫かせる技。だからこそ、体内から通過しようとする衝撃波を逆に体内で俺のコントロール下に起き、右腕に移動させて地面に叩き込んだ」
「そ、そんな事を……」
「お前にぶつける気だったが、手に限界来たから出来なかった。もう少し慣れればその顔面に叩き込めたんだけどな」
廉は灯に降ろしてもらい、灯に言伝る。
「みんなをもう少しその場から離して、これじゃあどんどん被害が増えてしまうかもしれない」
廉の戦いを見て来た灯には言い返す言葉ない。
一番危険だと分かっているのは戦っている廉本人だからである。
「うん、了解した」
「ありがとう……灯」
「あぁ、絶対に止めて見せろよ」
「うん」
灯は廉から離れて聖燐らに話した。
「悔しいが、廉の言う通りだ。あんな技をもっと撃たれたら、被害が出てしまう」
「あぁ、皆を下がらせろう」
聖燐らは周りの者達に言い聞かせて、二人から距離を離した、
そして廉の見ながら祐は望江に腹部の手当てをしてもらっていた。
「祐も離れよう。私達も巻き込まれるし」
「くっそ、廉姉が戦っているのに俺は見てるだけかよ!」
「祐は十分戦ったからお姉さんの戦いを見守ろう」
「だが、廉姉とて体力を俺との戦いで消耗している。体力が万全だったとしても、廉姉一人でアイツを止められる可能性は不透明だ」
「だからと言って──」
「俺自身も目を開く事が出来れば……加勢出来るのに」
祐も2回の開眼の出来事を思い出した。
聖燐にしつこく攻撃された時と、教室で廉姉に叱られてあの人の事を行った時。
「つまり、俺は苛立ちか怒りで開眼するのか?トリガーの話が本当ならば」
「信じるの?そんな与太話?」
「廉姉だって、試してあぁなったんだ!だが、こんな時に苛立ちで覚醒で覚醒出来るわけ……」
祐はどうやったらトリガーを引けるのか。
あれほどに匹敵する怒りや苛立ちがまた起こせるのか?
「かぁ〜!まったく分かんねえや!」
そこに聖燐が近づいてきた。
「怒りや苛立ちがトリガーだとしても、そんな事で逆に苛立っていたら発見すら出来ないかもだぜ」
「そうだけどもさ!」
「何も出来ないからってムシャクシャする気持ちは分かるが──」
と聖燐が話していると、祐はその言葉から何か閃いた。
「まて!今の聖燐の言葉で閃いた!」
「はぁ?」
そう言って飛び上がるように立ち上がる祐。
だが、身体の痛みが襲い掛かり、横腹を抑える。
「いててて!」
「無理だよ!大怪我だってしているのに!」
「いや、一つだけある!決死の作戦だがな!」
身体の痛みを堪え、声を震わせながらもその作戦を実行しようとした。
望江は止めようとするが、聖燐が逆に止めた。
「行くのは危ないって!」
「よしとけ。アイツにあー言ったって聞こえやしないさ」
「でも、祐が今度こそ──」
「アタシと戦って何度も互いに大怪我して来た。でも、次の日にはすぐに元気になって学校に来た。バカは風邪を引かないならぬ、馬鹿は怪我をしないだ。アイツの怪我は怪我じゃない。蚊に刺されたみたいなもんさ」
「なんて馬鹿な考えを……」
そう言われると聖燐は軽く笑った。
「だってアタシらどっちが最強で、どっちが学年最下位を争っていたからな」




