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獄門学園〜可憐なる姉妹決戦〜  作者: ワサオ
最終章 二人の姉妹
54/66

54.神へ到達せよ


「祐!」

「おうさ!神を超えてやる!」


二人は同時に左右に飛び距離を取った。

互いに距離を離して敵の注意を二つに分かれさせ、思考に困惑を生み出させる。


「ならよぉ!片方を徹底的にやれば良いんだろうが!」


恵魔は咄嗟に二人を見て、どちらを標的にするか見定めた。


「お前だぁ!」

「ちっ!俺か!」


恵魔が飛びかかったのは祐だった。

廉はすぐに祐の援護に回り、背後から攻撃を仕掛けるも、恵魔はしゃがみ込んで膝に肘打ちをくらわせた。


「いっ!」

「二度は喰らわん!」


祐もすぐに恵魔に攻撃を仕掛けるも、恵魔は余裕の表情で避け続けて祐の体力を確実に減らしている。


「その程度なのかよ!おい!」


廉は二人の戦いを見て分析した。

祐はここまでの旅の疲れもあってか、身体中から汗が流れ落ちていた。

先ほどよりも攻撃も動きも遅くなっており、戦いに統一感がなくなっている。

それに対して恵魔は聖燐や祐、自分自身とも連戦しており、今は二人を相手にしているが疲れの表情は一切ない。

あの開眼の力なのか、疲れを感じないのか?と愚痴を溢してしまう程だ。

それに彼女は分かっている自分よりも祐の方が体力的に余裕がない事を。


「やはり、眼を開けなきゃ……ダメなの?」


心の中にある不安の一言。

どうなるか分からない。

それに開眼するトリガーとは一体何なのか、廉は分かっていない。


「条件……目を開く条件」


特定の条件がトリガーとなり、自我を忘れて開眼する。

その条件を廉は何度かあった過去を振り返った。

高校で祐と喧嘩をした時、獄門学園で灯と戦った時、ひょっとこと戦った時、恵魔と戦った時の4回。

そして過去に起きた恵魔を止めるために開眼した。

だけど、その戦いの中でどのような瞬間がトリガーとなって開眼するのか。

そうやって考えている間も、祐は防衛するので精一杯であった。


「廉姉!何か浮んだか!」

「分からない……何がトリガーなのか!」


祐は後方に引くと望江が落とした鞭を拾い上げた。


「望江!貸してもらうぞ!」


祐は鞭を地面に何度打ち付け、迫る恵魔に鞭を足元に向けて直線状に放った。

目にも止まらない速さ。だが恵魔にはその動きは遅く見え、簡単に避けられてしまう。

だが祐は笑った。


「その早さが欠点に!」

「ん?」


真っすぐと伸びた鞭の先には、先ほど守衛達が撃った麻酔弾が落ちていた。

麻酔弾を叩いて宙に浮かせ、もう一度上に叩き、こちらに引き寄せた。

この手捌きに望江も驚いた。


「凄い!私の技をここまでこなせるなんて!」

「見様見真似だけどな!」


祐は空高く飛び上がって、恵魔の真上を飛び越えて麻酔弾をキャッチし、そのまま背後より麻酔弾を投げつけた。


「あたるか!」


恵魔は大きく身体を捻って紙一重で避けた。

だが、祐もそれを理解しており、再び鞭を伸ばした。

避けられ、地面を跳ねた麻酔弾に鞭を巻きつけて、力一杯自分の元に引き寄せ、避けた反動でバランスが整っていない恵魔の肩に麻酔弾をブッ刺した。


「ぐっ!」

「よし!ブッ刺さったぜ!」

「こんな物を!」


恵魔はすぐに麻酔の針を抜いて投げ捨てた。

だが、その場に止まって片膝をついて、身体を震わせ始めた。


「くっ、目が……意識が」

「相当効き目のある麻酔の力があるようだな」

「復讐が──」


その言葉を最後に恵魔は力なくぶっ倒れた。

祐は近づき、ぶっ倒れた恵魔に近づく。


「ようやく眠ってくれたようだな。これで祭りも終わりだ」


安堵する祐。

だが、廉は違った。恵魔が倒れたのに、不思議な気分だった。


「何かおかしい……」


廉は何かを感じていた。

意識を失っているはずなのに、その場にいる全員が未だに身動きが取れていない。

恵魔の睨みがまだ解けていないと言う事。


「待って祐!様子が──」

「ん?」

「前を見て!」


一度祐は廉の元に振り返った。

その時──


「なんてねぇ」

「何っ!?」


気絶したと思っていた恵魔が立ち上がり、祐へと爪を振りかぶった。

不意打ちの攻撃に避ける事はできず、祐は腹部を深く切り裂かれた。


「ぐっ!」

「残念演技派な俺に黙れたなぁ!おい!」


祐は腹を押さえって下がり、廉の元へと引いた。


「祐!大丈夫!?」

「大丈夫だ!血がいっぱい出ている事を除けば」


祐は腹を押さえていた。

抑えているの指の間からおびただしい程の血が流れ落ち、地面に垂れていた。


「やべえ、より怒らせたかも……」

「それよりも祐!怪我が!」

「へっ、こんなもんよ。痛くねえよ、いっ!」


本人は大丈夫と言っているが血は止まる気配がなく、抑えている手が震えている。

息を余計に荒くなっており、確実に体力が低下している。

それでも、祐は我慢していた。


「にしても、アイツ確実に針が刺さったはずだ。薬もちゃんと入ってたし……」

「……彼女の身体に薬は注入されたわ。でも、よくあの子の身体を見て……」


恵魔の身体を見ると多くの切り傷やアザが出来た傷跡まみれの身体。

だが、よく目を凝らすと身体のあちこちに注射針が刺さった跡が至る所にあった。


「看守や生徒らに痛ぶられた傷だけじゃない。あの子の身体には何発、いや何十発もの麻酔弾を受けていたのよ!」

「つまり、免疫力って奴がついたって事なのか?」

「そうゆう事ね。身体が防衛しているのよ」


その答えに恵魔は拍手をしながら、二人に近づいてきた。


「御名答。こんなもん免疫つけば、蚊ほども痛くねぇんだわ!おぉ!最初は嫌だったなぁ。痛いし、ボコボコされるから、刺されるたびに身体に命令し続けた。慣れろってなぁ!おかげさまで身体はより健康になっちまったよ」

「あぁ、とち狂った奴の会話って感じだな」


恵魔は全ての指をクネクネと不気味に動かしながら攻撃するタイミングを伺っている。

祐は何かを思い浮かべて、痛む体を動かして、廉の前に立つ。

 

「俺がまた行く!」

「でも、身体が!」

「俺なんかよりも廉姉の方が頭も良いし、体力だってまだまだある。何かを掴めるはずだ!とにかく頼むぜ!」


祐は恵魔に向かって走り、腹を押さえている手を大きく振り、手についている血が恵魔の顔に当て、視界を奪った。


「血如きでぇ!」

「おら!」


視界の一部が遮られながらも恵魔は攻撃を仕掛けた。

祐は直撃寸前で体を屈めてスライディングを決め、恵魔の両足を振り払い、バランスを崩した。

そして地面に手をつけて互いに立ち上がるが、祐が若干早く立ち上がり、恵魔の顔面に足蹴りを喰らわせた。


「血は染みるなぁ。やっぱ」

「くっ!頑丈なやっちゃ!」


恵魔は祐の足を掴み、その爪で握りしめて足の肉に爪をめり込ませ始めた。


「耐え切れるかなぁ?お前さんにぃ」

「ぐっ!ぐわぁぁぁ!」

「お姉ちゃんよぉ!早く眼ぇ覚まさねえと妹ちゃんがより苦しむぜ!」

「惚けた事言ったんじゃねぇ!」


祐は残った足で飛び上がり、顔面にもう一発蹴りを入れて、無理矢理手から引き離した。


「くっ……」

「腹も足もボロボロじゃんが、それもよぉく戦うな全く」

「こんなもんじゃあ、喧嘩としてもまだ飽きたらねえぜ!」


口・腹・足から血が流れながらも祐は攻撃を仕掛ける。

恵魔にとってもはや相手にすらならないほどにゆっくりで退屈になるほど弱っていた。


「このままじゃ、祐がもっと傷つく……」


焦る廉。

祐はギリギリで戦っているが、もう限界であろう。

また、自分のせいで誰かを失ってしまうの?

事故であの人が死んだあの日も、祐と学校で喧嘩した日も自分の責任であったと責め続けた。

だからこそ大事な人が自分から離れていくのが、とても怖かった。

そんなトラウマが蘇ってしまうと、身体がまた支配されそうになる。

また不安が自我を奪う時、我が見失いそうに──


「いや、違う!」


廉は頭を振って不安を振り払った。

もう我を忘れないと決めたんだ。

恐怖を乗り越えて、恐怖を飲み込む。

そして、その不安そのものを我が物とするんだ。


「自分に悲観するからこそ、あの時の自分になってしまう!自分が恐怖を恐怖だと感じ続ける限り、永遠の恐怖として自分の根に植え付けられてしまう!自分以外を信じれなかったから、恐怖を受け入れるしかなかった。でも今は違うの!」


信じれる者がいなかった学校生活。

ただ周りにいて私じゃなくて、私と共にいる自分が好きなクラスメイト達。偽りの友情だと分かっていたけど、それでも自分は自分のイメージだけを考えて偽りの友情を押し倒していた。

でも、ここは違った。

皆が自分の我をぶつけ合い、己の感情をただただ吐き出す悪く言えば野蛮。でも、よく言えば真正面からぶつかって来る。


「偽りの友情じゃあない!こころから自分をさらけ出せる友情なの!」


彼女らの声からは偽りは感じなかった。荒々しいけど、優しく、私を表から見つめてくれた。

だからこそ、恐怖なんて友情の一文字があれば、怖くない。


「自分を他人を信じる。皆を、周りの友達や妹を守る。みんながいるから、私は変われて、私自身を信じる事が出来た! 皆んながいれば怖くない! 開け……私の眼!」


その決意が廉の心を、思いを変えた。

その瞬間、廉の眼が変わり、眼球が細くなり、雰囲気もオーラも全てが変わった。

戦ってる二人もその力を感知して、互いに動きが止まった。


「廉姉。あの顔……成功したのか?」

「分かるぞぉ、見えるぞ。本当の開眼だな」


祐が疑心暗鬼になる中、廉は腕を振り上げて親指と中指を当てて、この島全体に響き渡るほど大きな音を鳴らした。

その音に聖燐や望江はひっくり返りそうになった。


「うわっ!なんて音……」

「ずっこけそうだった……ってあれ?動ける?」

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